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富良野市×北海道大学×日本オラクルの産官学連携「スマートシティ推進支援プロジェクト」

富良野市の課題解決に北大の学生がデジタルで挑む、プロジェクト報告会

2023年03月29日 08時00分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 北海道富良野市の「スマートシティ推進支援プロジェクト」2022年度最終報告会が2023年3月28日、富良野市役所およびオンラインで開催された。

 同プロジェクトは北海道大学(北大)の「博士課程DX教育プログラム」に位置づけられるもので、同博士課程の学生が富良野市から提示された課題に対して、オラクルのクラウドサービスを活用したデータ分析/可視化を通じて課題解決の施策を提案するもの。富良野市は施策案を参考に実証実験の検討などを行い、スマートシティの取り組みを推進していく。

富良野市役所で行われた2022年度最終報告会の模様

北海道大学の学生から課題解決の施策案が発表された

富良野市の課題を「データ分析」で解決していくDX教育プロジェクト

 2021年度に実施された第1回の同プロジェクトでは、観光客減少とコロナ禍で落ち込んだ「地元名産『ふらのワイン』の売上回復」がテーマとなった。学生は販売データを分析した結果から、ミニボトルでのワイン販売を提案。道内コンビニなどで試験販売したところ、講評を博したという。学生からの提案を受けて、ワイン工場のWebサイトもリニューアル予定だ。別のテーマとして「ゴミのリサイクル率向上」もあったが、こちらではアプリを活用した収集作業効率化の実証実験開始という成果も生まれた。産官学連携による活動としても全国から関心を集めている。

 2年目となった2022年度のプロジェクトでは、「富良野市民の省エネ行動変容によるカーボンニュートラルの促進」と「富良野スキー場の若年層の顧客開拓」という2つの課題に取り組んだ。北海道大学の10人の学生が2チームに分かれて活動を行い、「Oracle Cloud Analytics」などのツールを活用しながら検証と検討を実施。今回開催された最終報告会で、施策の提案を行った。

 富良野副市長の稲葉武則氏は、これら2つのテーマはいずれも富良野市にとって重要な政策課題であり、「データ分析をもとにどのような提案が行われるのかを楽しみにしていた」と語った。「データを分析/活用/連携して施策を立案し、その施策にデジタルを活用することはスマートシティ推進のポイントだ」(稲葉氏)。

2022年度の同プロジェクトで取り組まれたテーマ

 プロジェクトに参加した北海道大学の学生たちは、2022年10月のキックオフミーティングののち、6回の授業とワークショップを実施。このワークショップで仮説立案を行い、富良野市から提供されたデータや各種オープンデータを分析しながら仮説検証を繰り返した。さらに現地でのヒアリング、視察といったフィールドワークを通じて“自分ごと化”しながら、課題解決に向けた施策を検討し、今回の提案発表につなげた。

学生たちが取り組んだ今年度の活動サマリ

市民の一人ひとりの小さな行動変容を促す「ハチドリの雫」

 1つめの「富良野市民の省エネ行動変容によるカーボンニュートラルの促進」では、富良野市による調査結果などを活用して、低炭素化に向けた市民の行動変容につながる施策を試行し、「富良野市地球温暖化対策実行計画」の提案につなげることを目指した。

 富良野市では2021年に「2050年 ゼロカーボンシティ」を表明。地球温暖化防止対策や資源エネルギーの有効活用、気候変動への適応策を示しており、市民や事業者、市が協働して、炭素削減の取り組みを行うことや、人口減少に対応した低炭素型交通体系の構築、コンパクトシティ化による省エネへの継続的な取り組みといった課題解決に取り組んでいる。

 今回のプロジェクトにおいて、北海道大学のチームは「ハチドリの雫(しずく)」と呼ぶシステムコンセプトを提案した。

 この名前の由来は「森で家事が発生したとき、動物たちは逃げ出したが、ハチドリだけは小さなくちばしで水のしずくを一滴ずつ運び、火の上に落とし続けた。動物たちは笑ったが、ハチドリは『自分にできることをしているだけ』だと答えた」という寓話だという。市民一人ひとりに“ハチドリ”になってもらい、小さなことからエコ活動、省エネ行動を始めてもらうことを目指す。

「ハチドリの雫」は、市民の「小さなエコ活動」を促すというシステムコンセプト

 ここで言う省エネ行動とは、たとえば白熱電球をLED照明に変更する、液晶テレビの明るさを調整する、古着購入や衣料品回収への協力を行うといった小さなことだ。こうした行動によるCO2削減量をアプリで蓄積/集計し、富良野市民全体のCO2削減量としてWebや地方紙、インフルエンサーなどを通じて発信することで、市民の環境貢献度を可視化する。

 さらに、こうした省エネ行動にポイントを付与することでメリットも還元する。リサイクルを促進するフリーマーケットの開催、公共交通機関の利用促進、食料品店での旬の食材コーナー設置など、市民/事業者/富良野市の三者がそれぞれ恩恵を得られる「三方よし」の関係を築き、持続性を持たせるというアイディアだ。

省エネ行動の結果を集計し、環境貢献度を可視化する。また市民/事業者/富良野市の三者が、それぞれ恩恵を得られる関係づくりも視野に入れる

 同チームでは、「富良野市はゴミのリサイクル率90%を実現しているほか、生ゴミのたい肥化、資源循環の実績、富良野市自然塾による環境教育を実施するなど、環境問題に対する“シビックプライド”を備えており、住民参加型のカーボンニュートラル実現の土壌がある」と指摘。今回の仕組みが、カーボンニュートラル達成の足がかりになることを期待していると語った。

観光客に「富良野の冬の魅力」を提案、観光活性化につなげる

 もうひとつのテーマである「富良野スキー場の若年層の顧客開拓」では、富良野市が公開している観光関係情報やオープンデータの分析のほか、中長期の観光戦略である「FURANO VISION 2030」の取り組み成果なども反映させながら、富良野スキー場のブランディングや施策を検討。若年層の顧客拡大につながる観光施策や実行計画の提案を行った。

 富良野市では、観光産業が農業と並ぶ基幹産業の1つとなっている。「ふらのワイン」「ふらのチーズ」といった特産物があることに加えて、テレビドラマ「北の国から」のロケ地としても全国的に知名度が高い。ただし、昨今では若年層における認知度の低下が課題となっている。実際に、富良野市が観光客を対象に行った調査でも、20代の回答者比率はわずか2%にとどまったという。

 今年、開業60周年を迎えた富良野スキー場でもその課題は同様であり、若年層のスキー客開拓が大きな課題となっている。

 北海道大学のチームでは、富良野市の観光客推移データを分析し、1998年を境に、スキーのオフシーズンである上半期(4~9月)の観光客数が下半期(10~3月)を上回っていることに着目。今後は「冬の観光客増加」が鍵を握ると考えた。

 「富良野は『夏のラベンダー畑』のイメージが強く、冬のイメージがない。Web検索してみても、上位結果にはラベンダーの写真ばかりが並ぶ。ただし、冬の富良野も知られていないだけで、観光の魅力は多い」(同チーム)

富良野市の観光客推移データ(1966~2021年)を見ると、1998年を境に上半期の観光客数が過半数を占めるようになっている

 こうした発想から、あえて「スキーを伴わない冬の観光客」を獲得する提案を行うことにした。フィールドワークの結果、スキー場を一緒に訪れてもスキーの熟練度によってグループが分かれてしまう課題があること、スキー以外の冬の観光資源として「フラノマルシェ」「歓寒村」「犬ぞり」などがあることなども、そうした提案につながっている。

 具体的な施策としては、アプリを活用して夏に訪れた観光客に冬のコンテンツの割引クーポンを配布したり、スキーに興味のある人にもスキー関連施設を通じてスキー以外の利用提案を行ったりするアイディアが提案された。

夏の観光客に、再度冬にも訪れてもらうための施策を提案

 さらに、SNSによる富良野市の観光情報発信については、大学生らしい視点による分析から、次のように問題点を指摘している。

 「富良野市はインスタグラムによる情報発信を行っている。フォロワー数が多い岐阜県下呂市や、神奈川県葉山市と表示されているコンテンツの魅力はほとんど変わらないのに、フォロワー数には大きな差がある。双方向での情報発信や分析を怠らず、誰に何を伝えたいかを明確にしてニーズを探り続ける努力が必要だ」(同チーム)

 また、富良野=ラベンダーというイメージの強さを生かして、スキーゲレンデをラベンダー色に染めるなど、冬でもラベンダーを活用した訴求を行うことなども提案された。

夏のラベンダー畑のイメージを生かし、冬の富良野でもラベンダーをアピールする戦略も

「必要なデータがない」課題も指摘、次年度以降の取り組みに生かす

 今回の最終報告を受けて、副市長の稲葉氏は「目からうろこ、と言える部分があった。やれることが多いことも理解でき、可視化する重要性もわかった。提案された内容は参考にしていきたい」と、今後の取り組みに生かしていく姿勢を示した。

 また、北海道大学 副学長の石森浩一郎氏は「研究で大切なのは問題を抽出して解決すること。今回の取り組みは、それを学ぶのにはいい応用だった」と、教育プログラムとしての成果を評価した。同大学では「地域貢献」も目標に掲げており、今後もプロジェクト活動を継続的に進めていくとしている。

 日本オラクル 執行役員 クラウド事業統括 公共・社会基盤営業統括の本多充氏は、学生による提案内容を評価し、エールを送った一方で、「今回のプロジェクトを通じて、富良野市に『必要なデータがない』という課題も浮き彫りになった」と指摘し、富良野市にはその対策も考えてほしいと要望した。

 北海道 次世代社会戦略局 局長の所健一郎氏は、省エネ行動変容の提案については「市民が中心となって、やれるところからやるという提案がすばらしい」、また富良野スキー場への提案については「富良野市には冬のイメージがない、と行政側からは言いにくいことを指摘している」と評価した。「『デジタル田園都市国家構想』が推進されているが、ここではデジタルを活用することよりも『地域を良くする』『社会を良くすること』が大切。そうした思いが今回の提案のなかに入っていた」(所氏)。

 なお、同プログラムは2023年度も継続予定となっており、富良野市掲げる重点施策のなかからテーマをピックアップすることになる。富良野市では「環境部門、観光部門を中心として課題の洗い出しを行う。この2年間(のプロジェクト)で得られた知見や課題を生かして、さらなる進展を目指したい」としている。

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