このページの本文へ

AIは人間を凌駕するという意見に対抗できる可能性を体験できる「デヴィエーションゲーム展ver 1.0 ー模倣から逸脱へ」ワークショップ体験レポート

2023年03月17日 11時00分更新

文● 相川いずみ/編集● 村野晃一(ASCII編集部)

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

「デヴィエーションゲーム展」

 小学生がChatGPTで作った読者感想文を提出し、Midjourneyで生成された絵がコンテストで1位をとる時代、次々と登場するAIに脅威を感じる人もいるだろう。しかし、人間の創造力はまだまだ捨てたものではない。そんな可能性を拓くのも、また人間ならではの力なのだ。2023年3月4日から渋谷の「シビック・クリエイティブ・ベース東京(CCBT)」で行われているイベント「デヴィエーションゲーム展」では、AIの「模倣」から、「逸脱(デヴィエーション)」して、人間の想像力と創造力を駆使して新しい表現を生み出す体験ができる。本稿では、デジタルネイティブの子どもとともに体験したワークショップの様子をお届けする。

人間の新しい表現は、思考を「逸脱」させることから始まる

 「それじゃあ、AIに勝つにはどんな風に描いたらいいかな?」

 3月のある日、渋谷駅から徒歩数分にある「シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]」では、小学生がAIに対抗すべく、iPadの前で頭を悩ませていた。

 これは、3月4日~26日に行われているイベント「デヴィエーションゲーム展」でのワークショップの一コマだ。

 近年、ChatGPTやMidjourneyなどによって、AIがクリエイティブな領域に進出し、「人間が創作したものと区別がつかない」「人間は負けてしまうのでは」という意見も聞かれるようになった。

 だが、果たして、それは本当なのか。

 その意見に対抗するひとつの可能性を、この「デヴィエーションゲーム展」は見せてくれた。

 「デヴィエーションゲーム」は、画像と自然言語を認識するOpenAIの最新モデル「CLIP」のエンジンを用いたオリジナルのゲームを通して、AIの模倣性や認識から、人間が「逸脱(デヴィエーション)」する思考をするすることで、新しい表現の可能性を探っていくというものだ。

 制作しているのは、メディアアーティスト/インタラクションデザイナーの木原共氏と、デザイナー/アーティストのPlayfoolだ。木原氏は、「思索のための玩具」をテーマにしたゲームや実験的ソフトウェアの開発を行い、社会に新しい視点を提供する作品を発表している。Playfoolは、ダニエル・コッペン氏とサキ・コッペン氏の2人組ユニットで、「あそび」 をテーマに創造性を育む道具を探究し、YouTubeでも様々な作品を発信している。

AIが見たことのない絵を描くお絵描きクイズ

 ワークショップでは3種類のゲームを通して、新たな表現方法を考え、AIがどのように世界を認識していくか、その過程を知ることができる。筆者が体験した回は、小学生から大人まで10人ほどが参加し、ゲームに挑戦した。

 まず、展示にもなっているゲームを体験。AIと人間、どちらが先に描かれた絵を当てられるかという、いわば「お絵描きクイズバトル」だ。

 人間の1人が出題者となり、「猫」や「宗教」など提示された3つのお題から1つを選び、それを回答者がわかるような絵に描く。ただし、回答者としてAIも参加しているので、普通にわかりやすい絵を描いてしまうとAIに見破られてしまう。「AIが認識できない、過去に存在しなかった新たな表現を模索する」ことが目的で、どのように工夫して表現するかが、このゲームの最大の醍醐味だ。

出題者は、お題に沿って、絵を描く

回答者は、表示された絵を見て、何を表しているかを答える

答え合わせの時間。コップの一部のみを描いたことで、AIは「見たことがないもの」と判断し、人間の勝利となった

 ゲームには小学生から大人までが参加し、「どのお題にしよう」「どう描いたらいいかな……」「うーん。これは何の絵だろう」と悩みつつ、AIとのお絵描きバトルを楽しんでいた。

 出題者はお題をそのものを描くのではなく、考えながら、あえて連想させるものを描いていた。一部の線を省略したり、デフォルメしたりして、「人間に推測させる」など、様々な工夫が凝らしていたのが印象的だった。

 次に、ワークショップでのみ体験できる2つのゲームを行った。「相反概念ドローイングゲーム」は、2チームに分かれ、相反する2つのテーマを描き、AIに判定してもらうというものだ。「概念ドローイングゲーム」は、「愛」というテーマで個々がモチーフを描き、AIの認識精度100%を目指す。「どんな絵を描けば、AIは愛と認識するのか」を探っていくゲームとなっており、人間ならではの柔軟な発想が試される、未知の経験となった。

 どちらのゲームも大いに盛り上がり、参加した小学生は「もっとやりたかった。ゲームが難しくなればなるほど面白い」と話していた。

「愛」というお題に、花と星を描いた小学生

「AIにもできないことがあって親近感が湧いた」

 ワークショップを終えた帰り道、一緒に体験した14歳の息子に感想を聞いてみた。2007年に誕生したiPhoneとほぼ同い年のデジタルネイティブは、このAIと共存する世界をどのように考えているのだろうか。

 すると、「まず、『近年AIが人間の仕事を取ってしまう』って警戒されていて、そういう仕事の人はAIに対して敵対心みたいなのを抱いている気がする」と話しつつ、「でも、今回のワークショップはそのAIの抜け道を探していくことで、人間の感覚とAIの感覚、人間とAIの大きな違いが明確にわかる体験ができてすごく面白かった」と話していた。

 さらに、ワークショップを体験する前と体験後でのAIに対するイメージを聞いてみると、「AIは、あくまで自分が持っているデータを通しての回答が多かった。対して、人間は自分が見たことがないもの、知らなかった形でも、『こういうものなんじゃないかな』という想像で入っていくことができる。そこが大きな違いなのかなぁって思った」という。そして、「AIでも結構できないことがあるって親近感が湧いたよ」と感想を伝えてくれた。

「お題の中でも、概念を描くのは難しい」と話していた

「AIが人間を模倣する時代は終わった」

 「デヴィエーションゲーム」の元となっているのは、コンピュータ科学の父、AIの父とも言われる数学者、アラン・チューリング氏が考案した「イミテーション・ゲーム」だ。AIに人間のふりをさせ、会話している相手が人間かAIかを推測させるというものだが、木原氏は「もう、AIに人間の模倣をさせるフェーズは終わったのかもしれない」と話す。

木原共氏

 PlayfoolのSaki氏は、「逸脱をするための道具としてAIを使っていたが、私たちが逸脱すればするほど、AIはそれを学ぶので、"いたちごっこ"になる。しかし、AIに仕事を奪われると怖がるよりも、AIを道具として向き合い、その中で新しい表現をつくっていこうというのが、プロジェクトの根幹にある」と話していた。

 2022年7月からスタートした「デヴィエーションゲーム」のプロジェクトは、日進月歩で進化するテクノロジーとともに、常にアップデートされている。会期中のワークショップでも、参加者の反応や作品などを見て、毎回ルールを変えていくことで、さらに模索を続けていくという。

 人間はAIのようなビッグデータを所蔵することはできないし、処理能力も到底かなわない。しかし、「デヴィエーションゲーム」は、試行錯誤を重ねてきた人類の1つの過程であり、挑戦であり、そして同時にテクノロジーとの共存への大きな可能性を提示してくれたと感じた。

「デヴィエーションゲーム」は3月26日まで開催中

 今会場となったCCBTは、東京都と東京都歴史文化財団が2022年11月に、デジタルクリエイティブの創造拠点として設立したものだ。ラボやスタジオなどを備え、展示やワークショップなどの様々なプログラムを通じて、東京からイノベーションを生み出すことを目的としている。「デヴィエーションゲーム」は、CCBTのアート・インキュベーション・プログラムの一環として制作されたものだという。

 あとわずかとなったが、3月26日まで「デヴィエーションゲーム」の展示が行われているので、興味を持った方はぜひ足を運んで体験してみてほしい。

Deviation Game ver 1.0 (日本語字幕) from Deviation Game on Vimeo.

 また、渋谷区社会福祉協議会が運営する"こどもと食"をテーマにした施設「景丘の家」の3月のアートスクールでも、「Deviation Game -AIと競争&共創する」が開催される。

●「デヴィエーションゲーム展」
開催期間:3月4日~26日
開催場所:シビック・クリエイティブ・ベース東京(東京・渋谷)
URL:https://deviationgame.com/

●景丘の家 アートスクール「Deviation Game ─AIと競争&共創する」
開催期間:3月26日~26日
開催場所:景丘の家京(東京・渋谷)
URL:https://kageoka.com

※先着順のため、受付が終了している場合があります

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン