まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第83回
【第2回】「少年ジャンプ+」編集長細野修平氏による大学特別講義
少年ジャンプ+が大ヒットの確率を上げるために実行中の成長戦略とは?
2023年04月01日 15時00分更新
すでにグロース・ループが回り始めている
これからの「少年ジャンプ+」についても、ちょっとお話します。
ミッションといたしましては、先ほどから申し上げている通り、「週刊少年ジャンプを超える!」「『ONE PIECE』『鬼滅の刃』を超えるような大ヒット作を出す!」です。
そこに近づくために目標を立てています。1つめは「毎日100万閲覧を超える作品を作る」ですが、ここは達成しつつあるのかなと。次の目標は、「1週間に1000万人の読者に来てもらう」ということで、ウィークリーのアクティブユーザー1000万を目指しています。
さらにその次の目標と言いますか、最終目標になるのですが、「最新話が毎回1000万人に閲覧される作品を作る」。これがそのまま大ヒット作品を指すかなと思っています。
そして、大ヒット作品を出すための成長戦略を3つ考えています。まず、先ほども言及した「新人主義」。次に「アンケート・システムを超える」。そして最後が「ライブ感の醸成」です。
1つめの「グロース・ループ」は下図の通りで、仮に「新連載を作る!」から始めるとすれば、まず連載を作ることで読者が集まってきます。読者が集まることで「少年ジャンプ+」の注目度が上がっていきます。そして新人作家が集まってきて、その作家陣から尖った才能があらわれ、その新人が新連載を開始することでまた読者が集まり……というループです。
ここで大事なのは、新連載は「ここでしか読めない」こと。それが「少年ジャンプ+」という場を高めてくれると思っています。
このループを回していくうちに、尖った才能のなかからヒット作が出てくる、と。ヒット作が出ると読者がまた集まってくる……ということで、これが回り始めると、徐々に1個1個の輪が大きくなっていって、結果、大ヒット作が出てくることになるのかなと思っています。
最近ですと、これで一番上手くいったなと思っているのが『タコピーの原罪』という作品です。タイザン5先生は、先ほど紹介したジャンプルーキー!出身。まさに、新人作家の新連載からヒットが出たということで、グロース・ループが上手く回り始めているのかなと。
そして戦略の2つめは「アンケート・システムを超える」。「週刊少年ジャンプ」のアンケート・システムというのは、他作品と切磋琢磨して、誰もが納得するフェアな基準というものを持っていますので、これによって作品を面白くするフィードバックが得られるというふうに考えています。
「ジャンプ+」もこれをやりたいと思って、今色々な数字を取っています。閲覧数、いいジャン数、完読率、面白かった率、各種アンケート……これらを活用することによって作家さんにフィードバックしてマンガを改善していければと。ちょっと前に流行った言い方だと「PDCAを回していく」ための資料として数字をどんどん取っていこうと思っています。
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