多様性社会の半歩先の未来を体験!「分身ロボットカフェDAWN ver.β」に行ってきた!

文●アカザー 編集●ASCII STARTUP

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この記事は、国土交通省による歩行空間データの活用を推進する「バリアフリー・ナビプロジェクト」(外部リンクhttps://www.barrierfreenavi.go.jp/)に掲載されている記事の転載です。

 どうもアカザーです! 2000年に脊髄を損傷して以来、22年間車いすユーザーのオレです。今回は2021年6月のオープン以来、ずっと気になっていた「分身ロボットカフェDAWN ver.β」に行ってきました。

 運営している株式会社オリィ研究所の所長で分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」の開発者である吉藤オリィ氏へのインタビューも行ないましたので、今回と次回の2回に分けてその模様をお届けします。

“誰も孤独にならない社会”を実現するための“分身ロボットカフェ”

 東京・日本橋にある「分身ロボットカフェDAWN ver.β」は、ALSなどの難病や重度の障害などさまざまな理由で外出困難な人が、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」や「OriHime-D(オリヒメ ディー)」などを遠隔操作して接客を行なっているカフェ。

2021年6月に日本橋にオープンした「分身ロボットカフェDAWN ver.β」の常設実験店。

 吉藤オリィ氏は、このカフェのオープンにあたり「我々は、たとえ身体が動かすことができなくなっても、あらゆる人が自分らしく社会に参加できるようなテクノロジーを開発しています。『分身ロボットカフェDAWN ver.β』常設実験店では、さまざまな障害や事情で外出困難な人たちがどうやってベッドの上から社会に参加し続けていくのか? 多くの仲間と共に開発・改良を続けていきます。誰も孤独にならない社会を目指す、ワクワクする未来を迎えにいくための答えを求めて、私たちの挑戦・社会実験にぜひご参加ください」と語っています。

 そうなんですよ! 「分身ロボットカフェDAWN ver.β」はただ障害者や外出困難者が遠隔操作でロボットを動かし、接客を行なっているだけのカフェではないんです。今後の多様性社会の新しい働き方の可能性を模索するための世界初の社会実験なのです!

 というワケでオレもその社会実験に参加するために「分身ロボットカフェDAWN ver.β」の扉を開け、いざ入店!

店内に入ってすぐ目の前には、受付担当の分身ロボット「OriHime-D」が。

緑が多い店内はロボットや車いすが移動しやすいよう、動線が広くとられたつくりになっている。

 店内は緑が多く、一見した感じ外苑前あたりにあるオシャレなカフェといった雰囲気。しかし、レジカウンター横には小学生ほどの大きさのロボットが。どうやら彼? 彼女? が受付担当の分身ロボットOriHime-Dみたいです。

 身体の前に持っているトレーの上には“目が光っているとお話できます。お気軽にお声がけくださいね!”と書かれたPOPが。その後ろのiPadの画面には、OriHimeパイロット(※OriHime操縦者の呼称)おおのっちさんの写真と彼のプロフィールが表示されていました。そしてOriHime-Dの目はオレンジに光っています。……ということはこのロボットは現在おおのっちさんが遠隔操作をしているとみた!

全長約120センチの分身ロボット「OriHime-D」が受付を担当。この日のパイロットは頸椎を損傷し数年前より電動車いすユーザーになったおおのっちさん。自宅から操作して受付で接客をしている。

 せっかくなので「こんにちは」と声をかけてみると……。ロボットから「いらっしゃいませ」の声が。おおのっちさんは以前は飲食業に従事されていましたが、数年前に頸椎を損傷して以来は電動車いすユーザー。この日はリモートでOriHime-Dを操作し、受付業務をしているとのこと。

 おおのっちさんに、席の予約をしていることを伝えると、「係りの者をお呼びしますのでしばしお待ちを」とのこと。ほどなくして生身の店員さんが現われ、席まで案内してくれました。

 なるほど。このカフェでは障害者は分身ロボットのパイロットとして、健常者は通常のカフェのスタッフとして、それぞれができる仕事を手分けして運営するスタイルなんですね。

テーブルにつくやいなやOriHimeふたりによる接客が!

 案内された座席につくと、テーブルの端には「OriHime」とiPadが。iPadの画面にはOriHimeパイロットさきさんと彼女のプロフィールが表示されています。さきさんは大学生で趣味は3DCGとギターとのこと。

テーブルの端には「OriHime」とiPadが設置してあり、注文をとってくれたり一緒におしゃべりができる。(※席は予約推奨)

 こうやって話す前にパイロットの方のプロフィールが知れるのはいいですね。リアルな知り合いとのリモート通話などはさほど緊張しないのですが、リアルで会ったことがない人とのリモートはまぁまぁ緊張するというか、何を話していいのかわからないオレなので、こういう話題にできそうなプロフィールを知れるのはありがたいです。

 ちなみに「分身ロボットカフェDAWN ver.β」には、以下3種類のシートがあります。

●【OriHime接客席(OriHime Seat)】……分身ロボットOriHimeによる接客とともに、食事やスイーツを楽しめる席。(※予約推奨)
●【テレバリスタ(Tele-Barista)】……バリスタ研修を受けたパイロットがOriHime&NEXTAGEを遠隔操作し、目の前でコーヒーを淹れてくれる席。(※予約推奨)
●【カフェ席(Cafe Seat)】……セルフサービスで気軽に利用できるカフェ席。コンセントやWi-Fiが設置された席や、車いすが椅子として利用できる席も。(※予約不要)

バリスタ研修を受けたパイロットがロボット「OriHime&NEXTAGE」を遠隔操作し、コーヒーを淹れてくれる席もある。

 今回体験させてもらうのは、分身ロボットOriHimeによる接客とともに、食事やスイーツをいただける【OriHime接客席(OriHime Seat)】です。予約推奨とのことだったので、事前にネットから予約しておきました。

分身ロボットOriHimeによる接客があるシートは公式ページからの事前予約がオススメ。

 さっそくさきさんに取材の旨を話し、分身ロボットOriHimeを使った30分の接客がスタート! するやいなや、テーブルの反対側からOriHime-Dが水の入ったグラスをトレーに載せ運んで来てくれました。トレーからグラスを受け取り自分でテーブルへ置きます。

 OriHime-Dの胸の液晶画面にはOriHimeパイロットにまさんの表示が。話をしてみると、にまさんは都内の自宅から遠隔操作をしているとのこと。しかし、いきなり複数台のOriHimeからのもてなしを受けるとは!

「OriHime-D」がトレーに載せて運んできた水を、OriHimeパイロットにまさんの「トレーからグラスをお取りください」の言葉を受けてテーブルに移動させる。

 テーブルに設置してあるOriHimeパイロットのさきさんはこの仕事をはじめて約1年の大学生。中学2年生のときに病気を発症し、現在は車いすを使って生活しているとのこと。大学で障害者雇用に関するレポートを作っている際に、OriHimeパイロットの募集を知って応募。OriHimeパイロットのアルバイトを通して、自身の就労の形を考え、将来に繋げていければとの思いがあるということです。

 さきさんはこれがアルバイト初体験とのことで、最初の頃は30分お話するという接客業に緊張しっぱなしだったとか。また、シフトによってはテーブルに設置してあるOriHime以外にも、自走し移動が可能なOriHime-Dで、エントランスの受付や席まで水を運んだりする業務にあたることもあるとのこと。

店内を移動し、水を運んだりする業務にあたる「OriHime-D」。床にひかれたガイドマーカーに沿って移動していた。

 ちなみにさきさん曰く、OriHime-Dを動かして水を運ぶ業務がいちばん難しいらしく、何度もテーブルなどにぶつけたりしてしまったとか(笑)。逆にこの仕事をしていていちばんうれしいのは、いろいろな方々と話すことで自分自身の視野がすごく広がったこと、と話してくれた。また、海外からのお客様も多いので英語の勉強もするようになったとのこと。

 そんな感じでさきさんと話が盛り上がり過ぎて、カフェなのにすっかり注文を忘れていました!

 注文をする際にはiPadの画面がメニューにはやがわり。さきさんはウエイトレスさながらの手際の良さでメニューを表示しつつ、「写真が見たいメニューがあれば表示しますのでおっしゃってください」とのこと。せっかくなので、さきさんのオススメメニューを聞いてみました。

 ふだんは富山県の自宅からOriHimeパイロットをしているさきさんですが、以前一度だけここ日本橋にある「分身ロボットカフェDAWN ver.β」を訪れたことがあるとのこと。その時に食べた「エビとアボカドのサンドウィッチ」がおいしかったと、写真メニューを表示させながらオススメしてくれました。ここはオススメに従って注文をお願いすると、さきさんがリモートでオーダーを厨房へと通してくれました。

さきさんオススメの「エビとアボカド‒バジルソース‒(スープ付き)」。食べ物は店員さんが席まで運んで来てくれる。

 この辺の接客は、最近増えている席に設置してあるタッチパッドを使って自分自身で注文する方式と、店員さんが席までメニューを聞きに来てくれる通常接客のちょうど中間のような接客だと感じました。でも、富山にいるさきさんに注文をお願いして、富山からオンライン経由で目と鼻の先にある厨房にオーダーが飛んでいることを考えると、何か不思議な気持ちになります。(笑)

 注文が運ばれてくる間、さきさんに他のOriHimeパイロットさんたちはどういう方なのをお聞きしてみました。

 「基本的に外出困難な方が多いのですが、すべての方が障害者というわけではないです。重度障害者の介護者や海外に居て働く場所を探していらっしゃる方などさまざまです、実際にオーストラリアやイタリアからOriHimeを操作している人もいます。その方たちは時差の面で少したいへんそうですけど(笑)」とのこと。

 そしてその後も会話を続けていくなかで、さきさんの操作するOriHimeが会話にあわせて頷いたり、手ぶりをしたりしてくれることに気付きました。そのせいか、途中からそのOriHimeがさきさん本人であるかのような錯覚を覚えるように!

会話をすればするほどテーブル脇のOriHimeがさきさん本人のような感覚に。

 最初はiPad画面の写真を見ながら会話していたのに、気が付けばOriHimeの眼をみてさきさんと会話している感覚になっている! リモートで画面越しに会話するのとはまた違う、さきさんの魂が宿ったテーブルの上にいるOriHimeと語っているような感覚。なんだかこの2.5次元な感覚が新鮮!

 さきさんとの会話のなかで、オレ自身もOriHimeの中に入ってパイロットの皆さんと同じ景色が見てみたいという気持ちが! そのことをさきさんに話すと、なんとカフェのなかにはOriHime操作体験コーナーもあるとのこと。やはりオレのような気持ちになる人が多く、それを見越してのサービスなのか!?

 というわけで、OriHime接客席でさきさんに癒される30分間を過ごした後、さっそく体験してみることに。

入口近くに設置してあるOriHime操作体験コーナーでは、OriHimeパイロットになったような体験が可能。

すべての操作はiPad画面をタッチすることで行なう。iPad画面にはOriHimeからの視界もシェアされる。

 卓上に置いてあるiPad画面には棚に置いてあるOriHimeからの視界がシェアされており、操作はiPad画面をタッチすることで行なう。視野角は人間のそれよりも少し狭く感じるが、首を動かすことで左右を広く見渡すことができるので問題はナシ。またモーションボタンをタップすることで、さきさんがやっていたようにいろいろな感情表現も可能に。

 さきほどのさきさんとの会話体験のせいか、はたまたOriHimeが人の形をしているせいか、“見守りカメラ”などを遠隔操作するのとはまた違った感覚がありました。OriHimeの身体と意識がシンクロするような感覚。操作しているとOriHimeが自分自身で、iPadの画面に映っている自分が自分じゃないような、まるで幽体離脱しているかのような不思議な感覚になっていきます。

 そうか! OriHimeパイロットの皆さんもこうやってOriHimeと意識をシンクロさせているので、OriHimeがさきさん本人だと錯覚するようになったのかも!?

OriHimeと会話をすればするほど、テーブル上のOriHimeをOriHimeパイロットのさきさん本人であるかのように感じ、OriHimeの眼を見て会話をするように!

 オレが22年前に障害を受け、一生車いすとの宣告を受たときは、ベッドの上で「人生終わった!」と思いました。しかし、数ヵ月が経ちリハビリがすすみ、車いすへの移乗など自分ひとりでもできることが少しずつ増えてきたころ、脳裏に浮かんだのは「介護してもらうだけではなく、人に喜ばれることがしたい!」との欲求でした。

 これはあくまでオレの予想なのですが、OriHimeパイロットをされている方たちの中にも「誰かに喜んでもらいたい! 喜ばせたい!」との思いで働いている方は少なくないのでは? と思います。

 そしてこのOriHimeには障害を持ち社会に貢献したくてもできなかった孤独な人たちの秘めた欲求を実現させ、社会とのつながりをつくるポテンシャルがあると感じました。すでに福岡や札幌にも分身ロボットカフェの期間限定のキャラバンカフェができており、今後は各地でもそういうキャラバンカフェを増やしていくとのこと。

 「分身ロボットカフェDAWN ver.β」を体験したことで、数年後にはこういったカフェ形態のみならず、いろいろな職種で分身ロボットを使っての就労が当たり前になっている。そんな未来が現実味を持って想像できるようになりました。皆さんもこの「分身ロボットカフェDAWN ver.β」で、この世界初の社会実験に参加してみませんか? 半歩先の未来の先取りが体験できると思いますよ!

アカザー(赤澤賢一郎)
週刊アスキーの編集者を経て、現在は車いすのフリー編集者・ライターをやっています。2000年にスノーボード中の事故で脊髄を損傷(Th12-L1)。車いすユーザーになって21年です。2018年に札医大で再生医療の治験を受け、2020年に20年ぶりに歩行!!!

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