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NECプラットフォームズの4事業所で導入、設備稼働率15%向上、計画立案工数90%削減を実現

NEC、量子コンピューティング技術活用の生産計画立案システムを本格導入

2023年01月20日 17時20分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 NECとNECプラットフォームズは2023年1月20日、量子コンピューティング技術を活用した生産計画立案システムの本格導入開始を発表した。2023年3月からNECプラットフォームズの4つの事業所において、電子部品をプリント基板に実装するSMT(表面実装)工程を対象に導入する。これにより、生産設備の稼働率が15%向上するとともに、毎日1~2時間かかっていた生産計画の立案工数を90%削減できるという。

NECとNECプラットフォームズによる今回の取り組み概要と定量効果

NECプラットフォームズ 生産技術本部 マネージャーの重岡雅代氏、NEC 量子コンピューティング事業統括部長の泓 宏優氏、NEC スマートインダストリー統括部シニアビジネスプランナーの北野芳直氏

 NECプラットフォームズでは、NECのメインフレームやサーバー、ネットワーク機器、POS、車載製品などを製造している。こうしたICT機器製造のSMT工程では、1ラインで複数の品種を生産する「混流生産」が基本となっており、1日に約30品目の基板を生産。品種を変更する際には、数100種類の部品を入れ替えたり、リフローの温度をはじめとした製造条件の設定を変更したりする「段取り」が必要となる。

SMTラインにおける混流生産と「段取り」

 この段取りは生産ラインを停止して行うため、高い生産性を維持するには、段取りにかかる時間の短縮が重要な要素となる。ただし、複数の生産ラインが同時に稼働するなかでは、生産品種や生産数の配分ととともに、段取りのタイミングが重ならないようにしたり、重なり時間を最小化したりする計画が必要となる。その組み合わせは膨大なものとなるため、効率的な生産計画の立案には時間がかかり、立案できる人材も限定されるという課題があった。

 加えて昨今では多品種少量生産が増加し、一方では部品逼迫の問題も生じているため、生産が計画通りにいかないといった課題も浮上。より高度な生産計画の立案が求められていた。

SMTラインにおける生産計画最適化の課題。複雑な条件があるため、最適化を生産計画の立案は非常に難しい

 両社では2019年から、大規模な組み合わせ問題を超高速で処理できる「NEC Vector Annealing サービス」を用いて、2つの事業所において生産計画立案に関する実証実験を行ってきた。この実証実験において、熟練の作業者と同等以上の生産計画を数秒で立案できることが確認できたため、今回の本格導入を決定した。

 NECプラットフォームズ 生産技術本部 マネージャーの重岡雅代氏は、「熟練者の考え方や計画立案のプロセスなどを明文化し、NECの技術者や現場責任者とともに、現場が譲れない条件ともすり合わせながら、どうすれば量子アニーリングで効率的に計算ができるかを考え、いくつかのステップにわけてモデルに落とし込んだ」と説明する。

 その結果として、ベテラン作業者のノウハウを形式知化することができ、熟練者が作業から解放されてストレスフリーになるという定性的効果が得られたほか、これまで感覚的に判断してきた計画の妥当性を定量的に判断できる効果も生まれたという。

 生産する品種は多岐にわたるが、使用部品が共通する(連続的に生産すると効率が良い)品種のグループ、生産オーダーの締切日といった生産条件をシステムに入力するだけでよい。同システムでは、量子アニーリング技術を用いて4×10の30乗通りの組み合わせを数秒で最適化計算し、最適な生産計画を立案する。

 これまで熟練者でも1~2時間かかっていた立案作業が数秒で終わるため、時々刻々と変化する生産条件に合わせて、最適な生産順を動的にナビゲーションすることもできるようになった。段取り工数は50%削減し、設備稼働率は15%向上、立案工数は90%削減できるという。

 「ICTの生産技術に加えて、ものづくりの現場を持っているNECグループの強みによって実現できた。設備稼働率が高まったことで、電力量の削減や生産時間の短縮による製造コストの削減効果もある。最適化のスコープを広げていくほど、全体コストの削減につながる。将来的にはサプライチェーン全体に効果を広げたい」(重岡氏)

これまで1~2時間かかっていた立案作業が数秒で完了するようになった

 NECプラットフォームズでは、同システムをタイ工場のSMT工程にも導入する予定だ。さらに今後は、工場内のさまざまな工程や業務への拡大を進め、生産性の最大化や棚卸の最適化につなげるという。重岡氏は「半導体の逼迫や部品の欠品などの突発的な変動にも、生産計画の変更によって柔軟に対応し、お客様によりよいプロダクツをタイムリーに提供したい」と語った。

 なおNECでは2022年9月、保守・修理サービスを行うNECフィールディングにおいて、量子コンピューティングを活用した保守部品の配送計画立案システムを本格導入した。ここでは配送計画立案作業を10分の1となる12分に短縮したほか、配送効率の30%向上を目指したチューニングを実施している。

将来的には「ものづくりDX」パッケージへの組み込みも推進

 量子コンピューティング分野において、NECではすでに疑似量子アニーリング技術を商用化している。2021年9月からはベクトルコンピュータ「SX-Aurora TSUBASA」を活用したオンプレミス型ソフトウェアライセンスを、また2022年11月からは、クラウドサービスとしてNEC Vector Annealingを提供している。

 これらに加えて、業務課題に対して技術検証などのサポートを行う「量子コンピューティング適用サービス」、人材育成を行う「量子コンピューティング教育サービス」を提供。D-WaveのLeap Quantum Cloud Serviceを、日本語によるサポートを含めてNECが提供するサービスメニューも用意している。

NECの量子コンピューティング関連サービスメニュー

 NECでは、2022年4月に量子コンピューティング事業統括部を設置して以降、12月末までに100社以上に対して、人員シフトのスケジュール最適化、配車スケジュール最適化、配送ルート最適化、荷積み最適化、生産計画最適化、金融ポートフォリオ最適化など、実用化を前提とした提案を行ってきたという。NEC 量子コンピューティング事業統括部長の泓 宏優氏は「量子アニーリングは、組合せ最適化問題を解く決定打になると感じている。2023年度に向けて量子コンピューティング事業が大きなものになっていくという確信がある」と述べた。

 またNECはNEDOの支援を受けて、超伝導回路を用いた量子アニーリングマシンの開発にも着手しており、2023年度後半に実用化する計画だ。量子ゲート方式の量子コンピュータの開発にも取り組んでおり、こちらは2040年の実用化を目指しているという。

 発表会では、NECの「ものづくりDX」についても説明を行った。NEC スマートインダストリー統括部シニアビジネスプランナーの北野芳直氏は、ERPやPLMだけでなくIoTも含めた「ものづくりデータ」の蓄積により、生産現場や業務領域、カーボンニュートラルやサプライチェーン可視化など幅広い目的で活用すると語った。

 「さらに、さまざまな新技術との組み合わせにより、バリューチェーンマネジメントやサプライチェーンマネジメントの最適化を実現。この応用先をメタバースにも拡張していく」(北野氏)

 NECでは、ものづくりDXを仕組みとして提供するだけでなく、データを活用するマインドや、データを有効に利用するための活用プロセスを含めて提案している点も強調した。今回の量子アニーリングを活用した生産計画立案システムも、将来的にはものづくりDXを支える仕組みのひとつとして取り入れ、大企業だけでなく、中堅企業が導入しやすいようにパッケージ化を進め、2024年度の展開を目指すという。

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