BMWがCES2023の基調講演において、次世代EVのコンセプトカー「i Vision Dee」を発表した。これは無駄を省いた新しいデザイン言語を備えた、近未来型EVミドルセダンのコンセプトモデルだ。BMWならではのキドニーグリルやヘッドライトはボディーに埋め込まれ、デジタル技術との融合により、喜びや驚きなど車両が異なる表情を生み出すことを可能にするクルマとされた。
車名の「Dee」とは、「Digital Emotional Experience」の頭文字をとったもので、デジタル・モビリティの未来へ向けたBMWのビジョンを具現化したものして誕生した。さらにこのコンセプトカーは、2025年に登場が予定されている「ノイエ・クラッセ」へ続く、重要なマイルストーンになる次世代モデルとしている。
i Vision Deeの最大の特徴は、E-Linkという技術を使ってスマートフォンで車体の色を変幻自在に変えられることにある。そのバリエーションは32色。これは、CES2022にて発表された車体が白と黒の2色に変化する技術の進化版となる。
その仕組みは、特別に開発されたePaperフィルムでボディーをラップし、これを電気信号によって刺激することで、表面色の色素を変化させてボディーカラーを変える。ボディー表面のラップは240セグメントに分割され、それぞれを個別に制御することでほぼ無限のパターンで色を変化させられるという。
なお、ePaperフィルムをトリミングするためのレーザー切断プロセスと電子制御の設計は、E-LinkとBMWが共同で開発した。
そして、変幻自在なボディーカラーについ目が奪われがちだが、見落としてはいけないのは、i Vision Deeが目指す本当の意味が人工知能によるアシスタント機能にあるということだ。前述の通り、「Dee」には「Digital Emotional Experience」の意味が込められており、ドライバーや仲間たちとのコミュニケーションの中で、個性を持った存在へと進化していくのが、このクルマのあるべき姿なのだ。
また、搭載されたデジタル機能で見逃せないのが、先進のヘッドアップディスプレイと連携して車両のコントロールを一括して実現する「BMW Mixed Reality Slider(ミクスト・リアリティ・スライダー)」だろう。
そこには地図情報やSNSなどを映し出せるほか、AR(拡張現実)を利用した仮想空間のような映像も表現される。ドライバーは、ダッシュボードに設置された「シャイテク」センサーを使ってヘッドアップディスプレイにどの程度のデジタルコンテンツを表示するかを設定できるのだ。運転関連情報や通信で得たコンテンツ、拡張現実(AR)の投影、そして仮想世界へのアクセスなど、5段階のレベルから選択できる。
また、i Vision Deeのヘッドアップディスプレイは、フロントウインドウすべてを使うことで、様々な情報が投影される。その感覚に働きかける没入感に満ちた複合現実を体験することで、かつてない新次元のドライビングプレジャーが楽しめるようにもなるのだ。
そして、音声アシスタントも大きな要素だ。4日の基調講演では、人工知能を使った音声アシスタントを「ほとんど人間のような能力」を持つ技術であると説明し、講演の中でもi Vision Deeが人間のように自然な会話をする様子が披露された。これについてBMWのオリバー・ツィプセ社長は「クルマの人工知能が人の知識を日々学習していくことで、クルマだって人間に近い振る舞いをするようになる」と説明。かつて1980年代の人気TV番組「ナイトライダー」に登場したドリームカー「ナイト2000」に搭載された人工知能「K.I.T.T(キット)」を紹介し、BMWが挑む方向性を示してみせた。
また、これは1つのギミックのようにも見えるが、キーを持った状態で近づくと、サイドウインドウに自分のアバターが表示され、さらに自動でドアが開く仕掛けも備えられた。つまり、ここで乗員の認証が行なわれ、セキュリティーの役割を果たすことになる。まさに近未来のBMWの姿が表現されているのだ。
これらの機能がすべて実用化されるかはわからない。しかし、これから先、自動運転が進むにつれてクルマとのつきあい方は明らかに変わる。その時、クルマは単なる移動手段ではなくなっているはずだ。
ツィプセ社長は「ハードウェアとソフトウェアが融合した時、そこに広がる無限の可能性をi Vision Deeは示している」と説明した。多様なアシスタントサービスが提供されている中で、BMWがどんなサービスに挑んでいくのか、i Vision Deeを通して今後の進化の過程を見届けていきたいと思う。
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