2022年12月3日から12月18日まで、HIKKY社運営のメタバースイベント「バーチャルマーケット 2022 Winter」が開催されました。VR SNS「VRChat」で使えるアバターなどを販売する、メタバース上での大規模な展示即売会です。
会場は「企業ブース」と「一般ブース」の2つに分かれ、参加企業は70社、一般参加者は540サークル。HIKKYによると実際には倍近くの申し込みがあり、参加サークルは抽選で選ばれている状態です。来場者はのべ100万人超で、約4割が海外の方。7〜8割の方がVRハード経由で来場しています。現在はコミックマーケットと同じく夏と冬の年2回開催しています。
バーチャルマーケット(Vket)は、2018年8月に第1回が開催されて、今回で10回目。VRSNS「VRChat」のブームと発展に大きく影響を受けたイベントです。一般ブースを見て回ると、展示販売されているアバターや展示会場のクオリティが毎回上がっているのがよくわかります。趣味で作っている人もいれば、プロとして非常にクオリティの高いモデルを販売する方も出てきています。中には海外モデラーさんもちょこちょこいらっしゃって、日英対話も確実にやっていますね。
VRスタートアップVLEAPの新保正悟CEO(現在)が大学生だった2019年、VRChatを対象とした大規模調査を実施したことがありました。それを見ると、Vketが開催されたことで「販売されているアバターのデータを購入して、自分のアバターに改造して使用する」文化が成立した過程を垣間見ることもできます。
2019年当時は、初音ミクなどの動画制作用に作られていた「MMD」と呼ばれるフォーマットのデータが、勝手にVRChatに組み込まれて流通するといったことが常態化していました。しかしVketが開催されてからは、販売されているアバターを利用するユーザーが大きく増加しています(黄色)。
(出典)利用者調査から見た日本におけるVRChatのコミュニティと経済圏 第五章 VRChatの経済圏について https://note.com/shogo_vr/n/n132de95d3cd5
調査からは「アバターは購入したものを改造」するというユーザーが60%もいたことがわかり、Vketが登場したことによって、ユーザーが自分のアバターを購入し、改造するという文化が、VRChat内で広がっていったことをうかがうことができます。
さらには、「バーチャルマーケットに出展するためにツールをおぼえた人たちがたくさんいた」とも言われています。Vketへの出展を目標として、BlenderやUnityといった開発ツールを覚えてモデルを作るユーザーが多数出たと推察できるのです。これはコミケと漫画の関係に似ているかもしれません。
そんなVketのビジネスモデルについて、HIKKYに「中の人」として関わっていた私から見た姿をご紹介していきます。
きっかけはアバターの個人間取引だった
この創設期のVketの様子については、Vketの立ち上げたメンバーの一人現HIKKY CVO(チーフ・バーチャル・オフィサー)の動く城のフィオさんが9月に出版された『メタバース革命 バーチャル経済圏のつくり方』(扶桑社)に書かれています。
2018年当時のVRChatはアバターの使い方がカオスだったようです。VRChatはシステム仕様上の制約から、他のユーザーが他の人のアバターデータをコピーする(リッピングする)ことは技術的にそれほど難しくはありません。同じVR空間に他のユーザーを表示するためには、他のユーザーのアバターデータをローカルなPC上に展開する必要があり、メモリ上に展開されたデータをコピーできてしまうためです。
ただ、特に日本のユーザーは運営会社の権利を尊重すべきだという考え方が強く、流通するコピーデータを相互監視して自粛しようという傾向がありました。
当時、だんだんと無料で使えるオリジナルアバターが提供されるようになり、3Dモデルも販売されるケースが出てくるようになっていた時期でした。
フィオさんは以下のように書いています。
「このような状況の中で、「この流れをもっと後押ししていけたらいいな」という個人のアイデアから始まったのがバーチャルマーケットです。最初に言い出したのは私ですが、当時のVRChatの日本人コミュニティは規模が小さく、ユーザーはほとんど顔見知りのような状態だったので、私がツイッターで「こんなことやりたい! ていうか、やる!」と提案したことに、皆が「いいね、やろうやろう!」と盛り上がって始まった感じでした」(Kindleの位置No.1168-1177)
「私がVketを発案したのは、「イベントがあったらもっと作品が増えるのでは」と思ったのがきっかけです。私は過去に同人活動をしていたので、同人誌即売会で作品が生まれるのを、何度も見てきていました。こうしたイベントは「作品を出したいから参加する」だけでなく、「参加したいから作品を作る」という面があります。
現時点ではアバターを作ったことのない人でも、皆で作ってわいわい展示をするイベントが開催されるとなれば、「じゃあ作ってみようか」となる人が増えるかもしれないと思ったのです」(同上)
フィオさんの言う作品とは、アバターのことでした。どのメタバースでも共通することですが、アバターこそが他の人との明確な差別化を可能にする重要なアイデンティティを形成する要素です。しかし、それらを作成する人たちが展示をする仕組みが限定的で、また、取引も簡単にできないという状況こそが、潜在的なニーズを生み出していたのです。
アバターを独自に作って提供する人たちが出てきていた状況だったことも、色々な人に広められる展示会のようなものを作ろうというきっかけとなったのですね。
そういうことでVRChat上で開催したのが第1回Vket。参加者は約80サークル、来場者は1日で1500人程度でしたが、物凄く評判が良かったんです。当時のVRChatの同時接続者数は8000ほどだったため(現在は3万前後)、当時の日本人のVRユーザーの規模感からすると相当な規模であったと言えるようです。出展者は、コミケと同じように規定サイズのブースが割り当てられ、そこを自由に飾り付けることができ、それをデータで入稿するという形です。
現在でも、VRChatの中にはアバターを有料で販売して流通させるような仕組みは存在していません。出展サイトから、外部のウェブサイトへと飛び、そこからアバターデータを購入できる形を取っています。代表的なのが、PixivのBoothで、HIKKYもVket Storeといった仕組みを持っています。
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