エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀の「チャレンジャー・インタビュー」番外編
関西の建築家・ヴォーリズとお茶の水の深~い関係とは!?
山の上ホテルは、太平洋戦争の敗戦後、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)に接収され、アメリカ陸軍の婦人部隊の宿舎として使用され、その時の愛称、ヒルトップから山の上ホテルと名付けられた。1954年にホテルとして開業されてからは、神保町などに出版社が多くあったことから、作家のカンヅメ(会社近くのホテルに泊めて原稿を急がせた)で知られ、川端康成、三島由紀夫ら多くの作家に愛され、文化人のホテルとして愛された。檀一雄の代表作『火宅の人』の舞台でもあった。
そして、このホテルは優美でユニークな“建築”としても貴重だ。設計はウィリアム・メレル・ヴォーリズ。ヴォーリズは、近江兄弟社(滋賀県近江八幡市)の創設者の一人で、メンソレータムを広く普及させたことで知られる。ヴォーリズは建築家としても活躍し、大阪の大丸心斎橋本店や京都の東華菜館、数多くの教会や学校を設計し、アール・デコ様式などを取り入れた独特の建物は広く親しまれている。
1980年に大規模改装されたホテルは2019年に元の姿に復元されたが、昭和に築かれた『作家のホテル』といった空気感も大事に融合された
ヴォーリズの活動は関西が多く、首都圏では教会や学校、私邸などがみられるが、そのなかでも、お茶の水の3つの建物は有名。日本初の西洋式集合住宅である「文化アパートメント」(江戸川乱歩が明智小五郎の事務所に設定した「開化アパート」のモデル)、「旧主婦の友社ビル」は失われ、山の上ホテルのみが残っている。旧主婦の友社ビル跡地に、磯崎新が設計した「お茶の水スクエア」は現在、日本大学が入っているが、磯崎が、低層部に再現した旧主婦の友社ビルのファサードは、近代建築の再生保存の先駆的な例とされる。
同ホテルは元々、九州の石炭商、佐藤慶太郎氏が生活改善と社会改良を目指す社会教育事業の為の施設「佐藤新興生活館」として1937年(昭和12年)に完成した。戦時中は海軍に徴用され、戦後、GHQに接収されながらも、建物は、この地に残った。建築様式は1920年代に欧米で流行ったアール・デコ様式が取り入れられ、塔の部分の複雑なファサードが印象的だが、内部も、有名な螺旋階段を含め、天井や床など細部にまで意匠が凝らされている。
ホテルは、1980年に大規模改装され、当時のテイストに変更された。筆者も、このころの赤いじゅうたんをよく覚えている。そして、2019年の設備改修に合わせて、リニューアルされ、元々の姿が復元された。絨毯を剥がして、最初の美しいテラゾーの床に戻し、細かい部分も、最初の姿がよみがえった。
同ホテル営業部の峯松泰広次長は「老朽化した設備中心の改修でしたが、意匠の部分に関しては、新たにデザインするのではなく、ここにしかない価値を大事にしようとしました。復元するだけでなく昭和に築かれた『作家のホテル』といった空気感も大事に融合していこうと心がけています」と話す。
●山の上ホテル公式サイト
https://www.yamanoue-hotel.co.jp/
●神田・神保町・御茶ノ水Walker ウォーカームック
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