2030年度以降にメインフレームやUNIXからの事業撤退を発表している富士通が2022年9月28日、既存の情報システムを抜本的に見直し、最新化する「モダナイゼーションサービス」の強化を発表した。
富士通では、メインフレームの2030年度販売終息、2035年度保守終了を公表している。またUNIXサーバーは2029年度に販売を終息し、2034年度に保守を終了する。今回発表したモダナイゼーションサービスは、こうしたレガシーシステムからの移行を想定したサービスとなる。
4つのステップでモダナイゼーションを支援
富士通 執行役員EVP グローバルソリューション(グローバルデリバリー、JGG)担当のティム・ホワイト氏は、モダナイゼーションサービス強化の背景として「情報システムのアップデートは多くの企業にとって喫緊の課題。富士通では30年来、情報システムのモダナイゼーションの支援に取り組んできたが、このほどアプローチを変えることにした」と述べた。
同社では、モダナイゼーションサービスを適用する顧客が3000社に及び、そのうち日本の企業が60~70%を占めると見込む。スペシャリストによる対応や最先端のテクノロジーを活用し、顧客のモダナイゼーションを支援する体制を敷く。またデリバリー機能を実践する人材も、グローバルデリバリーセンターの人員を含め、2025年度までに3万5000人の規模に拡大する。
富士通のモダナイゼーションサービスは、「業務・資産可視化」「グランドデザイン」「情報システム全体のスリム化」「モダナイズ」の4つのステップを用意している。また、顧客自身でモダナイゼーションを実施する場合には、モダナイゼーションに関する技術支援も提供可能だ。
まず「業務・資産可視化」では、「Celonis EMS」や「SAP Signavio」など各種プロセスマイニングツールを活用して業務プロセスの可視化を実施。またアプリケーションの可視化を行うために、ビッグデータ解析を用いた富士通の「ソフトウェア地図」を活用し、アプリケーションの構造分析、稼働資産分析、類似分析、資産特性分析、システム相関分析を行う。さらにデータの可視化では、マスターデータの棚卸しやデータアナリティクスによるデータの見える化アプローチで、データ領域や、データを利用するアプリケーションを徹底的に可視化することで、データ構造やデータ内容の問題点や課題を整理する。
富士通 モダナイゼーションナレッジセンター センター長の枦山直和氏は、「現行の情報システム資産を詳細に調査、分析し、業務プロセスのボトルネックやデータ構造、アプリケーション構造、依存度を徹底的に可視化することで、現行システムの全体像を正確に捉える。それにより最適な移行方式や、モダナイゼーション手法の検討につなげることができる」と説明する。
続く「グランドデザイン」では、富士通の100%子会社であるRidgelinezや、コンサルティングパートナー各社との連携により、EA(エンタープライズアーキテクチャー)に関する手法のひとつであるThe TOGAF Standardなどを活用して、グランドデザインを作成する。既存情報システムをベースとした現状積み上げ型(フォーキャスト思考)のモダナイゼーション計画ではなく、目指す情報システムの「あるべき姿(ToBe)」を描き、その未来像からの逆算型(バックキャスト思考)でモダナイゼーション計画を策定するのが特徴だ。ここでは段階的な移行ロードマップとして、経過目標となる「Next」計画を設定するという。
「全体最適化を目的に、ビジネス戦略とIT戦略が整合性を持った形で描かれるあるべき姿の策定を支援し、反復的な変革プロセスを通じて、段階的なモダナイゼーション計画の策定とケイパビリティの向上につなげる」(枦山氏)
「情報システム全体のスリム化」においては、可視化を通じてシステム内の資産をスリム化していく。ほとんど使われていないにも関わらず、維持したり、稼働したりしているシステムを見直すことができる。
「業務や資産の可視化に基づき、既存情報システムのなかで、使われていないアプリケーション資産や、データベースの整理、統合を行うことになる。可視化によって、システム更新のボトルネックとなる部分が明らかになり、それによって、スリム化の検討や実施が行える」(枦山氏)
そして「モダナイズ」では、メインフレームのモダナイズツール「PROGRESSION」などの各種ツールを利用し、顧客が持つ情報システムの状況に応じて、リライトやリホスト、再構築、サービス移行などを適用する。またマスタデータマネジメント(MDM)に基づき、サイロ化した企業内データをデータ利活用の基盤として再整備し、データを起点としたビジネス成長につなげる。IT基盤としては「Fujitsu Uvance」のHybrid ITをベースに、パブリッククラウドやプライベートクラウドへの移行を支援する。
「移行方式やコスト、移行期間などを提示し、顧客の要望に応じて、モダナイズを実行するところまでを支援できる。顧客のビジネス環境変化に情報システムが即応できることを目指し、俊敏性と強靭性を兼ね備えた情報システムの整備に伴走する」(枦山氏)
モダナイゼーションの技術情報やノウハウを集約するセンターも
今回は、モダナイゼーションに関する技術情報やノウハウ、知見を集約する「モダナイゼーションナレッジセンター」を9月1日に設置し、日本でのサポートを開始することも発表されている。今後、欧州や北米にもサポートを提供する予定だ。
センター・オブ・エクセレンス(CoE)と位置づけられるモダナイゼーションセンターは、業種ごとの移行実績やベストプラクティス、モダナイゼーションに有用なツールやサービス、専門パートナーに関する情報などを集約。具体的には「社内外の知見の収集、整理」「情報共有の推進」「各種ツールやサービスを提供する専門パートナーとの連携」「商談、技術支援」「デリバリー実践に基づく知見へのフィードバック」「顧客システムのモダナイゼーション実施状況の把握」の6つの機能を提供する。
約10人の体制でスタートし、年内には20人体制に、さらに2025年度には100人体制を想定している。モダナイゼーションに精通したスペシャリストが、ビジネスプロデューサーやSEをサポートし、密接に連携しながら、顧客のモダナイゼーションを支援する。
「モダナイゼーションナレッジセンターは、すべての顧客や、すべての業界、すべての地域で、有用なツールや技術、実践例などを共有することになる」(ホワイト氏)