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熊本地震や熱海の土砂災害などで実績 災害現場で共通の課題をクラウドで解決

kintoneはなぜ災害現場で役立つのか? サイボウズが語る災害支援の10年史

2022年03月23日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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クラウドでの情報共有、アジャイル開発、ノーコードが災害現場を変える

 なぜkintoneが災害現場で役立つのか? まずはクラウドで情報共有するため、どこからでも最新情報にアクセスできるということ。現地に行かなくても状況を把握できるため、全国各地から被災地の支援が可能になる。「これで現場の職員は被災者に寄り添うことができるようになる。現場の状況が大きく変わりました」と柴田氏は語る。

 また、アジャイル開発ができることも災害支援の現場では大きい。現場でアプリを開発し、数時間で運用をスタート。現地の状況にあわせて、日々改善できる。しかも、ノーコード開発ツールなので、専門知識のない職員でもドラッグ&ドロップでアプリ作成が可能になる。「自分たちでさっと変えられるので、現場でとても重宝される」(柴田氏)。

災害現場でのkintoneのメリット

 とはいえ、熊本地震の支援では「場当たり的な対応がもったいない」とも感じた。被災地では共通の課題も多いので、今までの知見を生かして運用したい。ここで生まれたのが、2020年に開設されたサイボウズの「災害支援プログラム」だ。

 災害支援プログラムでは、災害支援ライセンスとして、災害時にいつでも半年無償提供することにした。2022年1月現在では46団体に提供した実績を持っているという。また、サイボウズ社内にも災害支援チームを構築し、社員41名で被災地とリモートでの支援をできる体制を整えた。さらに14社のサイボウズのパートナーも災害支援パートナーとなり、サイボウズの連携サービスを優待提供しているという。

 さらに複数の社協とは災害支援協定も締結した。現在、災害支援協定を締結しているのは、長野県、静岡県、徳島県、広島県、横浜市、茨城県の6つの社協。災害支援協定を締結している社協にはライセンスを1年間無償提供し、毎週のZoom会議で課題も共有する。kintoneを使いこなすための研修会も年30回以上実施しており、プロトタイプ制作と実証実験を経て、すでに使いこなせるようになっているという。

サイボウズのシステムにかなうものは現時点では存在しない

 この災害支援協定が活きたのが、昨年7月に起こった静岡県熱海市の土砂災害だ。死者・行方不明者が28名(2022年3月現在)に上り、家屋被害128棟を出したこの土砂災害は、注目度も高く、約2週間に渡って立ち入り規制がひかれたのが特徴的だった。

災害支援協定が熱海の土砂災害で活きた

 災害の1年前からサイボウズと災害支援協定を締結していた静岡県社協はもともとWebサイトを用意していた。災害の2日後には、情報を一本化するためのWebサイトとFacebookページを立ち上げた。状況を伝えるべく、Facebookページは毎日更新され、ボランティアの登録数は1日で900人となった。ただ、行方不明者の捜索が続いたため、メンバーが現地入りできたのは被災14日後。ボランティア活動が開始されたの18日後だったが、活動の模様がFacebookページで公開されると、いいねやコメントなど約700件が殺到したという。

 熱海市の災害ボランティアセンターでは業務の一連の流れをkintoneで効率化した。活動数の見込みを立てるのに有効な「ボランティア事前登録」、当日の体調チェックや受付をスムーズに行なえる「QRコード受付」、被災者の困りごとを地図上で管理できる「災害支援ニーズ管理」、活動報告など複数のkintoneアプリから構成。「10年間の活動の集大成が詰まっている」と柴田氏は語る。そして、これらのシステムは「熱海パック」としてテンプレート化され、実際にその後の佐賀県の災害でも利用されたという。

熱海市災害ボランティアセンター運営支援システム

 社協からの評価も高い、静岡県社協の松浦史紀氏は「1年以上のZoom会議での課題共有と実証実験が今年の沼津市、熱海市の災害ボランティアセンターで実りました。キントーンなしではコロナ禍のセンター運営を乗り切れなかったと思います」とコメント。また、全国社会福祉協議会にて、長年にわたって被災地支援に関わる業務に従事してきた園崎秀治氏(オフィス園崎代表)も、「災害ボランティアセンターの運営には、これまでもICT化を試みてきたが、内実に合わないものが多かった。実際の災害現場で被災地職員と対話しながら10年以上かけて構築したサイボウズのシステムにかなうものは、現時点では存在しない」と断言しているとのことだ。

 現在サイボウズは6つの社協と提携している。年4回のペースでkintone活用セミナーを開催しているが、毎回100名以上の社協職員が参加し、kintone活用の情報共有を行なっている。柴田氏は、「災害支援のインフラとしてkintoneを全国に展開していきたい。全国にある社協がチームとして、どこでもお互い助け合うそんな状況を作っていきたい」と語る。

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