ビッグデータを活用する実証実験
そんな境町での自動運転バスのチャレンジは、さらに続いており、2022年は国土交通省による「ビッグデータ活用による旅客流動分析 実証実験事業」に選択された、新たな実証実験が行われています。それが2月28日から3月11日にかけて行われた「ビッグデータで設定された新路線を、顔認証技術を活用して検討」するというものです。
これは携帯電話の位置情報データ(ビッグデータ)を活用して、人の動きや分布を把握。そこでわかった人の動きにあわせて新しい路線を設定。顔認証登録した利用者の動向を調べることで、新しく設定した路線の利用状況などを調べるというのです。
「狙いとしては、自動運転バスの収益化を考えています。地方の路線バスは9割くらいが赤字。運賃収入だけで賄うには利用者が少なく、なかなか難しい状況です。そこで、我々が考えているのが訪問先の施設からの収益です。自動運転バスによって今まで移動できなかった人が動けるようになり、訪問先で消費活動を行います。そこで訪問先から収益を得ることができるのではないかと検討しています」と、自動運転バスを運営するボードリー社の担当者は説明します。
新たに設定されたルートは4つ。平日の「病院の送迎」「スーパーへの買い物」「道の駅からランチ」という3ルートと、休日の「隈研吾建築ツアー」が用意されました。また、境町にある15か所の商業施設などの入口にも顔認証用の端末を設置。実際に自動運転バスを利用した人が、どの商業施設を利用したのかまで追跡しようというのです。新規ルートの利用数だけでなく、商業施設の利用までをあわせて調査することで、地域経済の活性化を目指すといいます。
あっけないほど、簡単な顔認証
今回、体験取材ということで、顔認証と自動運転バスに乗ることができました。
まずは、車内に乗り込むときに自動運転バスの入口に設置された端末で顔認証を行います。JCV社の技術が使われており、マスクをしたままでもOK。しかも、認識にかかる時間もわずかなもの。なかなかのスピードです。実際のところ、今回の実証実験前も同システムは自動運転バスに採用されていましたが、顔認証というよりも、ただの体温計として利用されていたとか。逆に、同システムに体温測定機能があるため、町内15か所の商業施設的には、入場する人の体温を測定する器材としても使えるため、設置に前向きに検討してもらえたそうです。また、利用者としてみれば、自動運転バスに乗り降りするときと、町内の商業施設の出入りに顔認証を行うだけ。実証実験の調査に協力といっても、何も面倒なことはありません。
では、実際の自動運転バスの走りは、どうであったかといえば、「ひどく、のんびりとしたもの」というのが正直な感想です。自動運転バスのゴトゴトとした走行は、最高でも時速20㎞まで。また、数百メートルごとにバス停があり、2~5分ごとに停車します。路線バスよりもゆっくりと、しかも頻繁に止まります。実際に、試乗中に路線バスに抜かれていました。また、横断歩行者がいたり、路上駐車があれば、ドライバー役のスタッフが運転を交代。平日の田舎町ということで、歩く人も少なく、交通量も少なく、「危ない」と思う瞬間はまったくなく、あっけないほど簡単に試乗が終了しました。
ちなみに、実証実験以外でも、「LINE予約・スマートバス停の先行体験」という挑戦も行われています。これはスマートフォンにインストールされているLINEアプリを使って、自動運転バスを好きな時間と目的地まで予約できるというもの。いわゆるオンデマンドでの自動運転バスの利用です。こちらは3月5~6日と、3月12~13日にかけて行われる予定です。
自動運転バスは、事故なく無事に走れればOKではなく、いかにたくさん利用してもらえるかが重要でしょう。地域に住む人たちにとって便利であり、自動運転バスがあることで地域が活性化することがゴールとなるはず。そういう意味で、境町の自動運転バスは、まだまだ道半ば。これからの挑戦にも期待したいと思います。
筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。
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