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世界のすべての「水」をテクノロジーで測る方法

2022年01月13日 09時08分更新

文● Maria Gallucci

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European Space Agency

画像クレジット:European Space Agency

地球上にどれだけの水が存在するのか? これまであまり詳しく観測できていなかった河川や湖、ため池の状況が、人工衛星のリモート・センシング技術によって把握できるようになってきた。人類は、もっと賢く水を管理できるようになるのだろうか。

コンゴ川はアマゾン川に次ぐ、世界で2番目に大きな水系だ。コンゴ川が支える沼地や泥炭地に生息する数千種もの動植物同様に、7500万人以上の人が水や食料を得るためコンゴ川に依存している。河川の中域に不規則に広がる巨大な熱帯雨林は、地球の気候システム全体の調整を助けている。しかし、コンゴ川水系の水量は謎に包まれている。

水文(すいもん)学者や気候科学者は、6カ国にまたがるコンゴ川と接続水域を追跡し、降雨量を測定するために、もっぱら観測所を利用している。しかし、かつては約400カ所あった観測所も、今ではわずか15カ所に減り、気候変動がアフリカで最も重要な河川域の1つにどのように影響しているかを正確に知るのが難しくなっている。

「行動を起こし、水を管理するには、コンゴ川流域の水資源について知る必要があります」。コンゴ民主共和国キンシャサにあるCRREBaC(コンゴ盆地水資源研究センター:Congo Basin Water Resources Research Center)の地質学者、ベンジャミン・キタンボは言う。「しかし、知るためには測定しなければなりません」。

世界の研究者は次第に、地上で収集できないデータの欠陥を、宇宙から収集した情報を使って埋めようとしている。リモート・センシング装置を搭載した人工衛星を使えば、「in situ(イン・サイチュ)」測定値(現地で測定された値)が古かったり、収集が困難だったり、公開されていなかったりする場所も詳しく観察できるからだ。

フランスのトゥールーズにあるミディ=ピレネー天文台(Midi-Pyrénées Observatory)の宇宙地球物理学・海洋学研究室(Laboratory of Space Geophysical and Oceanographic Studies)で、博士課程の研究をしているキタンボに話を聞いた。このところ、キタンボはコンゴ川の支流や湿地、湖、ため池がどのように変化しているかを理解するために、人工衛星による測定値や水文モデルを分析している。これには、2300カ所以上にもおよぶ「バーチャル」観測所の記録を調査し、2つの重要な測定基準である「地表水の水位」(基準点からの水位)と、地表水域の面積を流域全体で推定することが含まれている。

この地域の現地データのほとんどは、各国が欧州の植民地から独立した1960年以前にさかのぼる、とキタンボは話す。それ以降、地域での研究は急速に衰え、地表水のデータ収集が困難であることが判明している。

machine data on satellite image
米国航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センター(Goddard Space Flight Center)のフリッツ・ポリセリ博士のチームは、地球観測衛星センチネル-1(Sentinel-1)で収集したデータと機械学習を組み合わせて、オハイオ川の川幅を追跡する準備としてこのような地図を作成している

約5年前、CRREBaCは、道路のような働きをすることが多いコンゴ川の主な航行可能な河川についての「基礎的な知識が甚だしく欠けていること」に対処するため、水位観測所のネットワークを構築し始めた。しかし、広大な流域の中には、研究者が赴くには遠すぎるか、あまりにも険しい場所もあった。あるいは、人々が機材を売り飛ばしてしまったり、盗撮監視を恐れて設置したばかりの装置を取り外してしまったりすることもあった。

世界の多くの地域が、同様の課題に直面している。査読付き学術誌「水資源研究(Water Resources Research)」で発表された2018年の評価によれば、ラテンアメリカとカリブ海諸国では、1980年代以降、地上ベースでの測定が「劇的に減少」した。中国からベトナムにかけての6カ国に広がるメコン川流域では、水がどれだけ利用できるかを各国が測定していたとしても、そのデータは厳重に秘匿されている。

しかし、水の測定は人々が自然災害に備えたり、気候変動に適応したりするのに役立つ鍵になる、と専門家は話す。地球の気温上昇は、ある地域では暴風雨や鉄砲水の発生、他のある地域では深刻な干ばつのリスクを高めると予測されている。その一方で、大規模なインフラ計画や不規則に広がる都市開発は、河川や湖などの淡水資源に変化をもたらし、負担をかけている。

この(水資源について)知るという必要性が、リモート・センシングツールを使った一連の野心的な研究構想を後押ししている。宇宙からデータを収集して分析するテクノロジーが進化するにつれ、科学者は水がどのように地球を流れ、大気中を循環するのかを、よりはっきりと理解しつつある。

地表を観察する人工衛星は、光学センサーとレーダー・センサーを使って水を計測し、地図を作成する。光学センサーは、太陽光が地上の対象物に当たって反射する光を捉え、水域の画像を形成する。合成開口レーダー(SAR)と呼ばれる一種のレーダー探査では、マイクロ波信号を地球に向けて送信し、人工衛星に戻ってくるエネルギー量と信号が戻ってるまでの時間を計測して、地表水の面積や水位を計測する。光学センサーと違い、レーダーは雲を貫き、夜間でも観測できる。

科学者はこれらの観測結果を組み合わせて、地球の水資源が時系列でどのように変化しているかを探ることができる。米国航空宇宙局(NASA)のランドサット・プログラム(Landsat program)による30年間の衛星画像を用いた研究では、自然な河川の流れと、ダムや灌漑など人間による介入の両方の結果として、地球上の水は劇的に変化していることが分かった。オランダの研究機関、デルテェアズ(Deltare)の研究チームは2016年の論文で、約11.4万平方キロメートルの土地が水で覆われ、約17万平方キロメートルにわたる水面は陸地になったと発表している。

しかし、現在利用できるリモート・センシング技術を駆使しても、意外なことに、水位が詳しく追跡されている淡水域はほとんどなく、既存のレーダーを搭載している人工衛星の多くは、主に海洋や氷床に焦点を置いている。NASAによれば、現在のところ、これまでに単一の人工衛星で計測されたのは、世界最大級の河川の5~10%ほど、世界の湖の15%ほどの貯水量の変化にすぎないという。

米国カリフォルニア州パサデナにあるNASAジェット推進研究所(JPL)が構築した新型のレーダー・システムは近い将来、地球の地表のもっと広い範囲を、現在のテクノロジーの10倍の解像度で観察できるようになる。Kaバンド・レーダー干渉計(Ka-band Radar Interferometer)は2本のアンテナを使い、人工衛星が水域の上空を通過するとき、約120キロメートル幅で信号を送受信する。アンテナから地上のある地点に信号を送り、戻ってきた2つの信号を三角測量法で解析する。これによって、科学者は地表水の水位を約10センチメートル単位で測定できる。

NASAとフランスの宇宙機関、国立宇宙研究センター(CNES)は、SWOT(地表水と海洋の形態調査:Surface Water and Ocean Topography )という合同ミッションの一環として、カナダと英国の宇宙機関の助けを借り、2022年の後半にKaバンド・センサーを搭載した人工衛星を打ち上げる計画だ。海のほかに、湖や河川、ため池も21日周期で観測する。

「以前には決してなかったような方法で、地表水の世界的な情報が利用できるようになります」。ジェット推進研究所の水文学者であるセドリック・デビッド管理官は話す。科学者たちは地表に溜まった水量の変化を観測し、水系を流れる水の量を推定できるようになるだろう。

キタンボなどの研究者は、SWOTの観測は、水が経時的にどのように増え、干上がり、流れるかを、シミュレートして予測する数値モデルの正確性と質を向上させると話す。具体的には、科学者はSWOTのデータを使って、コンゴ川の主な支流や、流域の中央にある熱帯雨林での日々の水の放出、または水路を流れる水量を計算できる。漁業や農業、野生生物の生息地や人間の安全など、すべてに影響をおよぼす季節的な洪水の発生を理解するのに役立つはずだ。

他の同じようなプロジェクトに加えて、新たなミッションによりNASAは、海洋や土壌水分、地下水、氷床、そして現在は地表水などを含む、地球の水循環のほぼすべての部分を把握できるようになるだろう、とデビッド管理官は指摘する。「私たちの多くは、宇宙からの水循環観測の黄金時代と呼んでいます」(デビッド管理官)。

マリア・ガルーチは、ニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動する、エネルギーと環境分野の記者。

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