7年ほど前にこのコラムで“目の不自由な人のための触読式腕時計”「EONE×RAWROW — BRADLEY CLASSIC Limited Collaboration Model」(以降:ブラッドレイと記す)をご紹介した。そしてその後も数多くのオマージュ商品が登場した。今回紹介する磁気鋼球腕時計は、筆者個人的にはブラッドレイに対するオマージュを感じるが、健常者向きの腕時計だ。
目の不自由な人のための腕時計は、かなり歴史のあるプロダクトだがその多くは通常のアナログ腕時計の風防を開閉式に変更し、長短の針を実際に指先で触れて現在時刻を知る仕組み(触読式)が、一般的だった。その後、デジタル技術の進歩によって現在時刻の音声読み上げをする腕時計が登場した。
今回、筆者が衝動買いした磁気鋼球腕時計は、従来からある触読式腕時計ブラッドレイモデルと同じく、文字盤の裏側にある時針と分針にあたる磁性体金属パーツが表面に配置した磁石鋼球(マグネットボールベアリング)を吸着し移動させて現在時刻を表示する仕組みだ。
ブラッドレイのメインユーザーは、視覚で時刻情報を得ることが不自由な人向けのため、一番大事な現在時を示す時鋼球は側面の外周に位置し、分針にあたる分鋼球は文字盤表面に配置されている。目の不自由な人は、指先で触れることでそれぞれの鋼球の位置と周囲の時刻インデックスから現在時刻を知ることができる。
一方、磁気鋼球腕時計の方は、時鋼球も分鋼球も文字盤の同じ表面に位置し、外周側の鋼球が時、内周側の鋼球が分を示す。実際に指先で鋼球に触れて現在時刻を知ることもできないことはないが、ブラッドレイと比較していずれの鋼球も完全に文字盤の溝の底に100%埋没しており指先で鋼球の位置を探るには相当の慣れが必要だ。
今回ご紹介する磁気鋼球腕時計は、ブラッドレイが目指した指先で触れることで現在時刻を知るという最大の目的を除外したことで、健常者にはどの位置から見てもごく普通の腕時計のように現在時刻を知ることは極めてたやすくなった。敢えて機能の退化を実践したプロダクトだ。
それでも子供の時から家でも学校でもアナログ表示時計を見慣れている昭和以前の生まれには、長針が外周、時針が内周を移動するというイメージがあるため、それと反対の外周が時、内周が分という表示は中にはなじめない人もいそうだ。
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