世界が新型コロナの猛威に沈んでから2回目の年の瀬となった。まだまだコロナ禍の影響が続く中で来年のことを語るのはそうやさしいことではない。来年の展望を見据えつつ、今年のニュースを振り返っていこう。
ハイレゾストリーミングと空間オーディオ
今年のオーディオ界のトップニュースはやはりというかついにアップルがハイレゾでのストリーミングを開始したことだ。これは先行するAmazon Musicのハイレゾ配信の価格変更をはじめ様々なところに影響を与えている。ワイヤレスイヤホンにおけるコーデックの問題を図らずも再定義してしまう形ともなった。
完全ワイヤレスの通信規格においてはQualcommが96kHz/24bit対応のSnapdragon Soundを発表した。これは従来のaptXシリーズの規格を拡張して条件の良い時には最大96kHz/24bitに対応するというものだ。さらにクアルコムはロスレスでの送信ができる「aptX Lossless」も発表している。
このように送り手のサービス側も受け手のイヤホン側も揃って進化してきたハイレゾストリーミングの分野は来年も引き続き注目点となるだろう。
空間オーディオに関してもアップルの空間オーディオに続いてソニーが360 Reality Audioの導入をしたことで広まってきた。アップルが今年出した特許を見ても、予測式のヘッドトラッキング技術やVR空間を意識した空間オーディオなどがあった。空間オーディオとハイレゾ・ロスレスのストリーミングは一体となって来年も話題の中心となるだろう。
ゲーミングと有線イヤホン
コロナ禍のステイホーム政策はゲーミング分野をますます拡大させることになった。これによりゲームに特化した有線イヤホンが現れるようになった。例えばAZLA AZELのEdition Gである。また、平面磁界型のヘッドホンで知られるAUDEZEは高価格イヤホンである「AUDEZE Euclid」を発売した。面白いのは、この新型イヤホンの解説をHead-FiなどオーディオフォーラムではなくTwitchでストリーミングしたことだ。Twitchはゲームの実況中継をするためのサービスとして始まり、今では汎用にも使われるようになっている。
また、THXがコンシューマー向けに初めて自社ブランドで展開し始めたスティック型DAC「THX Onyx」は、ゲーミングデバイスのRazerのサイトで海外販売されている点も興味深い。
先日開催されたクアルコムのイベントでも、ゲーミング分野の注目度が高かったように思う。ゲーミング分野では低遅延が求められるため、まだ有線イヤホンが主流だという点も見逃せない。この点に関しては今のBluetoothを使用するワイヤレスではすぐに解決できるものではないので、来年も続いて伸びていく分野となるだろう。
ワイヤレスイヤホンの高音質化
今では全盛のBluetoothワイヤレスイヤホン。従来は有線イヤホンに一歩譲る音質と言われてきた。これは非可逆式圧縮で送るコーデックが原因ではあるが、先日発売された「final ZE3000」は有線イヤホン並みの高音質を実現したという製品で、実際に試してみても納得のできるものだ。
今年はZE3000のように、ノイズキャンセル機能(ANC)はないが、代わりに高音質を売り文句にするワイヤレスイヤホンが増えてきた。例えば有線ハイエンドイヤホンの開発でも知られるNoble Audioの「Fokus Pro」や同じくAcoustuneの「ANIMA ANW01」などだ。
finalやNoble Audio、Acoustuneはいずれも玄人好みのイヤホンメーカーという強みを発揮したと言える。このような高音質志向のワイヤレスイヤホンは来年も増えていくことだろう。
DACのディスクリート化
世界的なIC不足に加え、旭化成エレクトロニクスの工場火災の影響もあり、デジタルオーディオの根幹であるDAC ICの供給が不安定になった。こうした動きと前後して、汎用のDAC ICチップを利用するのではなくディスクリート方式のDACを採用するメーカーが増えてきている。
ディスクリート方式の採用は、音質の差別化という側面が大きい。英国のハイエンドオーディオブランドであるLINNはフルモデルチェンジした「KLIMAX DSM」において「Organik」という新規のDACアーキテクチャーを採用した。また、HIFIMANはFPGAを中核にした新しい DACアーキテクチャ「HYMALAYA DAC」を発表した。これは主にポータブル/モバイル分野の製品をターゲットにしている。
ハイエンドでもポータプルでもこうした動きは来年も続くと思われる。オーディオ製品の高音質化に加え、安定供給にも期待したいところだ。
次世代のドライバーとなるMEMSスピーカー
MEMSスピーカーとは新しいタイプのドライバーで「シリコン型ドライバー」と言っていいかもしれない。ICのようなチップになっているため、超小型で低電力という特徴がある。オーストリアのFaunaがUSound社製のデバイスをオーディオグラスに採用。また、2022年にはXMEMS社のドライバーを使った完全ワイヤレスイヤホン「IAC Chiline TR-X」もアナウンスされている。USound社も多額の資金調達に成功して市場参入を伺っている。
動きが思ったほどではなかったもの
今年思ったほど動きがなかったのは昨年登場したアップルの「AirPods Max」に呼応するような高級ワイヤレスヘッドホンだ。2021年年頭のCESでは「V-Moda M-200 ANC」のような、高音質、外装の良さ、高価格帯という要素を兼ね備えた高級ヘッドホンが発表され、AirPods Maxを連想させたが、国内メーカーでそうした動きはまだない。AirPods Maxは好評だが業界を揺り動かすほどのインパクトにはならなかった。
また、昨年発表されたBluetoothの新規格「LE Audio」についても製品化の動きは見えていない。いまはまず来年初めのCESに注目したいと思う。
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