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プログラム参加9社が自社におけるDXの取り組みについて最終報告

デルとNAISTの「中堅企業DX支援プログラム」、9社の成果発表会

2021年10月25日 07時00分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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プログラム参加9社がそれぞれの成果を最終報告

 成果発表会では、プログラム参加の9社が10分間ずつの最終報告を行った。

●CDISC-SDTM Blockchain Team:ブロックチェーン×臨床データの共有

 複数の製薬会社やCRO(医薬品開発業務受託機関)の合同チームであるCDISC-SDTM Blockchain Teamでは、ブロックチェーン技術を用いた臨床データの共有プラットフォームの構築に取り組んだ。臨床データの共有にはさまざまな課題があるが、今回の取り組みではプロックチェーン技術を活用することで、個人情報保護と特定の管理団体に依存しないデータ共有を可能にすることを目指した。

CDISC-SDTM Blockchain Teamの発表

 P2Pでデータを分散管理するIPFS(Interplanetary File System)上に存在するデータおよびデータアクセス権の管理にブロックチェーンを活用。データアクセス権情報のやりとりは、ABE(Attribute Based Encryption)暗号を組み合わせることによって構築したという。

 特定の管理者によるデータ閲覧やアクセス権変更ができない仕組みとなり、個人情報を保護。データやり取り履歴がブロックチェーンに書き込まれ、記録の改ざんができない環境を実現したという。

 今後は、より実運用に近い詳細なフローでのシステム構築と検証を行い、信頼性の評価、大容量データでの運用可能性の検証などを行うほか、業界内への技術の理解、浸透も図る考えを示した。第三者機関が中央集権型で運用するよりも、コストダウンの可能性があるとしている。

●イグス:AIによる社内データの精度向上

 樹脂製機械部品メーカーのイグスでは「AIによるデータ精度向上および災害対策サービス」の開発に取り組んだ。社内データの精度向上、顧客データのチェックを経て、ビッグデータ連携により、AIが状況を判断することで、災害時をはじめとしたあらゆる状況においても、円滑に業務を遂行することを目指している。今回のプロジェクトでは、最初のステップとなる社内データの精度向上に取り組んだ。

イグスの発表

 会社名データの更新では2時間30分かかっていたものが、10分程度で完了。実働126日間で289.8時間の工数削減効果があった。これらの時間を活用して、老朽化した全社システムの見直しに着手するとともに、DX活動の推進にも活用していくという。

 今回の最終報告は「あくまでも通過点」とし、今後も継続的な活動を実施。DXの推進においては、AIを活用して数値目標を明確に示したり、システム管理者だけでなく運用メンバーでも利用できるサービスやツールの選定を進めたりする考えを示した。

●ヴィッツ:IoT/AIによる次世代向上の効率化

 組込みソフトウェアやITソリューションの開発会社であるヴィッツでは、次世代工場の効率化を実現するIoT/AIソリューションを開発する「SF Twin WANDプロジェクト」に取り組んだ。デジタライゼーションにおいて、ボトルネックとなる部分を見える化し、これにより効率化を支援する「SF Twin」を開発。製造業のDXに向けて架け橋になることを目指し、まずは、SF Twinの完成形に至る道筋を構築する活動に取り組んだ。

ヴィッツ「SF Twin」の現在の状況

 SF Twinでは、岐阜県IoT コンソーシアムのワーキンググループが実施する実証事業に採用され、エッジセンサーを開発。経済産業省の次世代ソフトウェアプラットフォーム実証事業にも参画し、エッジクラウドによる現場の情報統合プラットフォームを開発しているところだ。次のステップとして、デジタルツインで得た情報を活用し、業務の効率化や改善活動を支援できるDXソリューションとしての完成度を高めるという。同社では、2021年度内の製品化を目指している。副賞で獲得した「Dell PowerEdge R740XD」は、仮想工場実現のためプライベートクラウドとして稼働しているという。

●ピーチ・ジョン:AIポータルを構築、需給予測を実現

 下着通販会社のピーチ・ジョンは、ITスキルの差に関わらず、誰でも容易につかえる「社内AIポータル」の開発に取り組んだ。同ポータルを活用して需給予測を行い、これに基づいた最適な在庫数量を算出できるようにした。購買情報や在庫情報、ECサイトの検索履歴のデータを活用。分析対象として扱えるデータを選定したり、自然言語分析の活用を行えるようにし、さらに、誰もが利用しやすく、直感的に利用できるUIデザインを採用した。すでに、過去の販売実績をもとに、販売予定の新製品の売れ行きを予測できるようになっているという。

ピーチ・ジョンの発表

 人が算出した値より、論理的で、エビデンスをもとに有効な参考値を取得するための第一歩になったことを成果にあげたが、予測の効果を測定するのは今後の課題だ。まずは、欠品や過剰在庫の解消に貢献することを目指すという。

●平井精密工業:

 金属エッチング加工の平井精密工業では「歩留まり向上のための製造工程AI 解析サービス」の開発に取り組んだ。製造現場の課題となっている製品の歩留まりの向上に向けて、デジタル化して蓄積した情報をもとに、歩留り低下に起因する製造条件、パラメータを収集。AIを活用することで、歩留まりとの相関関係を分析することになる。

平井精密工業の発表

 現時点では、蓄積している過去数年分の歩留りデータを活用し、傾向やパラメータとの関連を調査。新たなパラメータの取得が可能となる設備を導入して影響を調査しているという。十分なデータ量が蓄積できず、成果にはなつながらなかった反省があるものの、温度や湿度が、出来映えに影響するかどうかを調査中だという。今回のプロジェクトを通じて、パラメータやデータへのアプローチの方法を学ぶことができたとしている。

●水上:音声マイニングによる受注電話応対の自動化

 建築資材の総合商社である水上では、「音声マイニングによる、受注電話応対の自動化への挑戦」とし、新規顧客へのアプローチ強化に向けて、既存顧客を対象にした音声マイニングによる受注電話応対の自動化、情報システム部によるデータベースの整備、発注フローの見直しなどに取り組んだ。プロジェクト期間中には、具体的な形でのシステム化は実現できなかったが、デジタル化やDXによる企業活動の在り方を考える機会を得たり、企業活動の基盤となるマスターデータの管理体制の在り方に気がついたり、2022年からスタートする基幹系システムプロジェクトを推進する足掛かりにつながったという。

水上の発表

 同社では、2021年11月からスタートする第2回中堅企業DXアクセラレーションプログラムにも応募しており、継続的にDXに取り組む姿勢をみせている。

●アズワン:受注予測モデルを開発、短期/長期ともおよそ9割の精度

 医療機器などの総合商社であるアズワンでは、「適正在庫AIモデル」の開発に取り組んだ。取り扱い商品数の増加や、コロナ禍における感染対策品の需要が増加したことで、いままでの仕入れの仕組みでは発注が間にあわなかったり、余分に在庫を抱え込むリスクが高まったことが課題となり、AIを活用して、多品種少量出荷、クイックデリバリーを実現するモデルの開発に取り組んだ。

アズワンの発表

 毎日1週間分の受注を予測する短期モデルと、毎月1カ月分の受注を予測する長期モデルを完成。短期モデルの正答率は91.7%、長期モデルでは89.5%に達しているという。対象とした2つの商品群においては、受注予測モデルに沿った発注を行っていれば、現状よりも発注を抑制し、在庫を減少。月間9100万円もの効果が出ることがわかったという。

 これらの成果をもとに、受注急増(急減)商品判別AIモデル「IMA Image Matching Ai warning system」(仮称)や受注予測Webシステム「ADAM Asone DemAnd Ml forcast system」(仮称)を開発。対象商品の選定やモデルデータの整備、アルゴリズムの選定などのほか、在庫推移確認、発注状況表示、シミュレーション機能を追加する予定だという。

●レニアス:樹脂加工工程の並び替え/平準化プログラムを開発

 樹脂加工のレニアスは「需要予測、工程平準化」に取り組んだ。ハードコート工程の並び替えプログラムのほか、各工程での並び替えプログラムの7割が完了。全体の平準化プログラムも約9割が完成したのに加えて、需要予測を自動的に行うプログラムの開発にも取り組んでおり、現在、テスト運用を行っているという。

レニアスの発表

 ハードコート工程並べ替えプログラムでは年間400~600時間、他工程の並び替えプログラムでは年間200~400時間、全体平準化では年間300~600時間の削減がそれぞれ可能になると見ている。また、多くの社員が使えるように工夫しており、ベテラン社員に集中していた工程並び替え作業を分散でき、属人化の課題も解決できるという。

●ユーネットランス:運送ダイヤの最適化、特許を出願

 貨物運送業のユーネットランスでは、物流設計段階で最適運行ダイヤを自動作成し、効率化を図る「最適運行ダイヤ作成システム」を開発した。全体で30%の効率化を目指し、活動ロードマップを策定。荷量データをもとに、最適なパレタイズイメージと車載イメージを出力するサブツールを活用することで、減便の効果や、それに伴うCO2排出量削減効果を算出することができるという。また、物流の効率化や最適化評価スキームの作成では、特許を出願。今後、構想中の新機能についても追加出願を進めるほか、モデルケースの構築を通じて、今回の取り組みについて、顧客への理解を深める活動につなげていきたいという。

ユーネットランスの発表

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