「オンラインが前提」となった医療ニーズの多様化に対応するプラットフォーム
日本MS、「Microsoft Cloud for Healthcare」の取り組みを紹介
2021年10月05日 07時00分更新
日本マイクロソフトは2021年9月30日、ヘルスケア分野におけるDX支援の取り組みについて記者説明会を開催した。説明会では、2020年にサービス提供を開始した「Microsoft Cloud for Healthcare」における日本での取り組みについて触れた。
“オンライン前提”の医療ニーズに対応するMicrosoft Cloud for Healthcare
Microsoft Cloud for Healthcareは、患者への治療支援や医療従事者の生産性向上、オンラインを前提とした医療ニーズの多様化に対応したプラットフォームだ。日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター事業本部 医療・製薬営業統括本部長の大山訓弘氏は、「患者とのエンゲージメント向上、医療従事者のコラボレーション強化、暗黙知の見える化や分析を実現することで、患者や医療従事者が、より多くのことを実現し、より良いケアを可能にする信頼性の高いクラウド機能を提供し、ヘルスケア領域のクラウド化を推進する」と説明する。
その一方で、同サービスを通じてマイクロソフト自身が電子カルテのビジネスを行ったり、臨床に直接関わるサービスを提供したりするものではないことも明確にした。パートナーとの連携により、ヘルスケアソリューションを開発していくという姿勢だ。
「医療分野においては、IoTやAIといった新たな技術の活用に加えて、診療情報だけでなく、個人の生活習慣や健康情報も収集しながら、病気になりなくい環境を作ることにも貢献する必要がある。マイクロソフトでは、PHR(Personal Health Record)とEHR(Electronic Health Record)に対応し、医療、介護、健康、未病を俯瞰する形で、ヘルスケアプラットフォームを提供し、社会と人をつなぐエコシステムを実現したい」(大山氏)
新型コロナウイルス感染症の影響によって、オンライン診療に対する認知率は44%に上昇した。そうした期待の反面、医療現場では非構造化データが90%以上を占めていたり、生産性向上の余地が70%以上も残されていたりする。また、全世界の医療機関のセキュリティ対策への投資規模は6200億円にも達している現状もある。
「マイクロソフトでは、医療情報に関する国際的なガイドラインやルール、基準を順守することはもちろん、個人情報である健康データをセキュリティと暗号化によって管理。さらに、データを収益化することもしない。業界で最も厳しいセキュリティとプライバシー基準を遵守している」(大山氏)
Microsoft Cloud for Healthcareは、国際標準であるHL7 FHIRを利用できるAPIをAzureで提供。電子カルテなどの医療データの連携、利活用の促進が行える環境を実現する。大山氏は「医療情報学会などとの連携により、国内向けのAPIの開発も進めていく」としたほか、「オンラインを通じた医療従事者と患者だけでなく、医療従事者同士のコミュニケーションを支援。医療機関のみならず、保険会社やリテール企業、健康産業とのヘルスケア関連ビジネスの促進を支援する」と語る。さらに3省2ガイドライン対応セキュリティリファレンスが公開され、Microsoft Azure、Microsoft 365、Microsoft Dynamics 365、Microsoft PowerPlatformが、同リファレンスの対象クラウドサービスとなっていることも紹介した。
今年4月に米マイクロソフトが買収を発表したニュアンスコミュニケーションズ(NUANCE Communications)のAI技術を活用し、ヘルスケア業界における音声データの構造化に取り組むことも示した。NUANCE AIでは、Teamsによるオンライン診療時に、患者との会話を自然言語処理AIにより、構造化データとして作成。カルテデータの一部として保存できる。「オンライン診療時において、文書作成の手間や確認に時間を割かずにすむようになり、患者への対応に集中できる」と説明する。
オンライン診療システムや電子カルテとの連携事例も
Microsoft Cloud for Healthcareの活用事例も紹介した。
米Epicでは、オンライン診療システムとMicrosoft Cloud for Healthcareを連携して活用している。患者はオンラインの診療予約システムから病院を検索、予約し、Teamsを通じてオンラインで受診する。その際には電子カルテデータとの連携も可能だという。国内ではIntegrity Healthcareが、オンライン診療プラットフォーム「YaDoc Quick」において、Teamsを利用したオンライン診療を実施している。
また今回は、富士通の電子カルテシステム「HOPE LifeMark HX」とTeamsの連携を新たに発表した。医療従事者のリモートワーク、ウェブミーティングの実現を支援したり、遠隔地や隔離エリアにいる医師同士のコミュニケーションも支援できるという。
そのほか、千葉大学医学部附属病院およびTISによるクラウド型地域医療連携サービス「ヘルスケアパスポート」のサービスを2020年9月からスタートし、この基盤にAzureが利用されていることや、長崎大学や五島中央病院、長崎県、五島市が連携し、複合現実による日本初の関節リウマチ遠隔医療の実証実験を開始していることにも触れた。
日本マイクロソフトが、医療AIプラットフォーム技術研究組合(HAIP)に参加したことも明らかにした。「安心、安全な医療AIサービスの普及、発展に貢献するものであり、Azureなどを提供し、医療AIプラットフォームの社会実装に向けて取り組んでいく」と述べた。
また、AIを活用して障碍のある人々を支援する「AI for Accessibility」プログラムを実施し、5年間で2500万ドルを投資。東京工業大学が実施している、ALSなどによる閉じ込め症候群の患者を対象に、瞳孔の変動だけでコミュニケーションを行えるようにする研究に、同プログラムを活用しているという。
医療現場のデジタル化、コミュニケーション改革を
ゲスト出席した国立国際医療研究センター 医療情報基盤センター センター長の美代賢吾氏は、現在の医療における課題を次のように指摘した。
「いまは、あらゆる医療関連情報が電子的に保存されている。体温計を含めて、あらゆるものがネットワークにつながるようになっている。医療現場のデジタル化は進んでいる。だが、電子カルテを起点に医療情報を活用するといったことが十分にできていないという課題がある」(美代氏)
これに加えて、コロナ禍においては「コミュニケーションクライシスが発生した」と美代氏は延べ、医療現場におけるコミュニケーション改革の必要性を指摘した。
「コミュニケーション改革は、平時には医療の力を向上させ、緊急時は医療の力の維持につながる。国立国際医療研究センターでは、2015年にOffice365を導入し、コロナ禍でデジタル化を促進。コロナ病棟での医師の活動を支援することができた」(美代氏)
説明のなかでは、デジタルを活用した“未来の医療”の様子も紹介した。
また、2020年4月に発足した医療研究連携推進本部(JH)では、国内6カ所のナショナル研究センターを10Gbpsで接続する「JH Super Highway」を研究活動などに活用。さまざまな疾患の診療情報を電子カルテから自動収集し、研究に活用するJASPHERプロジェクトの取り組みについても触れた。