VAIO のレジェンド開発者たちに訊く
ブレイクスルーを目指した4面カーボンボディが生まれるまでのぶっちゃけ秘話
悩みに悩んだ“カーボンファイバーらしさ”が引き立つデザイン
――設計とデザイナーとのせめぎあいがあったと思うのですが。
浅輪 「デザイナーは、実は昔からカーボンファイバーが大好きで、カーボンファイバーのことは詳しく、カーボン素材でどんな形状ができて、どんな形状ができないかはなんとなく理解しています。実現可能でも量産には向かないとか、平面を軽く曲げるぐらいはいけるといったイメージは持っていたようです。ただ、その中でVAIO Zの特徴をどう出すかには葛藤があったようです」
――デザイン上印象的なのはオーナメントの扱いです。
武井 「実はそこが最後の最後まで、決まらなかったところですね。最初はボトム部分とディスプレイの天面を一部折り曲げたカーボンファイバーで構成しようと思っていたのですが、みんなが納得しませんでした。それだけでは、他社が真似できないようなブレイクスルーにはならないと感じていました。そこで浅輪が昔から温めていた、『ベゼルのところをくるむような形状はどう?』といった提案をしたところ『いいねぇ』という反応が返ってきたのです。
オーナメント部分はSシリーズなど従来機種では、横に1本通ったものになっています。新しいVAIO Zはカーボンの立体成型を進める中で、この部分もカーボンでくるむ形で剛性を持たせることとしました。そこでカーボンの特徴を活かしきる中でのオーナメントの存在とはどういうものなのかを悩んでいたんです。
角部は衝撃が加わりやすい部分なので、強さが求められます。そこにオーナメントを持っていきたかったのですが、カーボンファイバー筐体との部品合わせが複雑でなかなか答えが出せなかったのです。理想はカーボンファイバーを側面までつなげて袋形状にして、そこを補強するためにオーナメントを取り付けること。しかし、樹脂成型のように溶かした樹脂を型に流すわけではないので、角部がどうしてもふさがらないのです。
そこで考えたのが角部を三角形状にカットして、ここにオーナメントを持ってくる処理です。見た目の美しさだけでなく強度を持たせられるという理由で採用になりました。
浅輪 「デザイナーから『やはり、カーボンファイバーだからこそできる形をどうしても表現したい』と強い要望がありました。そこで、『分かりました、あと1週間待ちましょう』とわれわれも回答したのですが、その先が長かったですね。結局このデザインが出てくるまでに1ヵ月はかかったのではないでしょうか? 最初は違う形状を検討していて、仮型も異なる形状でした。デザイナーも『こんなに苦しんだのは初めてだ』というほどでした。
仮型で検証した形状ではないので、できるかどうかは分かりませんでした。だけど、ここで『できません』と言ったら、また1ヵ月も2ヵ月も悩むことになります。それは流石に時間が無くなり、武井の顔も青ざめてしまうので(笑)。『これはもうやるしかないだろう』と進めたのが決まるまでの経緯ですね」
武井 「ブレイクスルーは設計とデザインの両面にありました。カーボン素材の特徴を生かした剛性や機能美を表現できるデザインにしたかったのです。VAIO Zという機種そのものがブレイクスルーを必要としていて、カーボン素材からくる薄軽もブレイクスルーでしたが、この提案によってデザイン的にもブレイクスルーが生まれた瞬間だったと思います」
――VAIO Zのゴーサインが出たのが、2019年の終わりごろという話でしたが、それはいつごろの出来事だったのでしょう。
武井 「2020年4月ごろですね。試作品を作って本格的に検証を始めたくらいのタイミングでした」
浅輪 「パームレストとボトムの型作りはすでに進んでいる状況でした」
武井 「モック(試作品の模型)の承認日程も決まっていたので、オーナメント部のデザインを急ぎ反映させて、日程ギリギリで仕上がってきたモックで承認を取りましたね」
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