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テレワークが普及して場所も人材もライフステージも多様化

Withコロナ時代に求められるのは多様性を許容するハイブリッドな働き方

2020年11月27日 10時00分更新

文● 重森大 編集●大谷イビサ

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 例年とは違いオンライン開催となった「Yamaha Network Innovation Forum 2020」(SCSK主催)。モデレーターに池澤あやか氏を迎えたパネルディスカッション「Withコロナ時代の働き方改革と企業ネットワークのあり方とは?」では、これからの時代の働き方やそこで求められるネットワークについて語りあった。ゲストはアスキー編集部の大谷イビサ、働き方について多くの著書を持つ沢渡あまね氏、ヤマハの小島務氏だ。(以下、敬称略)

オンライン配信されたYamaha Network Innovation Forum 2020のパネルディスカッション

自宅にもオフィス並みに快適なネットワークが求められる時代が来た

池澤あやか氏(以下、池澤):まずそれぞれの自己紹介から始めたいと思います。私は週3日から4日をフリーランスエンジニアとして働いていて、他の時間にメディア出演などの副業をしています。株式会社tsumugの一員でもあり、最近はTiNK Desk、TiNK Officeの構築にも携わりました。TiNK Officeは空室物件を活用するマイクロオフィスサービスで、TiNK Deskは時間貸しのワークスペースサービスです。TiNK Officeではネットワーク、音響にヤマハ製品を採用しています。

エンジニア兼タレントというハイブリットな働き方を実践する池澤あやか氏

大谷イビサ(以下、大谷):角川アスキー総合研究所の大谷イビサです。私はメディアの運営などに携わっているのですが、このコロナ渦で働く場所の定義が大きく変わってしまいましたね。昼でもオフィスはほぼ無人で、倉庫のようになっています。

従来は集約・固定・高密度だったオフィスが、分散・隔離・過疎化へとシフトしました。この流れはどこかで見たことがあると思ったら、ITがオンプレミスから仮想化され、クラウド化されたのと同じ流れなんですね。業務が仮想化された段階が、今なのだと思います。ということは、クラウド化に当たる次のステップに向けてオフィスをどうすべきなのか議論しないといけません。取り組みが早い企業は、東京から離れたり、出社が減って空いたスペースを配信スタジオにしたりしています。

沢渡あまね氏(以下、沢渡):顔も、働く場所もハイブリッドな沢渡です。今日は静岡県浜松市からオンラインで登壇させていただいています。私は物書きとしての顔、複数の企業の社外取締役としての顔を持っています。働く場所は東京、静岡など複数箇所に広がっています。

新刊「ここはウォーターフォール市、アジャイル町」では、ワークスタイルがハイブリッド型になっていく様子を書きました。趣味はダム巡りで、ダム際ワーケーションを実践中。袋井土木事務所全面協力でダム際ワークのマンガも作りました。

小島務氏(以下、小島):ヤマハ株式会社の小島です。ヤマハは工場やオフィス、店舗があり、働く場所も業務も人材もハイブリッド型になっています。私自身も商品戦略グループと国内営業グループを兼務しており、業務がハイブリッド化しています。沢渡さんのダム際ワークに触発されて、休日にPCを持って公園に行き、資料を作ってみました。気分が変わって、捗りますね。

沢渡:小島さんも外で仕事をする楽しさを知ってしまいましたね(笑)。オフィスで働くことを否定するわけではありませんが、自然を感じながら働くのが気持ちいいと感じる人もいます。生産性が高い状態とは、それぞれの勝ちパターンを実現できている状態と言えます。そして勝ちパターンは、職種や人によって違うんですよね。これまではオフィスに集まることにこだわり、それ以外の勝ちパターンを悪気なく否定してきました。その結果、みんなが負けパターンに陥っていたのではないでしょうか。

池澤:仕事内容によっても勝ちパターンは変わりますよね。私も日によって働く場所を変えています。アイディアを出したいときはカフェに行ったりもします。

大谷:働く場所が変わったことで、仕事に必要な環境も変化しましたね。新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた頃に、自宅のネットワーク、オフィスのネットワーク、クラウドの3つに関する記事を掲載しました。一番多く読まれたのは、自宅のネットワークに関する記事です。これまでは帰宅して寝るだけだった場所が、いきなりオフィスになったので、自宅のネットワークをオフィスと同じくらい快適にしなければならなくなったんですね。

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池澤:ワーケーションでもホテルのネットワークがボトルネックになることがありますね。TiNK Officeではヤマハのネットワーク製品を使っているのですが、これまで困ったことは何もありません。

小島:古いネットワーク機器の中には、仕事で使うとセッション数が足りなくなるものもありますが、ヤマハの現行製品はその点もご安心ください。

大谷:今は仕事で多くのクラウドサービスを使いますが、クラウドサービスはセッション数が多いのでネットワーク負荷が高いんですよね。

沢渡:しかも自宅でネットワークを使うのが1人とは限りません。夫婦でテレワークして、子どもが遠隔授業を受けていると、ネットワーク負荷はかなり高まります。コワーキングスペースなどサードスペースを活用することで負荷を分散するのもひとつの解決策だと思います。

働く場所、人材、コラボレーション手段はハイブリッド化していく

池澤:オフィス主体の働き方からテレワーク主体になって、変わったのはどのような点ですか?

小島:ITツールの活用が加速しました。以前から色々なツールを使ってはいましたが、あくまでオフィスありきの使い方でした。遠隔会議も、会議室どうしを結んで「多対多」で行なっていました。いまは、個人がたくさんつながるようになっています。

手がけたルーターを披露するヤマハの小島務氏

沢渡:オフィスでしか仕事ができない人と、それ以外の場所でも仕事ができる人との格差が広がったように感じます。これからは場所を選ばない働き方に慣れている人同士が結びついて、仕事の密度が濃くなっていくと考えられるので、格差はどんどん広がっていくでしょう。

大谷:フリーランスと会社員との格差もありますよね。オフィスに縛られてきた会社員が在宅ワークをするうえで、フリーランスや主婦に学ぶことは多いと思います。特に主婦は細切れの時間の中で家事やいろいろな用事をこなしていて、これは会社員には抜けていた視点です。

池澤:会社にいる人材、復業の人材、フリーランス人材が混ざり合ってきましたね。

沢渡:企業内でも人材の多様化は進んでいます。テレワークが当たり前になったことで、採用する場所に縛られない企業も出てきました。フルリモートを前提に、遠方にいる優秀な人材を採用しています。ライフステージの違いも、テレワークで埋まりました。育児休暇中の人でもオンラインなら、移動時間のロスなく活躍できるようになったからです。オフィスという足枷がなくなったことで、企業が本当に必要としている人材を採用できるようになったのだと思います。

小島:半年くらいテレワークをやってみて、メリットもデメリットもあると感じました。

沢渡:どちらにもメリット、デメリットはあると思います。なじまない人に無理にテレワークを押しつける必要はないと思いますが、そちらの方が似合う人にテレワークという選択肢を渡さないのはもったいないですね。両方を成り立たせるためには、テレワークの前にデジタルワーク化することです。

大谷:オフィスに行ってもいい、テレワークでもいいというハイブリッドが難しい場合もあるようです。GitLabという外資系企業はハイブリッドなワークスタイルで課題を感じて、フルリモートにした企業のひとつです。オフィスでの会話で決まった話がテレワークの人に伝わらなかったり、双方に疎外感があったようですね。

一方で日本ではオフィスで働きたい人がまだまだいて、ハイブリッド型のワークスタイルが求められている現状があります。取捨選択できるようにして、なおかつ公平にするにはどうすればいいのでしょうか。

沢渡:これまでの日本企業は、男性正社員の終身雇用を前提としていました。旧来の製造業をモデルにした働き方で、私は「統制型」とか「ピラミッド型」とか呼んでいます。これを、雇用形態も違う、ライフステージも違う人たちが力を合わせて働く「オープン型」に移行することでイノベーションを促進できると考えています。全社で一気に転換するのは難しいので、職種ごと、部門ごとにできるところからオープン型を取り入れていくといいでしょう。

オープン型組織でのイノベーションを提唱する沢渡あまね氏

池澤:ピラミッド型とオープン型では、根本のマインドから違いますよね。ピラミッド型ではデジタルコミュニケーションであっても、メールのように1対1のクローズドなやりとりになりがちです。オープン型は、みんなが見えるところでチャットするようなイメージ。

大谷:テレワークでチャットツールが注目されていますが、ツールだけ変えてもDMを多用していたらこれまでと全然変わりません。池澤さんが言うように、みんなが見えるところで、全員が同じチャネルで会話するようにすることが重要です。社内でどういうことが起きているのか、誰が忙しいのかが、全社で見えるようになります。

小島:私の部署では、全員が在宅ワークになってから、Teamsで勤怠管理をし始めました。オープンになっているので、誰がどのような仕事をしていて、どれくらい忙しいのかがどこの拠点からでも見えるようになりました。

情報の解像度を高めてオンラインとオフラインの差を縮めるカギは“音”

池澤:最後に、これからの時代の働き方はどうなっていくのか、ヒントをいただけますか?

沢渡:統制型オンリーでは、限界が来るでしょう。特に知的生産性を高めるためには「発想、思考、成長」のサイクルを回さなければいけません。テーマを意識して日々を過ごしているうちに、ひらめきが生まれ、そこからコラボレーションで行動、解決し、また次のテーマに進みます。固定的な環境ではこのサイクルがうまく回りません。

小島:ひらめきや気づきは、Web会議では生まれないという実感があります。たまにオフィスで対面で話をすると、いいアイディアがひらめいたりすることがあります。そういう観点からも、たまにはオフィス、たまにはテレワークという選択肢を持つことが重要なのではないかと感じます。

大谷:テレワークはこれからも普及していく、これは間違いないでしょう。そこで大きなポイントになるのは、音です。オンラインイベントにも慣れてきましたが、先日久しぶりにオフラインイベントに行ったら「やっぱりオンラインには限界がある」と感じました。現場とオンラインの最大の違いは、情報の解像度の高さです。特に解像度に違いを感じるのが、音なんです。解像度を高めてオンラインとオフラインの差をどこまで縮めていけるか、それがヤマハさんに課せられた使命ではないかと思います。

オンラインにおける「音」について力説する大谷イビサ

池澤:まとめると、まずは仕事をデジタル化、オープン化していくことが大切。その先に、ハイブリッドな働き方があるんですね。もしかしたら、プライベートとワークもハイブリッド化して、垣根が低くなるかも知れませんね。ワーケーションなどもその延長線上にあるのかもしれません。本日は、ありがとうございました。

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