n次創作者がインセンティブを受け取れる試み「n次流通プロジェクト」とは?
ブロックチェーンで漫画アニメゲームのファンが得する社会を作る!
漫画をライブ配信するとインセンティブをゲットできる!?
2020年初頭、人気漫画『文豪ストレイドッグス』をはじめKADOKAWAの人気漫画が集結した無料コミックサイト「コミックウォーカー」の協力を得て、ブロックチェーンを利用したまったく新しい「n次流通プロジェクト」の実証実験が催されたことをご存じだろうか?
今回は、プロジェクトで中核的な役割を果たした、電通グループの鈴木淳一氏、シビラCEOの藤井隆嗣氏、角川アスキー総合研究所の中尾文宏氏の3人に、「n次流通プロジェクト」に至る道筋からプロジェクトの中身、そして今後の展開まで詳しく伺った。
ファンによるn次創作にインセンティブを!
「n次流通プロジェクト」とは?
「n次流通プロジェクト」は電通、シビラ、角川アスキー総研など合計7社による共同研究プロジェクト。これまで漫画やアニメなどのコンテンツで著作権が認められるのは原著作者(一次創作)のみであり、あるコンテンツを元に実況配信や同人誌といった別の新たなコンテンツを創作する「n次創作」に関する権利は認められていなかった。
その一方で、優れたn次創作が話題となり新規ユーザーが流入したことで、一次創作の売り上げに貢献するケースも増えている。しかし、現状の著作権や流通シスデムでは、その動きを評価する仕組みがないため、「n次流通」が経済活動に組み込まれることはなかった。このプロジェクトの目的は、原著作者とn次創作者の双方が受けとるインセンティブを設計し、コンテンツの新しいマネタイズ可能性を検討するという野心的なものだ。
「ブロックチェーンへのアクセスが人権になる国」との出会い
―― まず自己紹介とブロックチェーンとの出会いを教えてください。
鈴木 私は電通グループのなかでR&Dを担当する電通イノベーションイニシアティブに所属しています。本格的なブロックチェーンとの出会い=シビラの藤井さんとの出会いですが、座学で面白さを理解したのは2016年夏に東京で開催されたイベントで、より腹落ちしたのは現地エストニアに約1ヵ月滞在し社会実装の有り様についてサービス事業者らとの議論を重ねたことが大きいです。
エストニアでは行政サービスや民間事業など官民合わせて2000を超えるサービスがブロックチェーン上で動いており、しかもそれら高速インターネットに対するアクセスが住民たちの人権とされていることを知ったときでした。
当時、ブロックチェーン先進地域と言われていたエストニア、テルアビブ、ベルリンなどは「政情がそれほど安定しなかった歴史を有する」という共通点があります。エストニアの事例を知ったことで、暗号通貨という代替可能性だけでなく、社会的もしくは政治的な課題の解決策としてのブロックチェーンの可能性に気づいたのです。
そこで、アイデンティティーの証明技術としてブロックチェーンの社会実装を手掛けようと、非金融の領域においてブロックチェーンに取り組んでいる事業者を探していたところ、藤井さんのシビラと出会いました。『日本でも非金融のスタートアップがもう存在しているのか、これは面白い!』と思って伺ったのが2016年の秋です。
―― 鈴木さんはエストニアの事例に感銘を受けて、「アイデンティティーの証明技術」としてブロックチェーンを利用すべく活動を始め、2016年秋にシビラCEOの藤井さんと出会ったのですね。
「結婚や愛」をブロックチェーンに証明させよう!
藤井 シビラは私が起業した5社目の会社です。大学在学中に「アップルすごい! Amazonすごい!」というミーハー的なノリで初めて起業したのですが、実際に行動を起こしてみてわかったのは、「イノベーションをテーマにしたベンチャーの起業はハードルが高く、儲けるのも難しい」ということ。
そこでイノベーションはいったん脇に置き、まず儲けることに特化してなんとか20億円くらいの事業を育てたのですが、『自分はこれを100億円、1000億円に増やしたいわけじゃないよな』と。じゃあ、あらためてイノベーションをテーマに起業したいとなったときに出会ったのがBitcoinでした。
最初は『Winnyみたいな雰囲気のサービスだな。でも、どうせすぐ怒られるやつちゃう?』と思っていたのですが、どうも様子が違うのでホワイトペーパーを見たら、中央に管理者がいないのは(Winnyと)一緒。ただ、ファイルではなく通貨を共有しているのだと知り、『ファイル共有の仕組みで通貨扱うのは危ないだろ。中央なしで改ざんできないって? ほんまにこれ成り立つの?』と。そしてほどなくBitcoinを実現しているブロックチェーン技術に自ずと目がいって、これはすごいな……というのが入り口でしたね。
そこで「60億人から1円ずつ集めたら60億円だからすごいよね」というヨタ話をブロックチェーンは実現しようとしているのでは……と妄想しながら、では我々がやるべきことは何だろうと考えたとき、LGBTの問題に行き着きました。結婚ってまさに人と人、ピアツーピアの契約・誓いであって、本来は第三者の許可なんて必要ないと思ったので、2015年に「ブロックチェーンに愛を刻む、ブロックチェーンに結婚や愛を証明してもらう」というコンセプトを発表しました。
ところが日本ではまだBitcoinとブロックチェーンが知られていなかったので皆ピンと来ない。仕方ないのでアメリカで発表したら、こちらはBitcoinがかなり流行っていたこともあり、「ブロックチェーンで通貨以外を扱うというコンセプトはめちゃくちゃ面白い!」と好反応をいただき、ならば非金融用途で社会実装できるブロックチェーンをもっと研究しようということで、2015年3月にシビラを設立しました。
Bitcoinってそんなに早く捌けないんですよ。1秒間に10も捌けない。このスピードでは非金融に使えないので、まず課題をピックアップして解決しようと、当時はゼロから独自にブロックチェーンを作ったりしていました。
鈴木 上記の活動をされていたシビラさんと2016年秋に出会い、最初に共同研究として取り組んだのは宮崎県綾町の有機農産物の安全性や品質の高さをブロックチェーン技術で保証し、消費者にアピールする仕組みの構築です。
現状、中央集権的に認定された規格をはるかに上回るような自然生態系配慮農法で育てられた野菜も、他の産地のオーガニック野菜も、有機JAS適合品として同じ値段が付けられてしまいます。また、有機栽培を続けると風水害や虫害によって収量が平年から2割くらい落ちる年が発生します。当然、収入も2割減るので、子育てなどのタイミングと被ってしまうことを恐れて、有機栽培から慣行栽培に変更する事例が少なくないのです。
そこで生産者のファンコミュニティがあれば、収量が2割落ちた年には、「2割高く買うから有機栽培を続けてよ」と言ってくれるかもしれないと考えました。これまでの中央流通の仕組みでは、栽培方法が異なっても、単に「みかん M」と画一的なものさしで判定されてしまうのですが、ブロックチェーン技術を使えば価値のものさしを消費者それぞれの判定基準に応じて多様に設定できるのではと。
―― お二方ともに、「“何かしらの価値を証明する”ことにブロックチェーンを利用しよう」という方向性で活動を始められたのですね。
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