世界5リージョンのシステムをAWSへ移行/統合、クラウドジャーニーの成功は「見直しフローをつねに回す」に尽きる
念願のグローバルITインフラ統合を実現、サントリーに学ぶ成功の秘訣
2020年11月04日 07時00分更新
AWSジャパンは2020年10月27日、サントリーグループにおけるグローバルITインフラのAWSクラウド移行事例を紹介する記者説明会を開催した。日本を含む世界5つのリージョンにまたがる全システムをオンプレミスからAWSクラウド上に移行/統合するという、まさにグローバルを挙げての巨大プロジェクトである。現在では日本およびアジアの一部地域で新システムが稼働しており、日本で培われたノウハウのもと、米国や欧州でも移行作業が進行中だ。
これまで世界的な大企業のクラウド移行事例を数多く手掛けてきたAWSだが、同社のアンディ・ジャシー(Andy Jassy)CEOは2019年11月に米ラスベガスで開催された年次カンファレンス「AWS re:Invent 2019」において、「クラウドによるトランスフォーメーションを成功させている企業の特徴」として以下の4つを挙げている。
1. シニアリーダーシップチームの強い決意と協力体制
2. トップダウンでのアグレッシブなゴール設定
3. 人材の育成
4. 最後までやりきる
そして「まさにこの4条件をすべて網羅したケース」(AWSジャパン 技術統括本部長 執行役員 岡嵜禎氏)として紹介されたのが、今回のサントリーによる大規模移行事例である。本稿では、説明会に登壇したサントリーホールディングス 経営企画・財形本部 BPR・IT推進部 部長 城後匠氏、サントリーシステムテクノロジー 取締役 基盤サービス部長 加藤芳彦氏のプレゼンをもとに、サントリーグループが歩んできたグローバルITインフラ統合というクラウドジャーニーの変遷を紹介したい。
グローバル5リージョンでITインフラ基盤の統合、オペレーションの標準化を図る
主力であるビールやウイスキーといったアルコール飲料をはじめ、清涼飲料水や食品、外食など幅広い分野で事業を展開するサントリーグループは、グローバルで300社のグループ会社と4万人を超える従業員を抱える、言わずと知れた巨大食品企業グループである。ここ数年はM&Aにも力を入れており、なかでも2014年の米蒸留酒大手ビーム(現ビームサントリー)の買収は、約160億ドル(およそ1兆7000億円)という金額もあって世界的にも大きな話題となった。
サントリーグループ配下のグループ企業は現在、日本、アジア、オセアニア、米国、欧州という5つのリージョンのもとで運営されている。ITインフラに関しても同様に、基本的にはそれぞれのリージョンが個別のインフラ/データセンターを構築し、インフラの運用もリージョンごとに独立したかたちで行われていた。
しかし今後、ビーム買収のような大型M&Aが増えれば、買収した企業の基盤をすみやかに統合し、グループ全体でシナジーを強めていくことが課題となる。また、グローバル市場でビジネスを拡大していく以上、コスト削減や社会の変化に応じた迅速なインフラ対応、セキュリティレベルの向上、新規ビジネスへのITリソースの割り当てといった要件も求められる。そうした観点から、すべてのリージョンで共通する統合されたITインフラ基盤と標準化されたオペレーション――“Global One Suntory IT Infrastructure”が不可欠となることは明白だった。
サントリーグループが、グループ傘下唯一のIT機能会社であるサントリーシステムテクノロジーとともに、AWSクラウドを前提にしたグローバルITインフラへの統合を模索し始めたのは2015年のことである。当時からすでに多くのグローバルカンパニーがIT基盤をクラウドに移行し、新規のシステムに関してはクラウドネイティブ/クラウドファーストで構築するという選択をしていたが、その最初の候補に上がるのは競合と比較しても圧倒的な実績をもつAWSであることが多い。サントリーグループもAWSのもつ豊富な実績と充実したサポートなど多くの理由により、それほど迷うことなくAWSを選択している。
AWSクラウドに関する技術調査やクラウドジャーニー構想の策定および社内ワークショップの開催、グローバル化に向けての構想策定などを進めるかたわら、全リージョンにまたがったグローバルプロジェクトであることから、サントリーホールディングスは年に2回、全リージョンのCIOを招集した「次世代インフラ会議」を実施。2017年末には全リージョンでITインフラをAWSクラウド上に統合することに合意し、「サントリーアイランド2」というプロジェクト名でクラウドネイティブへの本格的な挑戦を開始する。
「インフラ統合について全リージョンで合意した後は、計画の策定を進めるために、海外各社のITチームを統合プロジェクトにアサインし、サントリーグループの次世代インフラを全リージョンで一緒につくっていくという姿勢で臨んだ。最初のアプローチからグローバルのメンバーを巻き込んだことで、結果として強い一体感を共有しながらプロジェクトを進行できたと自負している」(城後氏)
ここでサントリーグループが描いた統合インフラのゴールイメージは、以下の通りである。
・5つのリージョンにハイブリッドデータセンターを配置したグローバル共通ITインフラ基盤
・各グループ会社の業務システムを最寄りのリージョンに移行
・グローバルオペレーションセンターをオフショア(インド)に構築し、グローバルITインフラ統括チーム(日本)とともに統合運用
・コスト面、最新サービスなどの将来性を考慮し、ITインフラ運用の最小化を実現するため、基本的にすべてのインフラをAWSに移行し、移行できない環境のみプライベートクラウドへ移設
城後氏はさらに、統合インフラ(ITインフラおよびIT運営組織)の目指すべき姿として「クラウド技術を積極的に採用し、標準化/共通化範囲を拡大していく」という方向性を示している。これはインフラ統合後も継続してクラウドを活用し、全リージョンをまたいだ標準化と共通化をインフラにもオペレーションにも適用していくというサントリーグループの明確なコミットメントにほかならない。こうした姿勢は、前述のアンディ・ジャシー氏がいう「クラウドによるトランスフォーメーションを成功させる企業の条件」の1.と2.を満たしていることに着目しておきたい。