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松村太郎の「アップル時評」ニュース解説・戦略分析 第108回

アップルがいまイノベーションを起こしているのは環境対策だ

2020年07月31日 09時00分更新

文● 松村太郎 編集● ASCII

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●環境担当役員の存在

 筆者は教育とともに、アップルの環境問題への取り組みに注目してきました。2013年に環境・政策・社会的イニシアティブ担当として副社長に就任したリサ・ジャクソン氏に毎年話を聞き、アップルの環境対策の進捗について議論をしてきました。

 ジャクソン氏はオバマ政権で米国の環境保護庁長官を務めた黒人女性の化学者。そして世界最大のテクノロジー企業アップルの副社長に就任した、ビジネスリーダーでもあります。そもそも、副社長レベルで環境担当者を置いているテクノロジー企業が珍しく、製品やサービスを作っていく過程に環境対策が組み込まれていくことをあらわしていると言えます。

 米国のトランプ政権を中心として、世界には地球温暖化をはじめとする気候変動と人間の活動や二酸化炭素排出量の増加との関係を疑う声は根強くあります。その一方で、そうした疑問はすでに、アクションを起こさない理由としては使えなくなりました。

 2019年にスウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんが国連で演説した瞬間から、環境問題に向き合わない大人たち、国家、企業は、ブランドだけでなく、投資まで失うことになる、という機運が生まれたからです。その意味で、アップルはそうなる未来を、いくつかの理由で信じて、取り組みを進めてきました。

グレタ・トゥーンベリさん

 その推進役を務めてきたリサ・ジャクソン氏の元には、連日のように全社中から環境負荷を減らすアイディアがメールで集まってくるといい、「社内で最もクリエイティブな仕事」と何度か話しています。

 これまで、ジョナサン・アイブ氏が率いてきた工業デザインチームにより、生活に必要なコンピュータの機能に対してあるべき姿を与えてきたアップル。アイブ氏の2019年の退社によって決定的になったのはクリエイティブの中心が環境対策に移ってきたということです。

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