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~コロナ対策ニーズソン~2日目リポート

保育器のようなシールドカプセルなどコロナ対策案が集結したニーズソン

2020年08月19日 09時00分更新

文● 野々下裕子 編集●ASCII

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なぜアイデアソンではなくニーズソンなのか
NPO法人まもるをまもるインタビュー

 今回のコロナ対策ニーズソンは、急な開催にも関わらず200名を越える応募があり、それぞれ100人を越える参加者が集まった。現在もさまざまな活動が進められているというニーズソンはどのような経緯で開催されたのか。NPOの代表理事を務める西垣孝行氏と大浦イッセイ氏にお話しを伺った。

西垣孝行氏
国立循環器病研究センターで臨床工学技士として従事後、経済産業省医療福祉機器産業室を経て森ノ宮医療大学臨床工学科准教授兼NPO法人まもるをまもるの代表理事を務める。臨床現場を可視化し情報共有するアプリ「evaGraphy」の開発(近畿経済産業局中小企業知的財産活動支援事業費補助金採択)をはじめ、医療従事者を企業やものづくりに関わる組織らと連携して支援するためにさまざまな活動を行なっている。

大浦 イッセイ氏
インダストリアルデザイナー、デザインプロデューサーとしてプロダクトデザインから空間デザイン、ブランドプロデュースなど多数手がけ、デザインの啓蒙活動、アドバイザー活動、人材育成活動を行なっている。2014年からは臨床現場のニーズを基にした医療関連のデザインを手がけ、メディカルアイウェアブランドを設立。2018年にNPO法人まもるをまもるを立ち上げる。

ーー緊急企画としてニーズソンをオンラインで開催することを決めた経緯やどのような応募を行ない参加者が集まったかを教えてください。

西垣氏(以下、敬称略):最初にニーズソンを開催する前に、私が発起人とファシリテーターを務める「臨床工学技士100人カイギ」というイベントのキックオフを3月28日にオンラインで開催したところ大変盛り上がり、リアルと同じようなイベントが開催できるのではという手応えを感じていました。共同代表の大浦氏に相談したところニーズソンの開催が決まり、4月12日には募集告知を始めました。

 あわせて、まもるをまもるでは産業界の力を借りて医療現場の守ろうという活動を立ち上げており、そこに協力いただいていたパナソニックやミズノなどの企業をはじめ、大手企業の若手が参加する有志団体のONE JAPAN(ワンジャパン)にも呼びかけしたところ、企業から約120名、医療関係者から約80名の応募が1週間で集まりました。

 ファシリテーター役はアイデアプラント代表の石井力重氏にお願いし、コメンテーターやメンターでも10名を越える方々に協力いただくことができました。2日間で情報共有からアイデア出しとそのまとめを行うため、実質的な参加者はそれぞれ100人ぐらいでしょうか。チーム分けは情報共有や作業のしやすさを考えて4〜5名にし、医療現場の知識が必要なところもあるので医療関係者が2名は参加することにして、全体で15チームを作りました。

ーー2日間の開催で出されたアイデア以外にもニーズソンで得られた成果や具体的な活動につながっていることはあるのでしょうか?

西垣:いろいろな動きがありますが、現場の感染予防はやはり重要で、フェイスシールドやマスクを届けようという動きが進んでいます。具体的には、ニーズソンで意見が出された感染防止のために患者側をシールドするというというアイデアに対し、感染症患者搬送用ストレッチャーの頭部部分に装着する「飛散防止カバーフレーム」がわずか25時間で作られ、実際に病院に届けることができました。この活動は、一般社団法人 Smart Supply Visionとのコラボ企画である「ちゃんと届けるプロジェクト」の第一弾でもあります。他にも医療従事者のこころのケアに対するオンラインイベントが東北で開催されるなど、予想以上に幅広い活動につながっていると感じています。

大浦氏(以下、敬称略):グループによってはニーズソンが終了した後もディスカッションをしたり、連携を進めているという話しもあります。企業からの問い合わせも多いという印象です。

参照URL:
https://mamoru2.com/news/20200517.html
https://mamoru2.com/news/20200503-2.html

ーーなぜアイデアソンではなくニーズソンなのでしょうか?

西垣:過去にワークショップを運営してきた経験から、医療現場の課題を解決するにはアイデアを出してもらうより、ニーズを深堀りしてそれが必要だと腹落ちさせるところまで行なう必要があると考えているからです。また、医療現場ではものだけ届けてもノウハウが足りないといった問題は意外に多く、ものと人の知恵の両方を届けるところまでアイデアが出せればと思っています。

 今回は感染対策に関するニーズに絞り込み、どのような環境で課題があるのかイメージしやすいストーリーで語ってもらうようお願いしています。できるだけ現場での実体験を話してもらいたいのですが、残念ながら風評被害の問題があるため、参加された医療従事者の方々は匿名で発表してもらいました。発表された情報の扱いについてもできるだけ配慮するようお願いしています。

大浦:ニーズソンの場合は発表した内容が知的財産権に影響するというのはないのですが、アイデアソンの場合は具体的に製品化されることもあり、今後は、命をまもる人の知的財産権もしっかり守れる体制づくりも考えています。

西垣:オンラインを含めてワークショップの運営のプロである石井さんのファシリテーション力もあるのですが、全体的にオンライン会議に参加するということに慣れている方が増えているのもあり、運営で大きな問題はありませんでした。

ーーNPOの活動としてアプリを公開されている「evaGraphy(エヴァグラフィー)」の運用やそのほかにも今後の予定されている動きやプロジェクトなどがあれば教えてください。

西垣:evaGraphyは医療現場の違和感を写真に撮って共有し、そこに付けられたコメントから課題やニーズを創造し、解決につなげることを目指すサービスとして運用していきます。アップされた写真は「画」、コメントは「賛」として著作権を保護し、それぞれの著作権がポイントやインセンティブに変わるしくみを考えています。近畿経済産業局が支援する「知財創出ワークショップ事業およびソフトウェア開発・運用事業」に採択されたことで得られた予算を元に昨年から開発し、コロナ対策に活用できるよう予定より早く運用をスタートしました。

大浦:医療現場の違和感を写真に撮って一般公開することはなかなか難しいのでクローズドで運用していますが、オープンで誰でも参加できるようなテーマで、匿名で投稿できるなど、運用は今後もアップデートしていきます。

 また、evaGraphyに投稿される違和感から、医療現場で使用する製品のユーザビリティ評価イベントを開催し、有識者に評価者に参加していただくなど、命をまもる人をまもることに特化した情報を共有することを考えています。

 これまでのグローバリズムの経済では、安価で大量に製造できるという理由から、素材や部品などの製造拠点が海外にありましたが、そのことが原因で医療現場にぜったいに必要な製品が届かないという、今すぐに解決する必要がある大きな課題も表面化しています。国内生産してもちゃんと経済が回る「命をまもる経済」のしくみづくりをみんなで考え、地域の医療現場の課題を地域で解決する「命をまもる人をまもる地消地産経済」に寄与できればと考えています。

西垣:今後もいろいろな活動やプロジェクトを進めていきますが、どれから進めるかという優先順位を付けるのではなく、常に「いのちをまもる人をまもる」ことを目的として、できることからやっていく“エフェクチュエーション”で活動してゆくことを考えています。

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