富士フイルムのXシリーズには「フィルムシミュレーションモード」がある。普通のデジカメなら「スタンダード、ビビッド、ナチュラル、モノクロ」といった写真の仕上がり具合をあらかじめ設定しておくことで、色を濃い派手目の写真にしたり、あまり色やコントラストを乗せない柔らかめの写真にしたりできる。それらは「カラーモード」や「ピクチャーモード」などと呼ばれているのだけど、富士フイルムは元々日本を代表するフィルムメーカーだったこともありそれに「フィルムシミュレーション」と名づけてるのである。
おおむね、富士フイルムが過去に出していたフィルムと現役のフィルム(ちょっとだけ)で撮ったときのような仕上がりが得られるのだけど、それがどんどん増えてきて、「X-T4」には「クラシックネガ」という、文字通りクラシックなネガフィルムで撮った写真の様な風合いのモードを開発してきた。これで街猫を撮ると似合うのである。冒頭写真がそうだ。
2020年にもなってわざわざクラシックな写真を撮るのもなんだかな、どうせなら未来っぽいフィルムシミュレーションが出ないかなと思わないでもないけど(いやそれがどういうのかと聞かれても大変困るのだが)、ちょっとくたびれた街猫にすごくいい。
こちらは同じ場所にいた猫。この猫を最初に見つけて、1枚撮った後もうちょっと撮らせてくれないかなと近寄ったら逃げちゃって、冒頭写真のチャトラハチワレを発見したわけだ。
とあるマンションの裏手なんだけど、ここで這いつくばって撮ってたらマンションの住人の方が帰ってきたので、不審者と思われる前に「すみません猫を撮らせてもらってます」と挨拶すると、その方も猫好きだったようで、この猫(チャトラのハチワレ)はちょっと病気してて大人しいんだけど、もう1匹(キジトラのハチワレ)は警戒心強くてすぐ隠れちゃうんだよ、と教えてくれた。確かに冒頭写真のチャトラのハチワレはちょっと年を取って弱ってるようだ。
お次は近所を、たまには歩いたことない道でも歩いてみようかと狭い暗渠を歩いてたら出会った猫。草むらがいい感じだったので両目が見える隙間を探してAFポイントを最小にして狙ってみた。クラシックネガは緑を独特の色で表現するので(それこそ昔の写真っぽい感じ)こういうシーンがいい。
狭い隙間にも合う。トトトと道路を横切って家と家の隙間に飛び込んでいった猫を見かけたのでそっと追ってみると、ちょうど振り返ってくれた。
AFが速いので、こういうとき助かる。猫AFがあればもっとラクできるんだけど、そこはしょうがない。さらにご近所散歩。遠出できないので近所を歩くくらいしかないのだが、地図を見ながらいつもは歩かない道を選んで歩いてると出会ったことない猫たちと出会えたりしてそれはそれで楽しいのである。
道路にいたハチワレと目が合ったが、まさか人が来るとは思わなかったって顔で驚いてとととっと脇に逃げてしまったのである。ああ、警戒されちゃったか、と思いつつ念のためチェックしに行くと、少し開いた玄関からこっちを覗いてる姿が。いったん隠れて様子を見ていたらしい。このおうち、多分この猫を世話してて、出入りできるだけの隙間を開けてたのだろう。
なかなかの美猫なのでダメ元で呼んでみると、訝しげな顔をしながらそろそろと出てきたではないか。手前の門扉に顔が隠れちゃうのでとっさに背面モニターを開き、地面すれすれからレンズを向けると、首をぬーっと伸ばした瞬間がいい感じに撮れたのであった。実に色気のある猫に撮れたのでありました。しぶくてよい感じ。
そんな感じで今回は全写真をフィルムシミュレーション「クラシックネガ」で撮ってみたのである。このモード、侘び寂び猫って感じでハマりそう。
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筆者紹介─荻窪圭
老舗のデジタル系ライターだが、最近はMacとデジカメがメイン。ウェブ媒体やカメラ雑誌などに連載を持ちつつ、毎月何かしらの新型デジカメをレビューをしている。趣味はネコと自転車と古道散歩。単行本は『ともかくもっとカッコイイ写真が撮りたい!』(MdN。共著)、『デジカメ撮影の知恵 (宝島社新書) (宝島社新書)』(宝島社新書)、『デジタル一眼レフカメラが上手くなる本』(翔泳社。共著)、『東京古道散歩』(中経文庫)、『古地図とめぐる東京歴史探訪』(ソフトバンク新書)、『古地図でめぐる今昔 東京さんぽガイド 』(玄光社MOOK)。Twitterアカウント @ogikubokei。ブログは http://ogikubokei.blogspot.com/
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