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山根博士の海外モバイル通信 第492回

スマホメーカーのカメラ進出は無謀だった、Meituのカメラに思いを寄せる

2020年04月23日 10時00分更新

文● 山根康宏 編集●ASCII

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スマホ事業も売却してしまったMeituは過去にカメラを出そうとしていた

 スマートフォンメーカーがデジカメも手掛けている例としては、ソニーが唯一と言える存在です。以前はサムスン電子もデジカメ事業を展開しており、デジカメ型の「Galaxy Camera」やレンズ交換式の「Galaxy NX」など、Androidを搭載したカメラやコンデジなどを開発していました。しかし、2015年春に最後のモデルを出した後、市場から撤退。デジカメ市場は年々規模縮小が続いており、技術力とマーケティングに長けた企業しか生き残れないのです。

 しかし、そのサムスンと入れ替わるように2015年末にデジカメ業界に進出しようとしたスマートフォンメーカーがありました。セルフィー機能を強化して、今はシャオミ傘下となったMeitu(メイトゥ、美図)です。当時のMeituは美顔スマートフォンが中国語圏の女性にヒットしはじめ、事業拡大を目指しているところでした。

女性受けしたMeituのセルフィースマートフォンたち

 Meituが販売しようとしたデジカメ「BF1」は同社のスマートフォンユーザーが旅行に持っていくときにアウトカメラで風景やポートレート写真を撮影することを意識して開発されたものでした。本体は正方形でデジカメとは思えないイメージ、レンズは標準で14-42mmが付属します。どんなカメラだったのかは過去記事をどうぞ(スマホメーカーがカメラに進出! Meituのミラーレス機「BF1」が登場)。

 Meituのスマートフォンのセルフィー機能は、フロントカメラの画質と画像処理、さらにソフトウェアによる自然な加工のバランスが良く、当時のモデル「V4」でもその自撮りの美しさは今でも十分通用するレベルを持っています。しかし、アウトカメラではボケを利かせたり暗い場所での撮影などに弱く、風景写真などを取るにはやや不満が残るところでした。ならばスマートフォンと一緒に持ち運べるデジカメを出してしまおうと考えたのでしょう。デジカメを出せばカメラに強いメーカーというポジションも狙えます。

 BF1はマイクロフォーサーズ規格を採用し、レンズは自社で開発する必要は無く、他社品をそのまま使える設計にしました。マイクロフォーサーズ規格に新規参入する中国メーカーということで、当時は話題になったものです。ところがBF1は当初発売予定の2016年上半期になっても登場せず、結局発売されないまま終わってしまいました。

 発売中止になったのは開発が追いつかなかったのか、市場の変化があったのかはわかりません。筆者が参考記事で取材した製品もモックアップで、動作はしませんでした。レンズだけは動作品で、Meituのロゴがはいっていますが製品そのものはパナソニックの「Lumix G X VARIO PZ 14-42mm F3.5-5.6」のOEM品だったのです。

Meituのロゴの入ったレンズ。中身はパナソニックのものと同じ

 そのMeituのレンズだけが、なぜか中国のECサイトに格安で出回っていました。どうやらBF1の開発が終わるよりも前に、レンズだけはパナソニックにオーダーを出していたようです。しかしBF1の発売がなくなり、製造されたレンズの処遇はうやむやに。もしかするとMeituが全量購入したものの倉庫に在庫として抱え、その後シャオミにスマートフォン事業を売却する際、レンズを現金化するために放出されたものが出回ったのかもしれません。

 ということで、筆者は中国のタオバオでMeituのレンズを購入。実は買ったのはかなり前で、2019年の夏でした。このレンズを使うシチュエーションってのがなかなかなかったのです。今となっては「Meitu」のロゴ、しかも昔のロゴが入っているレンズはそれはそれで貴重でしょうか。レンズキャップもMeituロゴ入りなのは、Meituを使っていたユーザーにはうれしいかも。

自社開発ではなくパナソニックのレンズのOEM品

 筆者はオリンパスの「OM-D(E-M5)」を長年使っていますが、ボディーはブラックでMeituのレンズをつけてもしっくりきません。そこでわざわざ中古でオリンパスの「E-PL3」のホワイトを購入。さらにストラップもソニー純正の白いストラップを購入。Meituのレンズを引き立てるために、あえて本体とストラップまで買うという本末転倒なことをやってしまいました。

レンズのために白いカメラとストラップを購入

 さて、実際にレンズを付けてみて何枚か写真を撮ってみましたが、屋外のスナップ写真を撮るなら十分使えます。とはいえ、今の時代ならスマートフォンがあればその手の写真も事足ります。デジカメならばボケを強めた写真なども撮れるでしょうが、筆者がこれを買ったのはMeituというメーカーが好きだったから。思い出の品として、コレクションとして入手したのです。

すべて白で統一するとMeituのカメラっぽく見える

 こうして白一色のカメラを見ると、MeituがBF1をもしも発売していたらどうなっていただろうか、などと考えてしまいます。おそらくですが販売はうまくいかなかったと考えられます。Meituのスマートフォンが受けたのは「自撮りを即座にSNSにアップできる」から。これがスマートフォンのアウトカメラで写真を撮影し、その画質に満足いかないというユーザーならミラーレスや一眼デジカメを買うという選択肢はあるでしょう。しかし自撮りユーザーがデジカメを買うとは思えません。

製品化されたとしても売れなかったと推測される

 Meituはその後、2017年に「ムービーモード」を備えたスマートフォン「V6」をリリースします。これはアウトカメラでボケの効いた動画を撮影できる機能。つまり静止画を飛び越えて、動画でのボケ撮影にいち早く対応したのです。当時他社のスマートフォンでも動画のボケに対応したものはほとんどなかったはずです。このようにMeituは意外と市場の動きを先読みしており、デジカメを投入しなかったのも市場参入する意義がないと判断したのでしょう。

Meituの夢は結局すべて破れてしまった

 やがて他社のセルフィー機能も美顔モードやボケ機能を強化していったことにより、Meituの優位性は数年で薄れてしまいました。その結果2018年にMeituはスマートフォン部門をシャオミに売却、従来から展開していた美顔アプリ「BeautyPlus」などを開発するソフトウェアメーカーになってしまいました。もし、Meituがデジカメを出していたとしても、この結果はいまと変わらなかったでしょうね。ニッチな市場ながら人気を誇ったMeituの過去を忘れぬよう、これからもこのレンズとカメラは筆者の机の上に飾っておこうと思います。

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