このページの本文へ

前へ 1 2 3 次へ

「起業家教育」中小企業庁前田泰宏長官×ビジョナルCEO南壮一郎氏対談

社会に出てからも起業家精神を持っていることは強みになる

2020年03月24日 11時00分更新

文● 相川いずみ/編集● 村野晃一(ASCII編集部)

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

外部からの学びでモチベーションに火をつける

南:親の転勤で、子ども時代に、言葉も文化もわからない海外で過ごし、帰国したときも最初は日本語があまりわからず、ずっとマイノリティに属していました。生きるためには、観察しながらサバイバルしなければならなかったんです。そういう立場から見ると、日本の起業家教育においては、マイノリティや多様性という点がちょっと少ないように感じます。「今日の当たり前」が、「明日の当たり前」でないかもしれない。これからの時代の働き方の根幹にあると思います。

 大きい会社に終身雇用で入ったとしても、倒産する可能性もある。時代に合った働き方や、働く長さを、自分自身で設計し直せるか。高校生だろうが社会人だろうが、前田長官のおっしゃった学び直しもそうですし、学ぶ力、学び続けるという力が必要だと思います。

前田:どんな優秀な人であっても、設計変更ができなければだめですね。これまではひとつの会社に入って、定年後は誤差の範囲でぶらぶらできましたが、現代は誤差が50年……大きすぎます(笑)。 ですから、40~50歳で、社会の基本システムが大きく変わったことも併せて、義務教育をやり直す。そのうえで、ソーシャルエデュケーションしていかないと不具合が起きるでしょう。

南:経済産業省の「空飛ぶクルマ」というプロジェクトで、副業・兼業として"週一官僚"を募集していましたが、このフォーマットを活用するというのもありかと思います。

 たとえば、起業家や社会人が、地元の学校に行き、1学期間ひとつのカリキュラムを副業として教えるんです。民間の企業で働いた経験がない学校の先生が起業家教育をやるのは難しいと思いますし、反面、教えたいと思っている人はたくさんいます。また、人に教えることは学ぶことより難しく、教える人にとってもいい勉強になります。先ほど挙げた多様性でもあり、教わる生徒も色々な大人がいるということに気付くことができます。

 起業家教育に関しては、文部科学省とコラボレーションして、起業家以外でも、企業で学んできた人が教えに行くこともよいのではないでしょうか。

前田:勉強が苦手な子にどう勉強させたらいいかという相談を受けた際、「料理をつくらせてみるといい」と答えたことがあったんですよ。料理をつくる段取りは、勉強と一緒だから。美味しいものができたら、友達を呼んで「子ども食堂」なんてこともできるかもしれない。

 そうしたモチベーションやきっかけは、学校の教科からは出てこない。どうやって外から持ち込むかということですね。だから、外部の人に入ってもらうことは、とてもよいと思います。

 ストレートに勉強の仕方を教えるのではなく、モチベーションにどう火をつけるのか……という話になるんではないでしょうか。それが、ひいては起業や再教育のきっかけづくりになるかもしれないですね。

南:料理でもものづくりでもなんでもいいと思います。別に、起業する際に、インターネットの会社である必要はない。自分で何か考えて行動する、起こす、人を巻き込むという原理原則がやはり重要なのだと思います。ただ、学校の中だけでは触れ合いも限定されてしまうので、外部を交えてやることに意味があると感じました。

 大きく成功しようと思うと「私には無理」になってしまうので、小さな成功でいいんです。例えば10年かけて利益が出ていて、地域に貢献している商売って何なのかという点に焦点をあてたほうが、生徒たちが興味をもつと思います。あるいは、一度失敗した人の話を聞いてみようという方がいいですね。リアルなところにぶつけていかないと、ただの美談で終わってしまいますから。

プログラミング習得で起業家に

南:起業家教育においては、あまり目標を上にあげすぎない方がよいと思います。「何かものをつくって、誰かに使ってもらう」ということでも十分だと。たとえば、ウェブサイトをつくれたら起業できますよ。

 ちなみに、今いちばん起業しやすいのはプログラミングですね。エンジニアやプログラマーが圧倒的に不足していますから。もし、高校生全員がプログラマーになったら、全員が1人企業として起業できますよ(笑)。

前田:そこから、次のステップにいけばいいですね。有名な企業を辞めて、個人事業主になっている人も多いですし。

南:まずは受注から始めて、次に自分で考えてサービスつくっていくと。

 これから義務教育にプログラミング教育が入ってきますが、プログラミングのような新しいジャンルは、民間の人が教えるほうがいいかもしれませんね。専任の先生の仕事はそのままで、特別な授業だけを副業の民間人が教えるというスタイルです。

前田:外から来た先生に褒められると、子ども達は頑張りますからね。

南:私は文科省のスーパーグローバルハイスクールの企画評価委員をやっていますが、探究教育のなかで、「スーパービジネスハイスクール」などができたらおもしろいのではないでしょうか。重要なことは、コラボレーションです。色々な角度で色々なものに触れあうことは、学生でも必要です。教育とは、私から見ると、いい社会人になるためのものだと思います。労働市場において、どういう人材が足りなくて、どういう人材が過剰かというデータを、教育に持ち帰ることで、そういう知識のある人を輩出しようというのが、日本全体の政策としても大事だと思います。

 社会のなかでどうして起業が大切なのか。結局は、生産性を劇的に上げるための起爆剤です。絶対的に必要であるならば、民間と連携しながらカリキュラムをつくっていくのがいいと思います。

前田:日本は、ポテンシャルがあるのに地域も企業も人も過小評価している傾向があります。外部からの要素を入れることで、企業も人も過小評価の封印が解けるかもしれませんね。

前へ 1 2 3 次へ

カテゴリートップへ

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ