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業界を知り、業界をつなぐX-Tech JAWS 第23回

虎の穴と北海道テレビ放送はアップデートと業界動向を披露

Timers、POL、PIAZZAなどがビジネスと技術を語る第10回X-Tech JAWS

2020年02月05日 09時30分更新

文● 重森大 編集●大谷イビサ

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クラウドそれぞれのいいとこ取りでシステムを構築するPIAZZA

 PIAZZAは、街づくりを変革するLocalTechの紹介があった。「『人々が支え合える街を作る』サービスを支えるログ基盤」と題して、同社のサービスと、そこでAWSがどのように使われているかが紹介された。ちなみにPIAZZAとはイタリア語で広場という意味で、街をつなぐプラットフォームになりたいという思いが込められた社名だ。

 かつて街づくりといえば、駅前再開発や市民が集まる施設の建設などハードウェアが中心だった。しかしそこにも変革のタイミングは訪れており、ハードウェアからソフトウェアへ、街の価値をはかる基準が移りつつあると矢野 晃平さんは言う。

PIAZZA 矢野 晃平さん

「不要品の譲り合いや、ご近所イベント情報の共有、近所のことについてちょっと教えてもらいたいというつながりなど、ソフトウェアで街の価値が高まることを実証してきました。PIAZZAの特徴は行政、インフラ会社公認のサービスであることと、可視化しにくい街それぞれの価値をコミュニティバリューとして数値化、可視化していることです」(矢野さん)

 ローカルコミュニティはデジタルだけでは成り立たないため、デジタルとリアルとの回遊を促進し、コミュニティスコアを向上させる。「街づくりを科学する」ことを標榜しているそうだ。

 何かを可視化する際に必要なもの、それはデータだ。PIAZZAではさまざまなログを収集し、分析している。ログ収集基盤を作ったのは、創業時からエンジニアとして参加している奥澤 考志さんだ。

「一般的に複数のシステムからログを収集するには、ログサーバーを立ててそこに各システムからログを送信します。しかしサーバーを立てるとメンテナンス対象が増えるので、できれば避けたいと思いました。そこで目を付けたのが、AWS Lambdaです」(奥澤さん)

PIAZZA 奥澤 考志さん

 サーバーからログを送信する代わりに、定期的にLambdaを起動してRailsのログを集めている。収集したログは分析のため、Google BigQueryへ。こうしてサーバーレスでログを収集して分析できる基盤ができあがった。さらに可視化するため、Gooble Apps Scriptを使い、Googleスプレッドシートとして分析結果を出力、Googleデータポータルでダッシュボードを作っている。

「当時は週2日だけ参加する復業状態でしたが、可視化まで2週間程度で構築できました。サービスが地場に根付いていて集まるデータ量もさほど多くないため、ログ収集から可視化まで無料範囲で収まっています。Lambdaの安定性が高く、メンテナンスいらずなのも助かりますね」(奥澤さん)

 JAWS-UGでの発表ながら、AWSはLambdaだけ。可視化にいたってはオールGoogleという構成だったが、小規模なシステムでもそれぞれのおいしいとこ取りをしたマルチクラウド構成が効果をもたらすことがわかる事例とも言えるだろう。

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虎の穴のAniTech、北海道テレビ放送のMediaTechにもアップデート

 後半はAniTech企業の雄、虎の穴と、MediaTechで注目されている北海道テレビ放送(HTB)の2社が登壇。アニメが大好き、水曜どうでしょうが大好きな筆者としては、俺得なセッション続きであった。

 虎の穴といえば同人誌をずらりと並べたお店がまず思い浮かぶが、実はオンラインでも数多くのサービスを提供している。同人誌の通販はもちろん、コミケで並ばずに済むお取り置きサービス「とらのあなKEEPER」、月額制でクリエイターを支援するファンディングサービス「Fantia」、さらにはオタクに特化した結婚相談サービス「とら婚」も展開、成婚者数はすでに260名を突破しているそうだ。

「オタクの抱える問題をテクノロジーで解決していきたい。しかしなんでもかんでもIT化すればいい訳じゃない。同人誌も紙の本がいいというファンは多く、1万平米規模の、恐らく日本最大の同人誌倉庫も持っています」(虎の穴 CTO 野田 純一さん)

虎の穴 CTO 野田 純一さん

 技術面では、サービスごとに適したプラットフォームを選択、組み合わせて使っている。AWSはメディア配信系やコンテンツ処理系に使うことが多いようだ。内容としては2019年のJAWS DAYSで語ったもののアップデート版ということで、既に知られている話題も多かったようだ。それでも「エンジニアが持っている力で好きな業界を変えていきたい」と語る野田さんの言葉は力強く、アニメ好きとして頼もしいものだった。またスライドの各ページにキャラクターが描かれていたのも、個人的にはポイントが高かった。萌えキャラ大好き。

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 続くHTBのセッションでは「今回は自腹で参加です」という三浦 一樹さんがサーバレスで有料ライブ配信システムを構築した話をしてくれた。こちらもいくつかの場で話している内容なので技術的な面では目新しい情報はなかったが、さすがメディアに携わる人だけあり、毎回違う切り口を取り入れて語る姿勢はさすがと言うしかない。

北海道テレビ放送の三浦 一樹さん

「2020年4月からNHKがインターネットで常時同時放送を開始できるよう法改正されました。民放も追随するしかないでしょう。そうすると、地方でもキー局の番組をネット経由で観ることができるようになります。これは、地方局やばいです」(三浦さん)

 キー局の番組を直接視聴できる関東地方以外では、地方局がキー局の番組を放送することで全国放送が成り立っている。この際にキー局から地方局に支払われるネットワーク分配金が、広告と並ぶ収入の柱となっている。

「2019年度には地上波テレビに投じられる広告費よりもインターネットに投じられる広告費が上回ることが確実になっています。これに加えてネットワーク分配金を支払わなくてもキー局がインターネットで全国放送をするなんて話になったら、地方局はマネタイズの危機です」(三浦さん)

 地方局は新しいマネタイズ方法を考えなければならないと三浦さんは言う。その一例が、2019年11月に開催された水曜どうでしょう祭りのライブストリーミングという訳だ。高価な放送機器をイベントのためだけに購入するのでは割に合わないが、クラウドなら使い捨てにできるうえ、AWSにはMedia Servicesがあるのでほとんどノーコードで課金サービスを構築できる。水曜どうでしょう祭りのライブストリーミング配信は、初めてのトライにもかかわらずサービス単独で黒字を達成したそうだ。HTBは水曜どうでしょうという飛び道具に近い強力コンテンツを持っているのでやや事情が特殊な気がしないでもないが、他の地方局もそれぞれのコンテンツを活かして積極的に真似をしていくべきだろう。

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