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さくらの熱量チャレンジ 第41回

ローム主催のハードウェア作品コンテストで最優秀賞、開発チームが考える社会課題の解決策

ハッカソン好き技術者が考えた未来のゴミ箱は「自分でお金を稼ぐ」?

2020年01月17日 08時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp 写真● 曽根田元

提供: さくらインターネット

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電子決済からゴミ量の検知、ゴミの自動収集まで盛り込んだプロトタイプ

 このコンセプトに基づいて出来上がった未来ゴミ箱のプロトタイプは、次のとおり、大きく3つの部分に分かれた構成になっている。

未来ゴミ箱の構成要素。大きく3つの独立した部分に分かれている

●電子決済により開く「フタ」部分
 ゴミを捨てたい人が「LINE Pay」で決済すると、スマートフォンの「LINE Things」アプリがBluetooth経由でゴミ箱側に信号を送信。受信した「Obniz(オブナイズ)」がサーボモーターを作動させてフタが開く。

●ゴミ箱が一杯になったことを検出する「センサー」部分
 ロームのセンサー評価キットに取り付けた近接センサーにより、ゴミ箱内のゴミが一杯になったことを検知。Arduinoボードとsakura.ioを介して通知を送信する。またGPSセンサーも搭載しており、ゴミ箱の位置情報を同時に送信することで、可視化アプリの地図上にどこのゴミ箱が一杯になったのかをプロットする。

●ゴミ回収場所まで移動する「自走」部分
 GPS位置情報に基づき、Arduinoで「KeiganMotor」を制御して所定のゴミ回収場所まで自走させる。またゴミ箱本体に距離センサーを搭載しており、障害物を検知して衝突を防ぐ。

フタ部分とセンサー部分の実際。センサー部分は、Arduinoボード+sakura.io(LTE通信モジュール)+ロームセンサー評価キットを積み重ねて構成

 なお最後の自走部分は未実装であり、ゴミ回収場所まで自ら移動する仕組みは備えていない。その代わりにsakura.ioと「Twilio」を使って、ゴミが一杯になった場合には管理者のスマートフォンに通知する(電話を鳴らす)仕組みとしている。これだけでも、ゴミ箱を定期巡回する頻度を減らす効果がある。

 「今回はプロトタイプなので機能を絞り込みましたが、センサー部分は独立しているので、ほかのセンサーを追加すれば街なかの“データロガー”としても使えます。オープンデータ用のデータとして自治体に販売する、といったアイデアも考えられますね」(吉松さん)

メンバーそれぞれの得意分野の間を「sakura.io」がつなぐ

 未来ゴミ箱チームは学生、社会人の混成チームであり、短い開発期間中に全員が集まれる機会は限られていた。それぞれ独立した3つの部分で構成するようにしたことで、たとえば柏木さんは「フタ」部分担当、吉松さんは「センサー」部分担当といった具合に、それぞれのメンバーが担当部分の開発を進め、最終的にそれらを持ち寄って作品を完成させることができた。

 もうひとつ、開発方針で迷ったときは「最初のコンセプトに立ち戻る」ことも意識したという。開発途中にはメンバーから「こういう機能も盛り込みたい」と新たなアイデアが出ることもあったが、あれもこれもと盛り込んで行くと、本来訴えたかったコンセプトがぼやけてしまったり、開発が間に合わなくなったりするおそれがあった。

 「たとえば『ゴミ箱にしゃべらせる』というアイデアが出たこともあります。そんなときは一度原点に戻って、それが本当に大切なのかどうかを考え、最終的にはリーダーである柏木さんがやるかやらないかを判断しました。やはり、最初の課題提起と解決の方向性がしっかり設定されていたからこそ、チームでの開発もうまく行ったのだと思います」(吉松さん)

 またメンバーそれぞれで、ハードウェアが得意な人、ソフトウェアが得意な人というギャップもあった。それを埋めるために、sakura.ioが重要な“橋渡し役”を果たした側面もあったという。

 たとえばGPSセンサーを搭載した際、位置情報をsakura.io経由でクラウドに送信する部分はハードウェアが得意な吉松さんが担当し、sakura.ioのAPIデータからゴミ箱の場所をマッピングする可視化アプリはほかのメンバーが開発した。

 「アプリケーション側の人はハードウェアが苦手、反対にハードウェア側の人はアプリケーションが苦手、というのはよくある話です。なので、アプリケーションとハードウェアの中間を埋めてくれるsakura.ioという存在は、すごくいいと思いました」(柏木さん)

 さらに、sakura.ioが信頼性の高いLTE回線を使っていること、通信モジュールからクラウドサービスまであらかじめパッケージ化されていることも、短期決戦で開発を進めるうえではプラスになったという。「『データがちゃんと送信できているか』といった基礎的なことを気にしなくてもよく、その先で何をするかをじっくり考えることができました」と吉松さんは評価している。

エンジニアとして社会とのつながり、ビジネスとのつながりを目指す

 ROHM OPEN HACK CHALLENGE 最優秀賞の副賞として、12月開催のハードウェアコンテスト「GUGEN 2019」のシード権も獲得した未来ゴミ箱チーム。吉松さんは、最初は6月のデジットハッカソンで終わると考えていたが、9月のROHM OPEN HACK CHALLENGE、そして12月のGUGENへとつながり、「思いのほか長期プロジェクトになりました」と笑う。今後さらに開発を続けるかどうかは、これからチームで話し合っていくという。

 「いずれにせよ、ゴミ箱をめぐる社会課題からたくさんのプロダクトの使い方まで、未来ゴミ箱の開発を通じて多くのことを学べたと思っています」(柏木さん)

 将来的な目標として、吉松さんは「単に面白いモノではなく、それを通じて生活が変わる、自分の抱える課題が解決するようなモノを作っていきたい」と語る。

 「たとえば新しいゴミ箱の開発でも、ゴミ箱が変わることでゴミを捨てる人の行動がどう変わるのか、そういったことまで観察できるようなエンジニアになれたらいいなと思っています」(吉松さん)

吉松さんが開発中の「方向音痴を改善する」地磁気センサー内蔵ウェアラブルデバイス。光と振動で常に「北」を指し示す。「もしもsakura.ioのモジュールがここに入るサイズになると、さらに用途が広がると思います」

 また柏木さんは、これまで個人的な趣味でハッカソンやコンテストに参加してきたが、最近ではそれが社内でも知られるようになり、「徐々に仕事内容にも影響し始めています」と語った。

 「ハッカソンを通じてプライベートで得た知識を会社のビジネスで、また業務中に仕入れた知識をハッカソンで発揮する――そんな形で、いい循環ができるのではないかと期待しています。そのうち『仕事でハッカソンに出てきます』と言えるようになりたいですね(笑)」(柏木さん)

(提供:さくらインターネット)

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