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長谷川秀樹氏が聞いたコミュニケーションと業務のなじませ方

エンジニアマインドのクックパッド社員はSlackをいい感じに料理してる

2019年12月20日 10時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

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 みんなのボスであるロケスタ長谷川秀樹氏が、Slackを業務に活かしている会社としてうかがったのはクックパッドだ。テクノロジーの目利きにおいてネット業界で高い評価を得るクックパッドで取材対応してくれたのは情報システムを担当している星北斗氏。取材時間はちょうどお昼時で、恵比寿本社のオープンキッチンでは社員が料理を始めていた。(以下、敬称略 モデレーター アスキー編集部 大谷イビサ)

昼時のオープンキッチンで取材スタート!

「あの人はチャット見てないから」という会話が社内にあった

大谷:まずは星さんの自己紹介からお願いします。

星:クックパッドはいま日本とグローバルで事業を展開しているのですが、僕はそのうちの国内事業のVP of Technologyを担当しています。分野としては、開発基盤、SRE(サイト信頼性エンジニアリング)、セキュリティ、品質管理、モバイルアプリの開発、ユーザー認証・決済などの基盤、研究開発など……。

長谷川:テックまわりほぼ全部じゃないですか(笑)。

星:はい(笑)。実際のサービス開発は各事業部がやっているので、ユーザーに対するところ以外は確かにほとんどやっていますね。あとはコーポレートエンジニアリングと呼ばれるいわゆる情シス部門も担当していて、Slackの導入はおもにここのお仕事になります。

クックパッド VP of Technology 星北斗氏

大谷:では、改めてSlack導入の経緯をお聞かせください。

星:Slackの利用自体は、情シスが主体としてやっているというよりは、サービス開発をしている現場のエンジニアから使われ始めました。その後は他のチームからもSlackを使いたいという声が出てきて、全社に拡がっていった感じです。今は全社員でSlackを使っています。

長谷川:どれくらいから使っているのですか?

星:僕が学生のアルバイトとしてクックパッドに入ったのは2010年。そのときはエンジニアやサポートがSkypeを使っていたのですが、それからHipchat(アトラシアン)に移りました。全社員にアカウントが払い出されていたのですが、利用頻度はかなり部署によってばらつきがあり、エンジニアの方がヘビーに使っていましたね。だから、「あの人はチャット見てないから」といった会話も社内にはありました(笑)。それからSlackに移行したのは2016年4月です。

長谷川:昔から使っているイメージありますが、比較的最近なんですね。

星:そうですね。一部のチームがHipchatからSlackに移行していきましたが、グローバルは最初からSlackをメインに使っていました。その段階で、Slackへの全面移行を決めました。

長谷川:エンジニアの人たちが「Slackかっこええやん」といって自然発生的に使い出すというのはイメージ的に理解できるのですが、そこから営業や非エンジニアの人たちに展開することへの抵抗なかったですか?

星:Hipchatに比べて単純にできることが増えるだけなので、正直移行への障壁はありませんでした。Hipchatも文化と言えるほど根付いていたわけではないし、そもそもチャットの概念自体が大きく変わるわけでもないので。他ツールとのインテグレーションや、チャットに書かれたコマンドでデプロイするといったこともすでにやっていたし、エンジニアと相性のよいツールであることも理解していました。

あと、今の成田CTOが「Slackに移行するぞ」ときちんと旗振りをしたのが大きかったです。これが「システム部門からのおねがい」になるとちょっと大変ですが、全社の統一方針としてSlackに移ったので、大変ということはなかったです。チャット文化が醸成され、ツールへの依存度が高まったのは確実にSlackに移行してからなので、ここから他のツールに移すのは難しいかもしれませんね。

整然としたチャンネルより、あちこちでの雑談の方が好き

長谷川:以前の会社でもG SuiteやSlackは使っていたのですが、メルカリに来て驚いたのは使い方が全然違うこと。チャットでおしゃべりしているというより、言葉はださいけど「オンライン会議室」というか、プロジェクトごとに常時Slackで物事を決めているんです。しかも、ほとんど社員なら誰でも閲覧、参加可能なパブリックチャンネルなので、外から入れます。プロジェクトのチャンネルにふらっと参加して、関係あると思ったら、そのまま参加して、関係なかったらそのまま去るんですよ。そんな感じで、御社はなにか特徴的な使い方をしているんですか?

ロケスタ 代表取締役社長 長谷川秀樹氏

星:うちもパブリックチャンネルとDM(ダイレクトメッセージ)がほとんどで、プライベートが一番利用頻度が低いです。仕事のやりとりは基本パブリックチャンネルでやろうというのが全体的なコンセンサスです。ただ、全社でチャンネルの命名規則などは作ってないので、各チームであるところと、ないところがあります。

長谷川:そうなんですか。メルカリだとプロジェクトは「pj」という接頭辞がつくし、一時的には「tmp」が付きます。でも、特に明文化されているわけではないんです。昔、チャンネル作成のルール化しようとしたら炎上したらしいです。もっと自由に創造的にチャンネルを作っていくのを阻害すると(笑)。

星:少なくともいまは検索で探したいチャンネルが見つかればいいかなと。整然としたチャンネルで会話が行なわれているというより、そこかしこで会話が起こっている方が個人的には好きです。Slackでも、スター付けて表示順位を上げたり、発言のないチャンネルは非表示するとかできますけど、基本はユーザーに任せている感じです。だから、全社的な使い方のルールはほぼないです。

ただ、全員(General)のチャンネルだけは使い方がある程度決まっています。うちだと「キッチンにお裾分けのみかんが来ているのでお持ちください~」とかのアナウンスはGeneralチャンネルですかね。あと、経理部門やヘルプデスクに向けての質問事項はGeneralから問い合わせを投げるというルールになっています。

長谷川・大谷:ほお~。

星:質問って、なんとなく隠したいし、DMでやりたい気持ちもあるのですが、オープンなチャンネルでやると、ほかのメンバーから「うちではこうやってるぞ」とかお節介が来るんです。どんな質問が出るのかも含めて、衆人の目に触れたほうがコラボレーションにつながるかなと。

長谷川:メルカリはそういった問い合わせのチャンネルは複数に分かれていますが、Generalだけでやるのはなんかすごいですね。混乱しません?

星:経理やヘルプデスクにグループメンションを付けて発言すると、うちが利用しているService Nowでチケットが発行され、チケットに書かれた内容ごとにSlackでまとまるようになっているんです。担当が異なれば、Service Now側でチケットを切り替えられるので、該当部署にアサインされます。

大谷:でも、Generalっていわゆる全社員向けメーリングリストみたいなもんじゃないですか。そこに投稿するって、けっこう勇気がいるイメージがあるのですが。

星:確かにGeneralでメンション付けて投稿するのは、ちょっとしたガイドラインがありますね。いまSlackのEnterprise Gridというプランを使っていて、グローバルと国内のワークスペースを相互に行き来できるようになっているので、利用しているタイムゾーンも広い。だから、「Generalでこれは……」という投稿については、黙ってガイドラインのアドレスがリプライされたり、@チャンネルという絵文字がリプライされます(笑)。200人もチャンネルに入っていたら、だいたいそういう人は1人くらいいるみたいな感じですかね。

大谷:なるほど。怒られるというより、たしなめられるという感じですね。

会社と部門できちんとレクチャー 雑談できるチャンネルも

長谷川:非エンジニアの人とか、転職組とかだと、Slackを使ったことがないとか、チャット自体よく知らないという人もいると思うのですが、そういう人たちのオンボーディングみたいなのどうしてます?

星:まず入社した段階で、Slackの基本的な使い方はレクチャーします。だから、チャンネルに入って、発言するとか、メンションの付け方とかは理解してもらえると思います。その後、各部門に配属されたあとで、このチャンネルに入ってくださいみたいなことは共有されます。

大谷:じゃあ、入社すると二段階でレクチャーされるんですね。

星:ただ、その部門以外のチャンネルに足を伸ばすのは、できている人と、できていない人がいると思います。でも、業務と関係ないスポーツやアニメ、ゲームなどの趣味や出身ごとのチャンネルがいっぱいあるので、そういうところは入りやすいと思います。僕だったら「#hokkaido」というチャンネルで地元の話してますね。

あと、うちでは「分報」で個人がつぶやくチャンネルを作っている人もいますね。だから、雑談する場所は社内にいっぱいあります。

大谷:分報はいいですね。社内Twitterみたいな感じですね。

長谷川:メルカリや、ハンズラボでも、分報あったんですけど、あれってどこ発祥なんですかね。あれを見て、メンバーのストレス具合を理解するという管理職もいるみたいですけど。

星:うーん。ゆるくテキストで会話するSlackの文化と、フェイスツーフェイスで話すやりとりは別だと思うので、Slackの発言内容を調べて、ストレスを測るのはちょっとナンセンスかな。そもそも、すべてのコミュニケーションをSlackに当てはめるというのは、難しいと思います。

長谷川:昔会った「分報絶対反対」みたいな社長は、「つぶやいてれば、誰かが助けてくれると思うな」みたいな話をしてました。つぶやいてれば誰かがフォローしてくれるみたいなのを当たり前にしたくないと。

星:おっしゃっている内容は理解するのですが、分報があるからといって、すべてがその文化になるわけではないと思います。やりたいことができないストレスが分報でしかはき出せないのであれば、ツールではなく、組織的に問題があると思います。

Slackからの情報の受け取り方は個人に任せている

長谷川:あと、僕もエンタープライズが長いのですが、そういう会社からすると、Slackを入れると趣味の話ばかりして、全体の生産性が下がるのではと思う人もいるんじゃないかと思うのですが、実際問題どうなんですかね。

星:どうなんですかね。ただ、Slackでずっとしゃべっていて、仕事しない人がいるとか聞いたことないです。仕事しない人はSlackがあろうが、なかろうが仕事しないと思います。誰かが発言したら、すぐに戻さなければならないというルールはないので、見たいときに見ている感じです。

大谷:先日、Slackのイベントで登壇した会社では、Slackでのレスポンスはかなりリアルタイムであるべきみたいな話があったのですが。

星:すぐ戻さなければならないというルールはない、というのはおもに趣味や雑談のチャンネルの話ですね。業務でメンション付けられてたら、スピーディに対応する人が多いです。

長谷川:そこもエンタープライズだとわりと誤解出てきそうです。メールって、そんなリアルタイムでもないので、できるときに返信すればいいようなイメージありますが、チャットってリアルタイムで返さなければならないイメージあります。ずっとチャンネル見てないと、自分に関連するトピックを逃してしまうのではないとか、あとは夜でも返信しなければならないとか。

星:そこらへんは、Slackの通知を就業時間以外はオフにしている人も多いし、長期の休みだとそもそもSlackをアンインストールして、電話番号だけ掲出している人もいますね。

大谷:アンインストールまでしちゃうってすごいですね。

星:われわれも従業員にずっとSlackを見ることを強いているわけではありません。業務時間内はちゃんと連絡付くようにしておいてほしいという手段がSlackなだけで、受け取り方は各人に任されています。

長谷川:そこはけっこう個人に任されていて、いいですね。

大谷:使っていけば、慣れるものなんですかね。

星:そこは先ほどのおせっかいという話で、通知がいっぱい来て困るというコメントに対して、「設定こうすればいいよ」とか、「興味ないチャンネルはオフにしちゃえば」とかコメント飛んできますね。チャンネルを抜けるのも、ミュートするのも、チームと個人の裁量に任せています。人によってはキーワードが入っていたら通知するみたいな設定にしてます。いずれにせよ、情報の受け取り方はいろいろな選択肢が用意されているので、使い慣れている人とそうでない人の差を埋めていきたいと思います。

SlackとGitHub、Zoom、Zapierなどを連携させてみたら?

長谷川:Slackを使うのうまい人って、いろんなチャンネルをチラ見して、メンション付いてないのに、ちゃんと答えているんですよ。適切なタイミングでコメントを入れて議論を収束させていくのって、1つのスキルかなと思いますわ。

星:うちの場合だと、Slackで議論が固まってくると、GitHubにIssueを作っていきます。全部Slackで完結させるのではなく、ストックとして溜めていく部分を切り出しています。

大谷:Slackでの議論をストックするフォーク(分岐)させるんですね。それって誰がやるんでしょうか?マネージャー?

星:それはチャンネル内の空気感ですかね。これは溜めておいた方がいいというものはIssue化します。

長谷川:うちらはGoogle Docsとかに溜めるのですが、クックパッドさんの場合は、エンジニアがやっているんですか?

星:いいえ。GitHub Enterpriseもエンジニアだけではなく、HR、経理、広報など全チームが使っているので、それぞれの組織でIssueを作っています。確かにエンジニア向けではあるのですが、コードに紐づかなくても、課題管理のツールとして使えるので重宝しています。

長谷川:かっこええですね! Slackと連携しているアプリってありますか?

星:Zoomも全社員にアカウントとっているので、ヘビーに使っていますね。Zoomはネイティブアプリのできがいいので、会議中でもリソース食わない感じです。

ZoomとSlackの場合だと、たとえばSREチームが直接話し合う場合にSlackから「/zoom」でZoomを起動して、インラインで話したりします。

長谷川:いいですね。確かにSlackで話してるのまどろっこしいから、直接ビデオ会議をベターンと貼って、ドーンと立ち上げて、ワアワア話したら、サーッと元に戻すとか面白いですね。

大谷:(擬音語多すぎる)。

星:あと最近だとサービス連携のためにZapierを使っているのですが、エンジニア以外の人も自ら連携を試してみたり、特定条件でのリマインダを作ったりしています。勤怠のタイムシートを提出していない社員にSlackボットからリマインドするとか。そういうテクノロジーに対する自主性の醸成に会社としても重きを置いています。

長谷川:メルカリもそうですね。「バックオフィス系の人であっても、Zapierくらい使えなくて、なにがグローバルテックカンパニーじゃあ」みたいなところあります(笑)。バックオフィスだと、どこかのサービスからデータを引き抜いて、どっかに移すみたいな作業多いので、社内勉強会で実施していたりします。

今は通知がメイン Slackで業務が完結できる世界はまだ先

大谷:なんだか話聞いて「SlackやGitHub=エンジニアのもの」って、従来型のイメージにとらわれすぎだったのかなという思いました。GitHubのプルリク・コミットのやりとりっていろいろな業務で存在するし、実際に編集作業で使っているところもありますしね。

星:うちだと就業規定や社内規定もGitHub上で運営しています。更新があったら、法務や人事からプルリクが来て、それを担当が確認して、マージするみたいなやりとりです。

大谷:エンジニアという職種というより、エンジニアマインドの方々が多いんでしょうね。

星:「毎日の料理を楽しみにする」というビジョンをテクノロジーの力で実現しようとしているので、確かにテクノロジーに対して前向きな社員は多い。だから、新しいツールやテクノロジーを積極的に使っているのだと思います。

長谷川:たとえば、Slackが業務にものすごく密着している例とかありますか? メルカリの例だと、法人カードで決済すると、経費精算のConcurから通知が来て、そのまま経費申請できます。申請すると、Slackで上司に承認依頼が行くというフローです。

でも、経費精算の内容って確認するところ決まってるじゃないですか。だから、基本はわざわざ経費精算システムにログインしなくても、Slack上で処理が完結するといいなと思うんですよね。

星:その点だと、通知を集めるということはSlackで実現できたのですが、Slackの中で業務を完結できるという世界はこれからですね。いろいろなシステムがあるけど、インターフェイスとしてはSlackで済めばいいなと思います。最近はSlackもアプリの開発環境を充実させてきているので、社内の開発者に紹介していく活動はどんどんやっていこうかなと思います。

長谷川・大谷:ありがとうございました!

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