企業や自治体向けに保有する統計データやコンサルティングを提供「ヤフー・データソリューション」
ヤフーがビッグデータ活用の新サービス開始、「第4の柱」化を狙う
2019年11月01日 07時00分更新
ヤフーは2019年10月31日、企業や自治体向けの新たなビジネスとして「ヤフー・データソリューション」サービスの提供を開始した。ヤフーが保有する検索やECサービスなどのユーザーデータを統計データとして活用できるサービスを提供し、顧客組織における新事業創出や新商品開発、営業活動改善などを支援する。
同日の記者発表会にはヤフー CEOの川邊健太郎氏、CDOの佐々木潔氏が出席し、同サービスをヤフーおよびZホールディングスグループが展開するビジネスの「第4の柱」として育てていく方針を示したうえで、「ビッグデータの力で日本を元気にしたい」とサービス開始の抱負を述べた。
ダッシュボードの「DS.INSIGHT」、コンサルティングの「DS.ANALYSIS」
ヤフー・データソリューションは、ヤフーが展開する検索やメディア、ECなどのサービスを通じて蓄積されたユーザーデータを統計的に分析したビッグデータに基づき展開されるサービスだ。顧客自身がブラウザ上で調査/分析できるダッシュボードサービス「DS.INSIGHT」と、ヤフーのデータスペシャリストによる、より深いデータ分析を実施するためのコンサルティングサービス「DS.ANALYSIS」がラインアップされている。発表会ではCDOの佐々木氏がデモを交えながらそれぞれの機能概要を紹介した。
ダッシュボードサービスのDS.INSIGHTでは今回、生活者(ヤフーユーザー)の「興味関心」を可視化する「DS.INSIGHT People」と、「エリア特性」や「人流(人の移動、流れ)」を可視化する「DS.INSIGHT Place」という2種類のダッシュボードを提供開始している。
DS.INSIGHT Peopleは、検索やメディアのサービスを通じて収集された人気キーワードランキングをはじめ、特定のキーワードに興味関心を持つ性別/世代などのユーザー属性、関連キーワード、興味関心の時系列推移(トレンド)といった情報を可視化する。
デモの1つでは「ラグビー」というキーワードが取り上げられた。ユーザーが一緒に検索する関連語としては「日本代表」「世界ランキング」「ワールドカップ」などが多く、「ルール」を検索したユーザーは女性が多いことなどもわかる。また関連語のひとつ「チケット」をドリルダウンすると、東京や神奈川のユーザー比率が高く、このキーワードに対する関心には地域差があることもわかった。
もうひとつのDS.INSIGHT Placeは、ヤフーに蓄積された行動ビッグデータ(位置情報データなど)に基づいて、特定エリアにおけるユーザーの実態や動きをまとめて可視化するダッシュボード。指定エリアにいるユーザーの属性や特徴、流出入人口の推移、検索傾向に基づく地域の興味関心、地域/スポット間の人流規模などを把握できる。
佐々木氏によると、現段階では市区町村単位での指定という制約があるが、今後のバージョンアップでさらに細かなエリア(カスタムエリア)も指定できるようになる。たとえば店舗の出店計画を立てる際に、「駅の東側と西側のどちらが適しているか」といったことも簡単に調べられると述べた。
他方、オーダーメイド型のDS.ANALYSISでは、顧客組織のニーズに応じて、DS.INSIGHTでは提供していないヤフーのビッグデータを含めた分析、および事業活用支援を行うコンサルティングサービスを提供する。佐々木氏はその具体例として、「出店計画サポート」「カスタマージャーニー分析」「競合分析」といったものを挙げた。
DS.INSIGHTのサービス料金(税抜)は、1ライセンス(1ユーザー)単位で購入するスタータープランが月額10万円、10ライセンスのスタンダードプランが月額50万円、20ライセンスのプレミアムプランが月額80万円。いずれも初月は無料だが、初期導入費用として初月のみ12万円がかかる。また最低利用期間は6カ月間。DS.ANALYSISの料金は個別見積もり。
今後、DS.INSIGHTでは半年に1回のメジャーバージョンアップを通じて機能強化を図っていく。今後1年間の計画としては、顧客が導入済みのBIツールなどとデータ連携できるAPI、カスタマージャーニーを可視化できるダッシュボード、DS.INSIGHT Placeにおけるカスタムエリアへの対応などを挙げた。またパートナーが顧客に再販できるプランも近日中に準備するとしている。
さらに中長期的なビジョンとしては、今回発表したビッグデータそのものの提供に加えて、それらを活用するためのレコメンドや予測、日本語処理といった機能群にもサービスの幅を広げていくと、佐々木氏は説明している。
ビッグデータに基づく新商品開発で2.6倍の売上
発表会では、実証実験の募集に200以上の企業や自治体から問い合わせがあり、その内の約60件が実施されたことが明かされたうえで、その一部が紹介された。
たとえば三越伊勢丹では、子育て中の女性の服装に関するトレンドや悩みを、検索や「Yahoo!知恵袋」といったヤフーのビッグデータから導き出し、新商品開発に役立てたという。「抱っこひもをするとポケットが使いづらい」「自転車に乗りにくい」といった悩みを解消すべくデザインされたロングスカートを発売したところ、その初週の販売数は、過去一番売り上げたスカートの約2.6倍と非常に好調だという。
東急不動産では、商業施設の売場構成にヤフーのビッグデータを活用した。具体的には、ターゲットとする顧客層を設定し、そうした顧客が今求める“キー商材”を選定。さらに、その商材やブランドを好む顧客がほかに好みそうなブランドや商材を抽出し、売場全体の構成に生かすというものだ。実際に、12月オープンの東急プラザ渋谷で試験運用も予定している。
そのほか、旅行会社のANAセールスではヤフーの検索データを用いて3週間先の週次旅客数予測を行い、ベースラインよりも予測誤差を26%削減した。また京都市および京都市観光協会では、京都市全域の「観光快適度」(混在度)を表示する取り組みにおいて、位置情報に天候、平日/休日、時間帯といったデータを組み合わせ、ディープラーニングによって予測を行っているという。
「ビッグデータの力で日本を元気にする」
ヤフーCEOの川邊氏はまず、今回のサービス提供における大前提として「ユーザーのプライバシー保護が第一」であることを繰り返し強調した。ヤフーから顧客に提供するビッグデータはすべて統計データであり、匿名加工データも含めユーザー個人を直接的または間接的に識別できるパーソナルデータは提供しないことを明言している。
データソリューションの提供を通じ、ヤフーが持つビッグデータを開放していくことで、日本をもっと効率良く、便利に、さらには安全にしていきたいと川邊氏は語った。現在はまずヤフーと企業、ヤフーと自治体という関係だが、将来的には参画する企業どうし、自治体どうしでのデータ相互活用も促していく方針だ。
「日本のためになるデータソリューションをヤフー、Zホールディングスグループでは提供していきたい」と川邊氏は述べ、グループが展開するビジネスの“第4の柱”にしていくことを目標とするとした。