さくらの熱量チャレンジ 第36回
未来の再エネ主力電源化を見据え、各家庭の電力消費を動的にコントロールするフィールド実証を展開
宮古島は「エネルギー自給率向上」を目指し、再エネ+IoTをフル活用
2019年11月11日 08時00分更新
さとうきび畑の散水も“ピークシフト”、農業EMSへの展開も
今回のフィールド実証では、家庭だけでなく農業へのEMS適用も取り組まれている。宮古島の主要農作物であるさとうきび畑への散水作業を、HEMSゲートウェイを使って自動化するというものだ。これもまた、宮古島全体の電力需要を平準化するための取り組みだという。
宮古島はもともとサンゴ礁(琉球石灰岩)が隆起してできた島であり、梅雨や台風シーズンに大量の雨が降るものの、雨水はすぐに地中へ浸透し、地下深くを通って海へと流れ出してしまう土地だった。河川はなく、生活用水や農業用水は井戸からくみ上げていたが、小雨や干ばつの年には地下水も涸れてしまい、大きなダメージを受けていた。
特に農業用水の安定確保は島の産業にとっての“生命線”であり、その課題を解決するための灌漑事業として、1980年代から「地下ダム」建設が進められてきた。これは地中に大きな止水壁を建設して地下水をせき止め、大量の水を貯水するというものだ。この水は電動ポンプで山上の農業用水用貯水タンクに揚水され、そこから各畑に送られる。
だが、さとうきび畑への散水作業が特定の時間帯に集中することで、島の電力需要全体に大きな影響を及ぼしていると比嘉氏は説明する。
「兼業農家が多いため、さとうきび畑の散水作業はたいてい夕方に行われます。散水によって貯水タンクの水が一気に減り、170基ある電動ポンプが一斉に作動して地下ダムから水をくみ上げるのが19時から20時ごろ。これが島全体の電力需要を1割程度も引き上げてしまいます」(比嘉氏)
さとうきび畑の散水作業は、撒いた水がすぐ蒸発してしまう昼間以外ならばいつでも構わない。それならば、散水バルブの開閉を機械化して夜間や早朝に散水するようコントロールすれば、島全体、電力系統レベルでの電力需要平準化に役立つはずだ。両社では現在、HEMSゲートウェイに接続できるバルブ制御装置を開発中であり、これが完成すれば自動散水が実現するという。
さらに粒度と精度の高い予測を実現し、未来の「分散型電源社会」に備える
今回のフィールド実証やシステム改良の取り組みは、2020年度末まで続く予定だ。HEMSゲートウェイについては、11月ごろに量産試作バージョンをリリースする予定としており、フィールド実証の結果を受けて不要な機能を省いてシンプル化し、価格も「従来の4分の3程度」(内田氏)に低廉化させる。
今後のさらなる機能強化について、内田氏は「『予測』の能力をさらに進化させていくこと」だと語った。将来的には機械学習技術も適用しながら、さらに電力の需給予測の粒度と精度を高めていく。
「現在のような地域、電力系統レベルでの需給予測だけでなく、各家庭ごとの正確な予測も必要だと考えています。またHEMSゲートウェイには、たとえ通信ができなくなっても自律的に判断して稼働できるような“頭脳”も必要でしょう」(内田氏)
比嘉氏も「宅内レベルの最適化」と「地域レベルの最適化」には役割分担があり、沖縄電力とも協力し合いながら、より精度の高い需給予測を実現していきたいと述べた。沖縄電力とは、それぞれが持つデータを相互共有する方向で話し合いを進めている。各家庭レベルの詳細な電力需給データを収集する仕組みができているので、これまで他地域では実現できなかった高度なレベルでの地域最適化も可能だろう。
比嘉氏は、政府や経済産業省の方針に基づいて、再生可能エネルギーの大量普及に向けた波が再び来るはずであり、「その波を地域がうまく受け止められるように取り組んでいかなければなりません」と語った。宮古島で今回のビジネスモデルが実証されれば、エネルギーコストに同じ課題を抱える全国の離島、地域にも展開していく方針だという。
「大きな目標としては『既存の電力システムを変えること』。太陽光発電などの分散型電源を安定的に、安心して使えるように電力システムを最適化してくことです。それが実現すれば、発電所を止めて地域の電力だけでやり切っていけるようになる。そのための技術は次々に出てきていますから、それらをうまくつなぎ合わせたら、やがて『分散型電源社会』が実現すると考えています」(比嘉氏)
(提供:さくらインターネット)
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