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さくらの熱量チャレンジ 第36回

未来の再エネ主力電源化を見据え、各家庭の電力消費を動的にコントロールするフィールド実証を展開

宮古島は「エネルギー自給率向上」を目指し、再エネ+IoTをフル活用

2019年11月11日 08時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp 写真● 曽根田元

提供: さくらインターネット

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電力の供給側だけでなく需要側もコントロールし、全体を最適化する

 しかし、よく知られているとおり、太陽光発電は日照量に応じて短い周期で発電量が大きく増減する「変動性電源」である。これを主力電源に転換していくためには「安定性電源」として扱えるようにしなければならない。

 また電力会社側も、太陽光発電の電力を無制限に受け入れられるわけではない。電力系統(電力網)は全体の需給バランス、つまり発電量と消費量が常に一致していなければ、地域全体がブラックアウト(大規模停電)する危険性がある。

 こうした難問をクリアしつつ、太陽光発電の比率を高めていくためには、発電側の安定制御(常時出力抑制)だけでなく、需要側もダイナミックにコントロールする必要があると、比嘉氏は指摘する。簡単に言えば、これまでの常識だった「電力消費の多い時間帯に多く発電する」という考え方を、「発電量の多い時間帯に多く電力消費する」考え方への転換だ。

 前述したネクステムズのフィールド実証では、IoT技術を適用してその実現に挑んでいる。宮古島未来エネルギーが展開する家庭向け設備に、通信機能を持つHEMSゲートウェイを取り付けてデータの収集やリモート制御を可能にし、クラウドからの動的なコントロールを行うというものである。

 たとえば、家庭内で大きな電力消費割合を占めるエコキュートのリモート制御だ。一般的にエコキュートは、夜間の余剰電力を利用して朝6時に温水が沸き上がるようタイマーがセットされている。だが、太陽光発電による電力の有効活用を考えると、むしろ日中に温水を沸き上げるほうが効率的だ。しかし、発電量はその日の天候や季節の影響を大きく受けるため、単純にタイマーで固定された時間帯に稼働させればよいわけでもない。

 そこでHEMSゲートウェイの出番となる。クラウドからHEMSゲートウェイを介してその家庭の発電量や電力消費量をリアルタイムに監視し、余剰電力が生じている時間帯にエコキュートを稼働させるわけだ。同じように、各世帯に設置された蓄電池やEV(電気自動車)への充電も、電力の需給バランスを監視しながらコントロールする。こうした制御を各世帯だけでなく一定エリア、あるいは電力系統全体にわたって実施できるようにするのが将来的な目標だ。

フィールド実証事業の概要。電力消費のコントロール(需要制御)でピークシフトを行い、需給バランスの最適化を動的に図る(DEG=ディーゼル火力発電機)

 このHEMSゲートウェイを開発しているのが日新システムズである。電力関連設備メーカーの日新電機を親会社に持つ日新システムズは、長年にわたって監視制御システムの開発を手がけ、エネルギーマネジメントや通信関連のソフトウェア技術に強みを持っている。この強みを生かし、新たにスマートシティ/スマートホーム向けのソリューション開発を行うために設立されたのが、内田氏の所属するシステム・ソリューション事業部だ。

 「2016年の5月ごろに、宮古島市からHEMSゲートウェイ開発の公募がありました。われわれはHEMS向けの標準プロトコルである『ECHONET Lite』の第一号認定も受けており、機器接続やテストの実績も豊富にありましたから、ぜひ参加したいと応募しました」(内田氏)

日新システムズの内田氏

 ここで難しかったのが、マルチベンダー機器への対応だったという。比嘉氏によると、太陽光発電システムや蓄電池、エコキュートなどのメーカーは基本的に「シングルベンダー」の発想であり、自社製品どうしの接続テストは行っているものの、他社製品との接続は保証されていないという。

 「ECHONET Liteは標準プロトコルであり、各メーカーとも一応は他社製品との接続を許諾しています。しかし問い合わせてみると、他社製品との接続テストは『やったことない』『動作するかどうかわからない』と言われてしまいました。そこで、独立した立場でマルチベンダー接続ができる日新システムズさんにお願いすることにしました」(比嘉氏)

 実際に両社がマルチベンダー接続のテストを始めたころは、標準仕様どおりに通信をしても、相手側機器がおかしな挙動をするケースが多かったという。そこから各メーカー/機器の“クセ”を読み取り、チューニングを重ねることで問題を解消していった。

 もうひとつ、今回のHEMSゲートウェイは屋外設置が前提であり、過酷な環境下でも長期間、安定動作しなければならないことも課題だった。ソフトウェア面では豊富なスキルと実績を持ち、組み込み系のボードやモジュールにも知見を持つ日新システムズだが、こうした耐環境性が求められるハードウェア設計はあまり実績がなかったという。

 「屋外設置されるハードウェアですので、真夏の直射日光にも風雨にも耐えられなければなりません。特に宮古島の場合は、自動車もひっくり返すような強力な台風がやって来ます。そんな猛烈な暴風雨にも耐えられ、なおかつ何年間も安定稼働できるハードウェアが必要でした」(内田氏)

 設計と試作、テストを繰り返し、現在の最新版ハードウェアは防塵防水性能(JIS保護等級)が「IP66」となり、外気温60℃環境で4時間の稼働テストもクリアしている。実証実験においてすでに数カ月間、屋外設置しているが、暴風雨にも真夏の暑さにもしっかりと耐えているという。

現行試作バージョンのHEMSゲートウェイ。クラウドとは「さくらのセキュアモバイルコネクト」を使ってLTE回線で接続する

エネルギーIoTの要件をすべて満たした「さくらのセキュアモバイルコネクト」

 このHEMSゲートウェイとエコキュートや蓄電池などの機器は、Ethernetケーブルで接続している。当初はWi-Fi接続も検討したが、さまざまな設置環境が考えられること、特に宮古島は鉄筋コンクリート建の住宅が多いことなどの理由から、通信の確実性を担保するためにケーブル接続を選択したという。

 一方で、クラウドと通信を行い、リモートからの制御を可能にするWAN回線の選択は悩ましい問題だったという。内田氏は、どんな設置場所でも接続できる回線の安定性、そしてサイバー攻撃や通信傍受を防げるセキュリティの高さという2点を特に重要視したと語る。特に通信のセキュリティについては、エネルギー機器を扱うIoTシステムにおいては必須の要件だという。

 このHEMSゲートウェイは、各家庭に設置された機器のデータを1分ごとにクラウドへ送信する。具体的には各機器の稼働状態に加えて、太陽光発電の発電量(供給量)と、エコキュートや蓄電池などの電力消費量(需要量)といったデータだ。このリアルタイムデータに基づいて、センター側から各機器をコントロールする。

 「各キャリアのLTE回線はもちろん、IoT向けのLTEカテゴリM1、LoRaWANといったLPWA、さらにWi-Fi、Zigbeeなど、合わせて20種類くらいの通信方式を試し、コストも比較しました。各家庭の電力需給をリアルタイムに監視して機器をコントロールするものですから、まず、速度の遅い通信方式は使えませんでした」(内田氏)

 高速通信が可能であり、離島でも通信インフラの整備が行き届いているLTEがベストな選択肢だったが、通信コストの高さがネックだった。当時はまだ各キャリアとも、IoT向けの安価な通信プランはラインアップしていなかった。

 「各キャリアの価格や性能を比較検討していたちょうどそのころ、以前からお付き合いのあるさくらインターネットから、『IoT向けの新しい通信サービスができました』と連絡をもらいました。それがセキュアモバイルコネクトでした」(内田氏)

 内田氏は「セキュアな閉域網接続」「IoTデバイスごとでなくセンター側での一括課金」「センター側からの有効/無効切り替え」の3つを満たすLTEサービスを探していたが、さくらのセキュアモバイルコネクトはそうした要件にすべて合致していた。料金も手ごろだったので、すぐに採用が決まったという。

 実証実験での体験から、内田氏は「LTEを選んでおいて良かった」と語る。HEMSゲートウェイのソフトウェアをアップデートしたい場合でも、エンジニアが各家庭を訪問することなく、高速回線を通じてリモートから配信することができる。またセキュアモバイルコネクトでは1台ずつ管理できるため、たとえば新しい接続機器を追加する顧客の家庭にのみ、追加ソフトウェアを配信するようなこともできる点も評価しているという。

 また比嘉氏は、将来的に他地域へのサービス展開を考えるうえでも、やはり既存の通信インフラを利用できるLTEを採用できた意味は大きいと説明する。

 「たとえば久米島や石垣島といった他の離島で同じサービスを展開するとしても、LTEならばすでに基地局が設置されているのですぐに横展開できます。(セキュアモバイルコネクトを採用したことで)便利な仕組みができたと思います」(比嘉氏)

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