このページの本文へ

デジタル技術やデザイン思考で行政課題の解決目指す、国内/海外の産官学連携実績も紹介

SAPジャパンが政府自治体向けシンクタンク組織を発足

2019年09月10日 07時00分更新

文● 指田昌夫 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 SAPジャパンは2019年9月6日、政府や地方自治体向けのビジネス(公共ビジネス)を支援するシンクタンク組織「SAP Institute for Digital Government(略称:SIDG/シッジ)」を設立し、都内で趣旨説明の記者発表を行った。

 SIDGは2015年に豪州で発足し、欧州、米国にも展開、アジアでは韓国でも活動を始めている。行政サービスの課題をデジタル技術で解決するSAPのテクノロジー、グローバルな産官学連携の実績やデザイン思考のノウハウなどを使い、政府や地方自治体の課題を研究し、解決を支援する。

SIDG日本のリードを務める、SAPジャパン デジタル社会基盤事業統括本部 公共担当ディレクターの横山浩実氏

大分県、沖縄県など官民連携実績あり、海外の知見も日本に紹介

 SAPジャパンでは、これまでも地方自治体が抱える課題の解決を検討段階から支援してきた。

 例えば大分県とは地方創生や災害対策について相互協力協定を結び、地元の代表的なIT企業であるザイナス、大分大学と共同で、気象衛星やドローンで集めた災害状況の分析や救援計画の策定のための情報基盤「EDISON」を開発。災害リスクに備えるデジタル技術の可能性を検証してきた。また、沖縄県では急増する外国人観光客に対応するため、観光プロモーションと観光客の行動分析を行う情報基盤をJTB沖縄などと開発、2019年1月から3月まで実証実験を行った。

 こうした取り組みを散発的に終わらせるのでなく、結果を残して共有することが、日本におけるSIDG発足の理由である。日本のSIDG組織でリーダーを務める横山浩実氏は、SIDGの活動の3本柱である「Thought Leadership」「Digital Transformation」「Collaboration with Global」について説明した。

 Thought Leadershipは、大分や沖縄との取り組みのような官民連携の議論の場を設け、課題を明らかにするための支援だ。またDigital Transformationは、SAPジャパンが今年開設した「SAP Leonardo Experience Center」内に設置した360度スクリーンのデモルームなどを使い、デジタルによる効果を体験できる場を提供する。そしてCollaboration with Globalは、その名のとおり、SAPが手掛ける世界の成功事例を日本に紹介する活動である。

 横山氏は「SAPは諸外国や地域の政府との実績が非常に豊富で、日本の政府や自治体に海外の知見を紹介し、導入の手助けを行なうことができる。また、反対に日本からも、世界のSIDGに取り組みを発信していきたい」と語った。

 会見にはSIDGのグローバル責任者であるイアン・ライアン氏も出席。「スマートシティの研究プロジェクトなど、海外では社会課題について、SAPと数多くの著名な研究機関、大学等との共同研究の実績がある。それらを生かしつつ、日本の固有事情に合わせたコラボレーションの仕方を進めていく」と説明した。

SAP ISDGのグローバルリードを務めるイアン・ライアン(Ian Ryan)氏

 SAPジャパンが取り組む公共ビジネスのゴールの1つには「デジタルガバメント実現」が挙げられているが、日本の場合、その道のりは長く険しいと言わざるを得ない。現在、日本政府のデジタルガバメント実現に向けた施策は、今年5月に施行した「デジタル手続法」の推進に欠かせない「マイナンバーカード」の国民への普及に力が入れられている。その理由は、2019年7月時点の取得率が13%程度とまったく普及が進んでいないためだ。普及対策として来年度は700億円の予算を確保してキャッシュバック施策などを実施するというが、この施策によって普及に加速がつくのかはわからない。この問題にこそ「デザイン思考」によるゼロベースの発想が必要ではないか、と思うほどだ。

 もちろん、省庁内システムのクラウド化やペーパーレス化など、デジタル政府のテーマは行政サービスのデジタル化だけではないが、現在のSAPジャパンの公共ビジネスは、災害対策やインバウンド、地方創生のためのデータ活用など、地方行政が抱える個別課題の解決に軸足が置かれているように見える。

「社会課題の解決に向けた取り組みは、長いスパンで評価を下す必要がある」

 国にしろ地方の行政にしろ、公共ビジネスは民間企業が相手のビジネスとは勝手が違う。「課題の見える化」といってもテーマが壮大すぎて、実際のシステム開発を開始するまでには何度も議論しなければいけないケースも多いはずだ。

 SAPジャパンでデジタル社会基盤、デジタルガバメント推進支援事業を統括する同社 代表取締役会長の内田士郎氏は、「今年春に『日本の夏をリデザインする』という熱中症対策をテーマにした産官学合同のアイデアソンを開催した。ラグビーW杯や来年のオリンピックに向けて、熱中症の問題が注目されている。だが、暑い夏は次の年も来るわけで、イベント的に終わるものではない。社会課題の解決に向けた取り組みは、通常のビジネスより長期間になることは当然で、評価についても、長いスパンで下す必要があると認識している」と説明する。

SAPジャパンの公共事業を統括する、同社 代表取締役会長の内田士郎氏

 そのうえで「幸い現在SAPはグローバルも国内も、業績面で非常に調子が良い。このような時にこそ、一朝一夕には解決できない社会課題に社内のリソースを振り分けて、しっかり取り組んでおきたいと考えている。私も少し驚いているのは、SIDGの部員、またはSIDGから要請を受けたプロジェクトのメンバーは、みなやる気に満ちていて、モチベーションが非常に高いことだ」と話した。

 官が持っている豊富なデータと民間企業であるSAPの分析力、さらに専門研究者の知識やスタートアップなどのアイデアも持ち寄り、行政の課題に立ち向かう取り組みは、すでに始まっている。今後、SAPの問題解決手法が生かされ、各地からさらに多くの成功事例が発表され、共有されていくことを期待したい。

■関連サイト

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ