苦難の上に誕生したHP 3000シリーズだが
低性能、低信頼性で信用を失う
OMEGAに携わっていたメンバーのいくらかはそのままHPを去ったが、残ったメンバーはAlphaと呼ばれる16bitマシンの開発プロジェクトに配属された。
このAlphaはOMEGAを16bitに縮小したような構成で、メインメモリーは最大128KBに抑えられ、インデックスレジスターも1個に減ったが、その代わりにアドレスモードにハフマンコードが採用されるという、これまた類を見ない構成だった。
またソフトウェアはOMEGAのものを継承しようとしたが、言うまでもなく収まるわけがない。それにもかかわらず、むしろOMEGAより強力な仕様だった。OMEGAはマルチプログラムのバッチ処理のみをサポートしていたが、Alphaではバッチ/タイムシェアリング/リアルタイム処理をすべてサポートしようと試みたからだ。
結果、まずCode/Dataセグメントを実装するのが困難とされて削除され、また浮動小数点演算も省かれた。
このあたりまではまだいいのだが、謎だったのがDB(グローバル変数の格納エリア)の指定である。こちらは最大DBアドレスと最小DBアドレスから構成されるのだが、なんとこの最小DBアドレスが負の値を取るという実装を選んだことだ。
これに起因されるMPE(Multi-Programming Executive:OSの名称)の多数のバグは、後々までAlphaを苦しめることになる。
また、1972年の早い時期にMPEに必要な機能を全部加算したところ、128KBを超え、アプリケーションを動かす以前にMPEがそもそも乗り切らないといった、わりと致命的な問題が露呈する。
ここから慌ててMPEのシュリンクに乗り出すものの、1972年11月の初出荷(最初の顧客はバークレイにあるTHE LAWRENCE HALL OF SCIENCEだったそうだ)の時点でのMPEの能力は「同時2ユーザーまでのサポート(広告では最大64ユーザーとされていた)、スプーリング機能もリアルタイム処理機能もなし、しかも10~20分ごとにクラッシュする」という代物だったそうだ。
なにせHPのこれまでの製品は、高価格ではあるものの高性能と高信頼性が約束されており、ところがHP 3000はこれと対極に位置する製品だった。結局最初のHP 3000はすぐに市場から回収されることになる。
Packard氏は当時Microwave部門のGMだったPaul Ely氏をHP 3000の開発拠点だったクパチーノに派遣し、事態の収拾を命じることになった(続く)。
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