イノベーションを起こし続けるDNA
上野 ”新しいスポーツビジネス”というより、スポーツの枠を超えて”新しいビジネス”がやってきたという印象の方が強かったように思います。
秦 イノベーションを起こし続けているというのが成長の裏にあります。ONE Championshipとしてスタートした4年前と比較しても、何十倍で成長しています。逆にいうなら、イノベーションが止まらない原則がONEのDNAの1つとしてあります。現状では満足しないという気持ちです。お客様に提供するもの、選手の環境、この2つで常にイノベーションを起こし続ける――これをきちんとやっていることが、成長のスピードに表れていると思います。
上野 ミャンマーでアウンラ・ンサン(Aung La N Sang)がチャンピオンを獲得した時は、高い視聴率を記録しました。4月にはマーティン・ニューエン(Martin Nguyen)選手とジャダンバ・ナラントンガラグ(Jadambaa Narantungalag)選手の対決が、その日のESPNの世界ベスト10プレイランキングで2位になりました。
秦 ンサン選手の時は瞬間視聴率が87%となりました。また、ESPNのランキング2位により、いよいよ競技としての認知が広がってきたと感じます。
ONEには、1 武道の精神がもたらす価値、2 ヒーロー作り、3 それを伝えるストーリー、と3つの基軸があります。このようなONE Championshipの価値観、ヒーロー像、そしてストーリーを伝えるという点をしっかりやってきた結果だと思います。3月の日本での大会で青木真也選手が勝利した時も、青木選手がこれまで負けた過去がたくさんあるからこそ深い価値が出たと言えます。
あとは、スポーツの醍醐味である、答えが決まっていないドラマの要素ですね。スポーツには、勝ち負けだけではないストーリーがあります。我々も本質を伝え、これからも続くという継続性のある価値をしっかり伝えることにこだわっています。
上野 中国のション・ジンナン(Xiong Jing Nan)選手も家が貧しかったそうですね。そこから勝ち上がっていくというストーリーがONEならではと思いました。これまでのスポーツビジネスとは違うところです。「UFC」(Ultimate Fighting Championship、米国ベースの総合格闘技団体)との違いにもつながっている。
秦 そうですね。ストーリーに加えて、アジアのルーツを大切にする点も違いです。勝ち負けも大切ですが、相手選手へのリスペクトをはじめとした武道の精神――これは日本古来の要素でもあります。現代社会では忘れがちなところですが、もう一度原点に戻って武道、競技を通じてアジアの精神を伝えるというモデルも、ユニークさにつながっていますね。
UFCはお互いが罵声しあうような喧嘩の要素が強いので、ONEではアジアから発信する世界へ向けたコンテンツとして、尊敬、名誉、勇気、規律、慈悲などをしっかり伝えていきたいと考えています。ここは重要な差別化です。