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末岡洋子の海外モバイルビジネス最新情勢 第224回

アップルと和解したクアルコムの独禁法訴訟は完全敗北

2019年05月29日 12時00分更新

文● 末岡洋子 編集● ASCII編集部

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 先にアップルとの劇的な和解を実現したクアルコムだが、米連邦取引委員会(FTC)と争っていた独占禁止法訴訟では見事に敗訴となった。クアルコムは不服として控訴する意思を見せている。

FTCの独禁法違反という訴えを裁判所は全面支持

 5月21日、カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所はFTCによる提訴について、クアルコムが独禁法に違反しているという判定を下した。判事はアップル対Samsungの訴訟を担当したことで有名になったLucy Koh氏だ。

こちらは判決に対するクアルコムの声明。裁判官の判断に強く異を唱えている

 FTCがクアルコムを提訴したのは2017年のこと。クアルコムは、スマートフォンに搭載されているベースバンドプロセッサにおいて確立している独占的立場を利用し、メーカーに不当な条件でのライセンスを強いているというのが主な主張だ。

 その第一審となった21日の判決は、FTCの主張を全面的に支持する内容となった。判決文は233ページに及ぶが、無線のソフトウェア特許を取り扱うFlorian Mueller氏のブログFoss Patentsでは(http://www.fosspatents.com/2019/05/breaking-news-federal-trade-commission.html)、判決のポイントとして次の4つを挙げている。

・クアルコムは、モデムチップの供給の条件として顧客との特許ライセンスの状況を入れてはならない。
・モデムチップ供給者に、FRAND条項で包括的な必死特許(SEP)ライセンスを提供しなければならない。
・モデムチップの供給のために独占的な取引を結んではならない。
・法の執行や規制について、顧客企業が政府機関とやりとりするのを干渉してはならない。

 これらの救済策を厳守するために、今後7年にわたって順守状況とモニタリングを提出することを求めている。

ドル箱のライセンス事業、幹部の証言の矛盾も明らかに

 判決文からは、クアルコムにとって、特許ライセンス事業の収益がいかに大きいかがわかる。

 1990年にライセンス料の徴収を開始して以来、同社のライセンス事業は収益性の高いビジネスに成長。2015年における同社幹部のやりとりでは、「QTL(Qualcomm Technology Licensing、クアルコムの技術ライセンス事業)は最低でも3分の2の価値を占める」と認識していたという。

 コンサルティング会社のBainは2011年のクアルコムの特許ライセンス事業の売上を77億ドルと見ているが、これはEricsson、Nokiaなど通信12社の合計を上回る金額だとか。同年、端末分野における特許ライセンス市場の25%を、モデムチップでの50%以上をクアルコムは占めていたとのことだ。

 一方で、ライセンス条件に応じなければ出荷をストップすると脅していたという疑惑について、クアルコム幹部が証言の席で事実と矛盾する発言をしていたという点も突いている。

 たとえばクアルコムの社長を務めるCristiano Amon氏は、「ライセンスで協議中の顧客に対して、チップ供給をストップすると脅していたことについて知らなかったのか?」と聞かれた際、「そのとおり」と証言していたのだが、自身の手書きメモでは、実際にライセンスについて協議中の相手(モトローラとされる)に「QTLの幹部が定期的にチップ供給をカットすると脅している」と記しているとのこと。

 証言の矛盾については、2012年にW-CDMAのライセンスでの協議過程でソニーに実施したとされるチップの出荷停止についても、同社CEOのSteve Mollenkopf氏は「誤って出荷停止の指示を出した」と証言していたのに対し、当時の幹部へのメールで「クアルコムは出荷停止すべきではない」としながらも「今後出荷停止する前に”可視化”が欲しい」と言った旨を記しているという。

 また、クアルコムはソニーへの出荷停止で脅した外部コンサルのEric Reifschneider氏をQTLのシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーとして雇い入れたこと、Reifschneider氏がその後に再度出荷停止で脅したことなども指摘している。

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