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職場にプライバシーを侵害されるおそれ「個人住民税の通知書」問題

2019年05月17日 09時00分更新

文● 高橋創

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 最近、副業が話題となるとき一緒に話題に上るのが、地方自治体から勤務先に送られる「個人住民税の通知書」です。この通知書によって副業がバレてしまうという文脈でよく取り上げられるのですが、個人的には「そもそもバレては困る副業をしていること自体が問題なのでは?」と思ったりもします。私も雇用側ですしね。しかし、実はこの通知書、もっと深い問題があったりします。

●プライバシーの問題がある

 給料以外の収入がないサラリーマンの場合、給与の額や扶養親族の状況など税金の計算に必要な情報は年末調整を経て源泉徴収票にまとめられます。そしてその情報は会社から地方自治体に伝えられ、それをもとに地方自治体が個人住民税の金額を計算してくれます。住民税の面倒な計算を本人がしなくて良い、という意味ではなかなか良い制度です。

 その後個人住民税は給料から天引きされ、会社からそのまま地方自治体に納付されます。どこからどこまでサラリーマン本人とは無関係のところで作業が進むわけです。

 計算から納付まで、まったくノータッチとはいえ、あくまでもサラリーマン本人の税金ですから計算の根拠や税額は伝えられなければなりません。そこで「その税額がどのように計算されたか」という紙が、毎年5月頃に会社を経由して本人に渡されます。これが今回のテーマとなる通知書です。もうじき皆さんのところにも届くはずです。

 この通知書は確定申告書の簡易バージョンのようなもので、そこからは親族に障害者がいるかどうかや医療費がいくらかかったかといったような極力周囲には知られたくない情報や、親から相続で引き継いだアパートの賃貸収入があるようなことまでが読み取れてしまいます。それがいったん会社を経由するということは、経営者や経理担当者が内容をみてしまうことも考えられます。

 突如社長から「家庭で色々大変そうだね。何かあったら相談に乗るよ」ですとか「不労所得あっていいね」などとボソッと言われるような、なかなかにホラーなシチュエーションも生まれかねません。

●ノーガードで通知書が届くことも

 当然この点を危惧する方もいるわけで、平成28年には総務省に対してこんな相談が寄せられました。

 「事業主を経由して従業員に交付される納税義務者用の特別徴収税額決定通知書には事業主が知る必要のない主たる給与所得以外の所得情報(不動産所得、利子・配当所得、一時所得等)や控除情報(障害者、寡婦等)が含まれており、他人には知られたくない情報が事業所の経理担当者等の第三者に知られてしまう可能性がある。プライバシーの保護上問題があると考えられるので、納税義務者用の特別徴収税額決定通知書において事業主が知る必要のない情報については秘匿するための何らかの措置を講じてほしい」

 もともと地方自治体によっては通知書に目隠しのシールを貼るなどの秘匿措置をとってプライバシー保護に努めていました。しかし予算などの問題からか秘匿措置を実施している自治体は半数ほど。ということは、お住まいの場所によっては知られたくない情報が記載された通知書がノーガードで会社に届いてしまっているわけですね。考えてみると恐ろしい話です。

 地方自治体としては、「予算もないのにそんなことを言われても……」となるところだと思います。それはよくわかります。無い袖は振れませんから。 しかし、自治体としては予算の問題がクリアできれば(たぶん)対策をしたい。サラリーマン側はどうにか改善してほしい。そんな制度なわけですから、できてから60年以上たつこの制度をそろそろ見直してみても良いんじゃないでしょうか。

 個人的にベストと思うのは天引額だけ会社へ、細かい通知書は個人へと別送してもらう形。これならプライバシーに関して何の心配もいりません。しかし、予算の都合で秘匿措置ができていない現状を考えると、郵送代が増える別送という形もまた現実的ではありません。

●「通知書送付不要」の選択肢を

 というわけで提案です。暫定的な措置にはなりますが、サラリーマン側に「通知書の送付は不要」という意思表示をする選択肢を作ってみるなんていうのはどうでしょう。通知書が必要であれば役所に取りに行けば良いわけですしね。本人の意思で通知書の送付を省略できるとすると、本人が意思表示のための書類を1枚書くだけ、地方自治体も新たな予算を組む必要がないという、両者がほぼ負担のないかたちでプライバシーが守られるように思います。

 もちろんこの方式に課題がないわけではありません。しかし、世の中的にもプライバシー保護というのは避けられない流れなわけですから、地方自治体の皆様方にはぜひご検討してみていただきたいところです。



著者紹介──高橋創(たかはしはじめ)

1974年東京生まれ。東京都立大学(現首都大学東京)経済学部卒業。専門学校講師、会計事務所勤務を経て2007年に新宿二丁目に高橋創税理士事務所を開設。著書に『税務ビギナーのための税法・判例リサーチナビ』 (中央経済社)、『図解 いちばん親切な税金の本17-18年版』(ナツメ社)。コラムに「誰かに話したくなる税金喫茶」(会計人コース)。

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