“2021年のIPO”目標に掲げスタート、「これまでの製品にはこだわらない」と語る理由
SMBセキュリティ市場の“ディスラプター”目指すJSecurity
2019年04月25日 07時00分更新
昨年(2018年)1月、Jiransoft Japanのセキュリティ事業子会社としてJSecurityが設立された。今年3月、同社社長に就任した崎山秀文氏は「失うものはない、だからこそ変化にも対応していける」と語り、日本市場におけるビジネスをこれから大きく変えていく意気込みを見せる。同社の掲げる目標は「2021年のIPO」だ。
特に中小企業(SMB)向けのセキュリティ市場をターゲットとして、日本市場のニーズに即した新たなソリューションを素早く展開していきたいと語る崎山氏に、Jiranファミリーの強みからJSecurityビジネス戦略、現在考えている新たなソリューションの具体的な姿などを聞いた。
「日本で成功すればAPACでも必ず成功できる」日本市場へのこだわり
Jiranファミリーは1994年、韓国で4人の学生が立ち上げたソフトウェア企業・Jiransoftを母体としている。韓国ではITベンチャーの“第1世代”として知られ、学生からの人気も高いという。現在は、KOSDAQ上場企業であるJiran Securityなど30数社のファミリー企業を持つ。
Jiranファミリーは日本/APACをはじめ米国、欧州に展開している。日本市場への進出は早く2004年からだ。2011年には日本法人のJiransoft Japanも設立した。JSecurityはこのJiransoft Japanのセキュリティ事業部門を分社化してできた新しい企業だ。
Jiranファミリーがいち早く日本市場に進出した理由は、世界市場に進出していくための重要なベースキャンプとして日本市場を捉えているからだと、崎山氏は説明する。
「Jiransoftの創業者であるオー(呉 治泳氏、現Jiransoft Japan社長)は、いつも『日本で成功して、世界市場に出て行きたい』と言っている。顧客の品質要求が高い日本市場で成功するのは難しい。だからこそ、日本市場で成功すればAPACなどの他地域に出ても成功できるという考え方だ」
Jiranのいちばんの特徴は「製品開発のスピード」だと、崎山氏は語る。韓国にいる従業員800人のうち、およそ600人がエンジニアだという。
「とにかく『製品を作るスピード』と『コストの安さ』には抜群のものがあると思う。あるとき、わたしが『こういう製品があったらいいのに……』と言っていたら、1週間程度で『こういうのができましたよ』と持ってきたほどだ(笑)」
JSecurityでは、メールセキュリティの「SPAMSNIPER」シリーズや「MAILSCREEN」をはじめ、セキュアなオンラインストレージの「GIGAPOD」、ビジネスチャットツールの「MessagePOD」といった法人向けソフトウェア製品をラインアップしている。Jiransoft Japan時代から数えて、日本国内では7000社ほどの採用実績を持つ。こうした自社開発のソフトウェア製品は販売パートナーへのOEM提供も行っており、パートナーブランドで提供されている製品も加えると採用実績数はさらに増えるという。
また、JiransoftがAPACでの独占販売権を持つ脅威データベースサービス「CYREN」や、国内代理店となっているマルチベンダーファイアウォール統合管理ソフト「FIREMON」といった、サービスプロバイダーやエンタープライズ向けのソリューションも取り扱っている。これらもすでに国内大手企業を顧客に持つ製品だ。
日本市場向けにマーケティング、サポートを改善し大きな成長を狙う
こうして日本市場でも一定のシェアを獲得してきたものの、ビジネスはこれまで「いまひとつ伸び切れていない」状態が続いてきたという。その状況を打開するためにセキュリティ事業をJSecurityとして独立させ、意思決定スピードを高めて成長を促す戦略をとった。
崎山氏は前職のキヤノンITソリューションズ時代に、国内販売パートナーとしてJiran製品を取り扱った経験を持つ。「その頃から気付いていたこと」として、崎山氏は製品開発に対する日韓の文化的なギャップを指摘する。
「ビジネスが伸びていない理由は、これまでの製品が日本市場のニーズに合った製品になっていないこと。あと、日本向けのマーケティングがわかっていないこと。逆に言うと、この2つさえきちんとやれば、製品を作る力はあるので必ず成功するものと期待している」
端的に言えば、韓国メーカーは製品の市場投入スピードを優先し、日本メーカーは製品の品質を重視するという考え方の違いがあるという。「韓国ではなかばPOCのように製品販売をスタートし、顧客と市場の声を聞きながら製品を改善していくスタイル」。これを日本の顧客視点で見れば、バグが多い、仕様どおりに動かない、問題のある製品をリリースしているように見えてしまうだろう。
JSecurityはそうした文化ギャップを埋め、日本市場における成長を促すために設立されたと言ってよい。崎山氏も「日本市場に向けた、日本の会社としてやっていく。日本文化に合った製品の出し方をしていきたい」と強調する。
具体的に注力していくポイントとしては、大きく「マーケティング」と「サポート」の2つだと説明する。日本市場のニーズにあった機能や、パートナー販売における価格構造などを整備するマーケティング、そして日本市場で期待される高い品質を担保するサポートである。
「もちろんバグをしっかり潰すような品質の担保は重要だが、製品自体は良いものなので大きくは変えない。それをどう持っていけば日本市場で売れるのかを、しっかりと考えたい」
SMB向けの“統合脅威管理ソリューション”投入予定、ビジネスモデルも変える
JSecurityがメインターゲットとする顧客企業の規模はSMB(中小企業)層だ。エンタープライズ向けセキュリティ市場は競合ベンダーがひしめき合い、“流行り”もあって市場の流れが速い。それと比べると、SMB向けセキュリティ市場は流れがゆるやかだ。
その一方で、中小企業のセキュリティ対策がサイバー攻撃のトレンド変化に取り残されており、ビジネスがセキュリティリスクにさらされているという大きな問題がある。「SMBの企業が『ITセキュリティなら、JSecurityを使えば大丈夫』となることを目指す」と述べたうえで、崎山氏は現在計画している新たなセキュリティソリューションの構想を明かした。
まず、現状のSMB向けセキュリティ対策製品における課題を次のように語る。
「現在のSMB企業が導入しているセキュリティ製品と言えば、エンドポイント(マルウェア対策)とゲートウェイ(UTM)、あとはネットワーク監視によるデバイスの不正接続防止、メール誤送信防止といったところだろう。ただし、これらのメーカーがすべてバラバラでログの相関分析ができず、攻撃が高度化する中でセキュリティを守るのが難しいという問題がある。専任のIT担当者がいないSMB企業がバラバラの製品を使っても、セキュリティレベルは上がらない」
エンタープライズ向けセキュリティ市場では、こうした課題を解消すべくSIEMなどのソリューションも一般化しつつある。だが、専任IT担当者がいない、セキュリティ予算も少ないSMB企業では望むべくもないのが現状だろう。
そこでJSecurityでは、SMB向けに“統合脅威管理ソリューション”を開発し、提供することを考えているという。Jiranでは上述したようなセキュリティコンポーネント群をラインアップしている(日本未提供製品も含む)ので、それらの製品群を機能連携させるとともに、単一コンソールから監視や管理、ログ分析、レポーティングなどができるようなイメージだという。製品の詳細は、5月に開催される「情報セキュリティEXPO」で公開する予定だ。
また、このソリューション提供においてはサブスクリプションモデルを採用し、セキュリティ監視や監視、運用の「サービス」として提供する形態を考えているという。パートナー経由での販売も検討しており、「これまでIT製品、セキュリティ製品を扱っていなかったようなパートナーも出てくる可能性がある」と説明する。
「たとえばあるビジネス機器を24時間365日、全国で駆けつけ保守している会社から、このソリューションのパートナービジネスへの関心を持っていただいている。ITセキュリティ分野の会社ではないが、われわれがツールを提供し、その保守網を生かせば、顧客企業のインシデント発生時には駆けつけ対応もできる。そういう新しいパートナーのかたちもあり得ると考えている」
前述したとおり、JSecurityはJiransoft Japan時代からの豊富な製品ラインアップを持つが、崎山氏は「これまでの製品にはこだわらない」と断言した。Jiranファミリーの強みは「時代に合った製品を素早く、安く作れる」点にあり、その開発力を「市場への適応力」として存分に生かしていくべきという考えからだ。
販売パートナーについても「一緒に汗をかき、市場の声を聞いて、ビジネスを大きくしていこうというパートナーとやっていきたい」と述べた。
冒頭に触れたとおり、JSecurityでは事業目標として「2021年のIPO」を掲げている。崎山氏は、その実現のためにはパートナーと共に結果を出していくことが必要であり、まずはJSecurity自身の人員拡充やサポート体制の構築を進め、「信頼される、安心できるメーカーになっていきたい」と抱負を語った。