年15%の成長からさらに加速するための戦略、コンテナとクラウド、SAP HANA、企業買収など
再び独立企業となったSUSEは「エンタープライズOSS企業」目指す
2019年04月09日 07時00分更新
独SUSE(スーゼ)は2019年3月中旬、それまでの親会社Micro Focusから投資会社EQTの傘下に入り、ふたたび独立企業となった。独立後初めてのイベントとなった年次カンファレンス「SUSECON 2019」(4月2日から5日まで米国ナッシュビルで開催)では、顧客やパートナーに今後の方向性を示した。技術としては「マルチクラウド」「コンテナ」が大きな鍵を握るが、成長を牽引するのは同じドイツに本拠を置く“あの企業”のようだ。
SUSEと言えば「Linuxディストリビューションの」という枕詞がつく。もう一つ付け加えるならば「Red Hatに次ぐ」だろう。現在のLinux市場はCentOSも吸収したRed Hatの“一人勝ち”のようにも見えるが、そのRed HatがIBMに買収されたことで「(SUSEは)世界最大の独立したオープンソースソフトウェア(OSS)企業」になると、SUSE CEOのニルス・ブラウクマン氏は語る。
SUSEの歴史は複雑だ。1992年に3人のドイツ人が創業し(当時の社名はS.u.S.E)、初のエンタープライズ版Linuxディストリビューションを作成、1994年にはフロッピーディスクで「S.u.S.E Linux」バージョン1.0を出荷した。1999年には現在も続く「SUSE Linux Enterprise Server(SLES)」が登場し、それまで欧州メインだった製品展開を北米、そして日本を含むアジア太平洋へと拡大した(SLES x86版は2000年から)。SUSEは仮想化技術のKVMをサポートした最初のLinuxでもある。エンタープライズ版に合わせて、無料のコミュニティ版「openSUSE」も持つ。
その間、2003年にはNovellに買収され、さらに2011年にはAttachmate、2013年にはMicro Focusへと親会社が変わっていった。そして昨年、Micro Focusが投資会社EQTへの売却を発表し、今年3月にその取引が完了した。
独立企業として“再スタート”を切った直後のSUSECONには、過去最大となる約1000人が参加した。基調講演でブラウクマン氏は「オープンソースの柔軟性を利用して、顧客企業のデジタルトランスフォーメーションを推進できる」と参加者に呼びかけた。
ブラウクマン氏が強くアピールしたのは、現在のSUSEが拡大を進めるコンテナとプライベートクラウドの基盤製品群だった。コンテナでは、アプリケーションライフサイクル管理の最新版「SUSE Cloud Application Platform 1.4」を発表、Cloud FoundryとKubernetesとの統合を進めた。Kubernetes公認サービスプロバイダとなったことも発表している。また、クラウドでは「SUSE OpenStack Cloud 9」を発表した。このSUSE OpenStack Cloudは、SUSEがHewlett Packard Enterprise(HPE)から買収したHPEのOpenStack「HPE Helion」をベースとしており、最新版において初めてSUSEブランド単独でのリリースとなった。さらに、OSSのCephを利用したSDS(Software-Defined Storage)にも製品を拡大している。
これらの技術により「企業はさまざまなワークロードをオンプレミス、ハイブリッド、マルチクラウドで実装、運用、管理できる」とブラウクマン氏は説明する。
一方、主力製品であるLinuxディストリビューションでは、Microsoft Azure上のSAP HANA Large Instance(「SAP HANA Large Instances on Azure」)に対応したLinuxイメージを発表している。このインスタンスは0.5TB超のメモリサイズを必要とするワークロード向けのハードウェア構成となっており、SUSEの「SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applications」との組み合わせて最大60TBのメモリサイズをサポート可能という。
実際、SAPはSUSEのLinux事業において重要な役割を占めている。ともにドイツを拠点とした密接な協業に基づく親和性の高さによって、SLESはSAP HANA環境において90%のシェアを持つという。旧版のSAP ERPが2025年にサポート期限終了を迎えることから「S/4HANA」への移行が加速することが予測されており、それがSUSEには追い風となる。エンタープライズLinux市場ではRed Hatが強い印象があるが、実際にはFortune Global 100企業の3分の2がSLESを利用しており、ミッションクリティカル領域ではそれなりのポジションを確立している。
日本市場でもミッションクリティカル領域が重要だ。日本法人 カントリーマネージャーの川崎哲郎氏は、三菱UFJ銀行がIBMメインフレームとの組み合わせで採用した例、東京工業大学のスパコン「TSUBAME」で採用された例を紹介した。
ブラウクマン氏は、SUSEの年間成長率は現在15%だと述べたうえで、最大の独立系オープンソース企業となった今、成長戦略をさらに加速させる方針を明かした。技術面ではLinuxディストリビューションの枠を超えて拡大していく。OSS技術全般へのコミットと貢献を続ける一方で、「買収を通じて戦略を高速に届ける」(ブラウクマン氏)戦略だという。同社の戦略、アライアンス、マーケティング担当プレジデントのマイケル・ミラー氏は、「アプリケーションデリバリー/管理の土台としてKubernetesを補完するような技術を考えている」と答える。具体的な内容は明かさなかったが、「企業が必要としているセキュリティ、ネットワーキング、マルチクラスタ管理などの技術を加え、統合していく必要がある」とヒントをくれた。
人員体制的には、技術だけではなく営業/サポートも増員、強化していく。パートナーはこれまでハードウェアベンダーが中心だったが、今後はシステムインテグレーター、ISVなどとも積極的に組む。システムインテグレーターではクラウドに強いインドのSI、ISVではSUSEのコンテナアプリケーション開発サービス「SUSE CaaS Platform」を使ってブロックチェーンを開発するTymlezなどの事例が出てきているという。
新しい親会社のEQTは成長企業を取得して加速させるという投資戦略をとる。イグジットの方法として買収、IPO、他の投資会社傘下になるという3つの選択肢がある中、「SUSEが目指すのはIPOだ」とブラウクマン氏は述べた。