反トラスト法訴訟の棄却が
売上を大きく押し上げる
この好調を助けたのは、米司法省による反トラスト法訴訟が1982年に取り下げられたことだろう。連載439回でも触れたが、もともとは1969年にIBMに対して起こしたこの訴訟、当時はIBMが米国内の72%ものシェアを握っており、この立場を利用して競合より有利な取引を顧客に強いている、という状況から起こされたものである。
以後13年の間に、IBMは合計で1億ドル以上の経費をこの裁判のために注ぎ込んで戦ってきており、また裁判に変な影響をおよぼさないように、「相対的に」あまり強引な営業は避けるといったビジネスへの配慮も必要だった。
ところが1982年になるとIBMの敵はメインフレームメーカーではなく、DECやApple Computer、あるいは日本企業に変わっており、そもそも訴訟を起こした状態とまったく様相が異なっていた。
さらに1982年に大統領になったRonald Reaganが反トラスト法訴訟にあまり熱心ではなかった。少し後になるが、レーガン政権下で設置されたCEA(Council of Economic Advisers:大統領経済諮問委員会)は1985年にYoung Report(*1)を発表する。
しかし、このレポートは知的財産権保護の強化を提唱した一方で、反トラスト法に関しては緩和の方向を示し、実際その後の米国はそういう方向に向かっている(オバマ政権で再び反トラスト法は厳しくなったが)。
(*1) 正式名称は“Global Competition-New Reality”であるが、このレポートをまとめた委員長がHP社長のJ.Young氏だったことからこの名前がある。
ただこのレポートが出る前から、そうした状況になることは米国内で広く認識されており(なにしろ大統領選挙に絡んでこの手の話は散々スピーチされているからだ)、こうなると司法省としても訴訟を継続するのは難しいと判断するのは仕方ないところだ。
結果、IBMにとっては足かせが1つ減ったようなもので、1982年から売上の伸びが大きくなっている理由の1つは、この訴訟終結にあるとしても間違いではないだろう。
余談だが、司法省はIBMと並行してAT&Tに対する反トラスト法訴訟を行なっていたが、こちらも同じ日に打ち切りとなっている。理由はおおむね、IBMに対するものと同じである。
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