Amdahl博士が辞任
新たな会社を設立する
以上のように会社は順調に推移していくが、Amdahl博士にとってはむしろトップレベルの営業活動に引きずり回されることになり、あまりうれしいことではなかったらしい。1977年にXeroxのbusiness systems and data systems divisionsの長を務めていたJohn C. Lewis氏を社長に招聘、自身は会長に退き、社長を務めていたWhite氏は副会長に昇格する。
ただその2年後、Amdahl博士は取締役会からも辞任、名誉会長として技術委員会の中で戦略開発に携わることになるが、1年たたずに自身の名を冠するAmdahl Corporationから離脱。新たにTrilogy Systems Corporationを創業することになる。
Amdahl博士はここでWSI(Wafer-Scale Integration)という技術にチャレンジする。名前の通りウェハー全体を利用して回路を作る仕組みで、今で言うならシリコンインターポーザーを利用して複数のチップを接続する仕組みを、1980年代にウェハー単位でやろうとした(当時のことなのでウェハーの直径そのものが小さかった)のだが、案の定うまくいかなかった。
さらに博士は自動車事故とこれに関する訴訟に巻き込まれており、社長を務めていたClifford Madden氏は脳腫瘍で逝去している。その後、Trilogy Systemsは開発を中止、残っていた資金でミニコンピューターベンダーだったElxsiを買収するものの、最終的に1989年にここも辞任しており、さらに別の会社を興すという精力ぶりであるが、こちらの話はおいておこう。
IBMの攻勢で減益
話をAmdahl Corporationに戻すと、1979年にIBMは4300シリーズを発表する。こちらはミドルレンジのSystem/370互換マシンであるが、当初のシステムは性能が低いものの、将来製品(Hシリーズと呼ばれていた)では高速化されるとされ、買い切りしかないAmdahl Corporationのマシンより、レンタルでアップグレードするほうがお得というセールストークをしたおかげで、1979年のAmdahl Corporationは2100万ドルほど売上が落ち、利益も64%減少している。
ちなみに1979年から1980年にかけ、Amdahl CorporationはMemorex CorporationとStorage Technology Corporationの買収を試みる。IBMの高い売上は、単にシステムだけでなく幅広い製品ラインナップによるもので、このうちストレージは特に「儲かる」分野だったから理にかなっているともいえるのだが、この時点でAmdahl Corporationの株の34%を保有していた筆頭株主である富士通が買収に同意しなかったためである。
富士通自身がストレージを提供するメーカーでもあったから、ある意味これも理にかなった話ではある。ちなみに1982年からは富士通からストレージシステムを仕入れて販売するというビジネスが始まっており、着地点としては妥当なところだろう。
この後、Amdahl Corporationはプロセッサー技術に、富士通はデバイスに加えて周辺機器にそれぞれフォーカスしながら緊密に開発を進めていくという体制がここからスタートしている。
1980年、IBMはHシリーズと呼ばれていたIBM 3081を発表する。これはIBM 3033のほぼ2倍のパフォーマンスを実現する製品であり、Amdahl CorporationもただちにAmdahl 580シリーズを発表してこれに対抗する。
シングルプロセッサーのハイエンドであるModel 5860は、これまでのハイエンドだった470V/8の2倍の性能(大体13MIPS相当)を持ち、十分競争力があるはずだった。サイクルタイムは24ナノ秒s(つまり動作周波数は41.7MHzほど)、引き続き富士通のECLチップが使われたが、MCCsは11×11チップに大型化している。
画像の出典は、“Wikimedia Commons”
もっともこのMCCsは14層基板を使っていながら、裏面が下の写真の有様だったらしい。当然ながら初期ロットに関しては信頼性の問題が少なからずあったようで、当初は1982年4月に発売といいつつ同年8月まで遅延したこともあって、出だしはあまり芳しくなかった。
画像の出典は、Internet Archiveに保存された“The Roger Broughton Museum of Computing Artefacts”
おまけにこの1982年というのは、13年かけて行なってきたIBMへの反トラスト訴訟を米司法省が取り下げた年でもあり、これもあってIBMの攻勢は激しく、Amdahl Corporationはまた減益に追い込まれることになった。
ただその1982年に同社はデジタルネットワーク機器を製造していたTran Telecommunications Corporationを買収することで多少売上の落ち込みを緩和できたし、富士通との協業によるストレージシステムの提供もこれに貢献した。
翌年以降は580シリーズの信頼性も安定し、そこから再び業績を伸ばしていく。1984年にはUNIXベースのUTSというOSを投入、これはIBMの製品より25%高速で、しかもIBMにOSライセンスを支払う必要がなかった。
また同じ1984年にはMDF(Multi Domain Funcion)というハードウェアベースの仮想マシン機能も搭載。同社のマシンのユーザーのおよそ3割がこの機能を利用したとする。
1985年にはIBMで20年の勤務後にAuto-Trol Corp.のCEOを勤めていたErnest Joseph Zemke氏をCOOとして招聘、さらに年末にはハイエンドとなるAmdahl Model 5890や、これをデュアル化したModel 5990と、逆にローエンド向けにModel 7300シリーズも投入される。
このModel 7300シリーズはUTS専用マシンであり、低コストながら良い性能/価格比を実現した。逆にModel 5990は、ハイエンドのModel 5990-790で750万ドル、エントリー向けのModel 5990-500で462万ドルと結構な価格ではあったが、IBM 3090よりも50%以上高い性能を発揮し、1988年中に40システム以上が出荷されている。
こうした製品の充実振りもあって、1988年の売上は前年比17%増しの21億ドル近くに達したが、IBMが猛烈な価格引下げ攻勢をかけた関係で同社も価格の割引に応じざるを得ず、利益は30%ほど減少している。

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