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大谷イビサのIT業界物見遊山 第32回

注目のスタートアップの情報を足で稼いでみた

記者が広報・PR会社のもとに出向くキャラバンやってみた

2018年10月23日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/Team Leaders

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 最近は記者も働き方改革だ。働き方について取材していると、最終的には個人のタイムマネジメントが非常に重要であることがわかってきた。ということで、最近は広報やPRの人にまとめて会うキャラバンというプロジェクトをやっている。働き方を考える上で、なにかの参考になれば幸いだ。

喫茶店とかで、資料を囲んでお話しします

会う日を決めて記者が出向く

 記者という仕事柄、広報やPR会社から「新製品とニュースリリースがあるので、ぜひご説明に上がりたい」という依頼を受けることが多い。また、広報・PR界隈のイベントに登壇していることもあり、「このネタは果たしてニュースバリューがあるのか?」「どうやったらメディアに取り上げてもらえるのか」と相談を受けることも多い。

 こういった話から記事が生まれることはもちろん、広告案件やイベント登壇につながることも多いし、今年後半はこうしたコラムを一定のペースで掲出したいと思っているので、インプットが増えるのはよいことだと思っている。ただ、残念ながら時間は有限なので、執筆や企画作りにも集中したいし、夜まで仕事するつもりもさらさらない。長時間労働で体を壊したらいい記事も書けないし、まして40代は現状維持ですらチャレンジだ。どうしたらよいか考えた末、やり始めたのが記者側から広報やPR会社に出向くキャラバンというスタイルである。

 やり方はシンプルで、Facebookに次のキャラバン実施日を投稿すると、これを見た広報・PRが希望の時間と場所をコメントするというもの。当日は山手線の中で適当な場所を指定し、会社やカフェなどでお話しを聞くことになる。

 そもそも忙しい社会人同士がお互いに会うために予定を調整すること自体、無理がある。キャラバンの場合、日にちは固定されていて、あとは場所と時間を予約してもらう。その日はアポの日と割り切っているので、こうするとメッセンジャー経由で飛んでくる案件のように「割り込み」にならず、人と会うことに集中できる。とにかく自ら能動的に時間を使えるのが気に入っている。

 こうして実施していったキャラバンもすでに3回目。告知をして予定が埋まるまで1日かからないので、なかなか好評である(応募が来ないと、かなりかっこ悪いし)。「記事になるかわからないし、忙しそうなので声をかけるのもひける」と考える広報側も、1 on 1の時間をきっちり確保できるのでメリットに感じてもらっているようだ。

 さて、以下では10月11日に開催したキャラバンの模様を実際にお見せしよう。

10:00 ベーシック(麹町)

 朝9時30分に市ヶ谷のオフィスに到着。すぐにオフィスを出て、徒歩で10時からのアポである半蔵門のベーシックさんに向かう。担当は広報の浅野さんと奥田さんです。

 Webマーケティング会社のベーシックは、Webマーケティングサービス「ferret One」とフォーム作成を容易に行える「formrun」などのツールや、40万人の会員を突破したWebマーケティングメディア「ferret」などを運営している。最近では、Twitter、LINE、Pinterestなどの監修によるWebマーケティング講座やB2Bのアクセラレータープログラム「B-SKET」を開始している。

 イベントスペースは勉強会やコミュニティ用に解放されているほか、社員で居住地域ごとにグループ編成した防災コミュニティも導入。早く帰ったらガチャが引けるみたいな仕組みも創業当初から取り入れており、働き方に関しては古くから注力しているという。formrunのようなツールはすぐに記事化につながりそうなので、取材のアポを別途でとる話で、おおむね30分くらいでミーティングは終了した。

ガチャ引いたら、のど飴が出てきたので、こっそりなめることに

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10:30 千(麹町)

 ベーシックのオフィスを10時30分に出て、麹町のタリーズで株式会社千の広報に会う。人づてでキャラバンを知ったという新人広報の木村さんとメッセンジャーをアポをとったのでもちろん初対面。どうもこんにちは。

 千は幼稚園・保育園の行事をカメラマンが撮影し、インターネットで販売する「はいチーズ!」というサービスを提供している。社内にプロのカメラマンがいるのが特徴で、2004年からサービスを開始しており、累計6000社と実績も高い。

 ここが面白いのは、テクノロジーにかなり前のめりなこと。VRを使った臨場感の高い卒園アルバム「ミライアルバム」やドローンでの空撮なども提供。昨年はAWSの顔認識サービス「Amazon Rekognition」を用いることで、自分の子どもの顔が写っている写真をいち早く見つけられるサービスを開発したということで話題となった。働き方もユニークそうなので、今後取材等でカバーしていきたい。

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11:30 ユニメディア(永田町)

 千の木村さんと麹町で別れ、そのまま永田町まで歩いて「Nagatacho GRID」に。2017年にオープンしたGRIDは、1つのオフィスビルにイベントスペース、カフェ、シェアオフィスなどが統合されている。11時30分とお腹も減った頃だったので、アポをとったベンチャー広報の長崎さんとおされ社食でランチ。メニューはもちろんカレー。副菜も取り放題で美味しかった。

ヘルシー感あふれるカレーとお総菜を囲んで話がはずみます

 さてベンチャー広報さんは文字通りさまざまなベンチャーの広報を担当しているのだが、今回のメインで紹介してもらったのは2001年創業のユニメディアさんだ。ユニメディアはAI帳票処理特化型RPAを謳う「LAQOOT(ラクート)」というサービスを提供しており、紙に記載された帳票のデータ化をAIとクラウドソーシングの組み合わせで実現している。

 そして、ユニメディアが9月に提供開始したのがディープラーニングの学習データセットで必要なアノテーションをクラウドソーシングで提供する「ANNNOTEQ」というサービス。お声がけいただいたのも、9月に記事をアップしたDefinedCrowdが、このANNOTEQと似たようなサービスだったからにほかならない。日本でもこういうサービスがスタートしているんだという感想。有用なデータセットを集めるという現在のAI事業の課題をうまく解消するサービスとして期待したい。

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13:00 プラチナム(赤坂見附)

 長崎さんにGRIDを案内してもらったあと、そのまま赤坂見附へ。リニューアルした虎屋オフィスの横を抜けて、PR会社のプラチナムさんに。担当しているTeam Leaders向けの働き方改革系のネタをいくつかいただく。いくつかは今後記事化されると思うので、こうご期待。

 スタートアップ系のネタとしては、playgroundを紹介しておこう。playgroundはSNSと連動した電子チケット発券サービスである「Quick Ticket」を提供している。既存のチケット販売・管理システムを利用でき、ユーザーはLINEやFacebook Messengerでチケットを受け取れるというものだ。物理スタンプをスマホの画面に押印する形で、チケットが本物か確認できるという国際特許技術を持っているという。西武ライオンズや千葉ロッテマリーンズ、Vリーグなどのスポーツ業界のほか、ラ・フォル・ジュルネのような音楽業界、東京観光汽船やTCK(東京シティ競馬)など観光業界ですでに採用されているという。

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 複数のクライアントを抱えているPR会社さんの場合、記者に持ち込みたいネタはいっぱいある。これ1つずつ電話やメールで個別対応していたら、こちらもけっこうな塩対応になるのだが、まとめて紹介してもらって、その場で記事バリューや媒体としての掲出価値を判断する。こうすれば、PR会社も無駄に時間を使わなくていいし(媒体はうちじゃなくてもいっぱいある)、こちらも帰り際に電話対応しないで済むのでヘルシーだ。

14:00 Rebase(赤坂見附)

 プラチナムさんの次は、Rebaseの山田さんと赤坂見附駅近くの喫茶店で落ち合う。アポも5件目でやや疲れてきたので、甘いものを消費することに。入った喫茶店はやたらモンブラン推しだったのに、モンブランが品切れでかなり残念だった(笑)。

赤坂見附近くの喫茶店。ロールケーキで一休み

 さて、Rebaseは全国4500箇所以上(2018年10月)のレンタルスペースをオンラインで予約できる「インスタベース」を提供している。貸し会議室、セミナー会場、レンタルスタジオ、レンタルキッチン、レンタルサロンなどを時間貸ししている。

 スマートフォンの利用が7割近いという利用動向から、9月にはiOS版アプリのβ版を公開。10月にはレンタルスペースの価値向上のための「マーケットプレイス構想」を打ち出し、第一弾として大塚家具と提携した。レンタルスペースを始めたい企業や個人に向け、家具やインテリア、スマートロックなどさまざまな備品を容易に用意できる環境を実現する。

 今後はレンタルスペースも早い段階で1万箇所の達成を目指し、マーケットプレイス構想を推し進めることで、地方も拡充。競合となるスペースマーケットをキャッチアップしていくという。

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16:00 ユニオンテック(初台)

 最後のアポは初台オペラシティのユニオンテックの水間さん。京王新線最後尾の車両に乗り、階段を上がればそこはいつものオペラシティ。NTT東日本の本社もあり、昔はアップルも入っていたぞ。初台は私のアスキー半生スタートの地でもあるので、ホント懐かしい。

 さてユニオンテックは内装のクロス職人から身を起こした大川祐介氏(現会長)が2000年に立ち上げ、今ではオフィスの企画・設計・施行までトータルプロデュースする空間事業「UT SPACE」を手がけ、年間売上規模で30億円、従業員数が100人を越えるまで成長している。さすがオフィスのプロデュースを手がけるだけあって、エントランスからオフィスの中までなんだかおしゃれを通り越した高級感がある。

エントランスをかっこよく撮ろうと思ったけど、写真がしょぼくてごめんなさい。

 なぜオフィスプロデュースの会社とIT媒体記者の私に接点が?と思われるかもしれないが、ユニオンテックは2016年からはネット事業を手がけているのだ。現在主力になっているのは元請けと工事業者のマッチング事業である「SUSTINA」、LinkedInの職人版とも呼べる元請と職人のプラットフォーム事業である「CraftBank」の2つ。高齢化が進み、下請けが多く、非常にレガシーな建設業界の課題解決を実現するとともに、ユーザーにとっても適正な価格でサービスを利用できるというメリットがある。非常に志のあるビジネスだと感じられたので、追ってきちんと取材したいと思う。

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 ということで、17時頃に第3回目のキャラバンも終了。やっている最中は気が張っていたのであまり感じなかったが、情けないことに終わったらもうふらふら(笑)。世間の営業マンってすごいよなあとつくづく感じる。さすがにもう少し本数をしぼろうかなと思いつつ、記事につながりそうないろいろなインプットにつながったので、とても有意義な1日だと感じられた。今回はスタートアップ系が多かったが、今後もいろいろな形でこうした取り組みを進めていく予定だ。

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