このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

業務プロセス単位ではなく企業全体の自動化で“収益化”につなげるビジョンを、アクセンチュア下野氏

ビジネス成果が出ないRPA、経営層は目標を見直し「REA」を目指せ

2018年10月01日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

全社横断で利用可能なデジタルフレームワークが必要

 REAの実現には、そのためのIT基盤も必要になる。事業/企業全体を自動化していくための基盤として、アクセンチュアでは「デジタルエンタープライズフレームワーク」を提唱している。具体的には、これまで人間が行ってきたさまざまな業務作業を自動化する「デジタルワークフォース」、ワークフローやデータを管理し“全体”(業務間)の連携を容易にする「デジタルプラットフォーム」、そして「デジタルセキュリティ」という3領域のソリューション群で構成される。

 RPAはこのうちデジタルワークフォースの一部だけをカバーするものだが、下野氏は「REAを実現するためには、少なくともこの図のすべての要素が必要だ」と説明する。

アクセンチュアが提唱する「デジタルエンタープライズフレームワーク」

 アクセンチュアではこれらのIT要素を独自ソリューション、パートナーソリューション群として提供しているが、ポイントはシステムを独自に作り込むのではなく「既存の製品を買ってきて組み合わせる」手法にあるという。これにより短期間での基盤構築が可能になるるうえ、新たに有効なソリューションが出てきた場合の切り替え/組み合わせも容易になるからだ。

「早く始めれば成功確率は格段に上がる」海外成功事例に見るポイント

 海外の先進的な金融機関では「新規ビジネス創出」と「収益拡大」を明確な目標として掲げ、このREAの取り組みで成功している事例も出てきているという。下野氏は3つの海外事例を紹介し、そのポイントを説明してくれた。

海外の先進金融機関におけるREAの成功事例

 たとえばスペインのある銀行では、2016年のリオ五輪開催を控えて盛り上がりつつあったブラジル/南米地域向けの住宅ローン商品を新たに開発することになった。競合する他行も一斉に市場参入を決め、サービス用のWebサイト構築に取り組んだが、同行では他行が半年かかったところをわずか2カ月間で完了させた。ローン商品を他行に先んじて市場展開できた結果、その地域の市場シェアの7割以上を押さえることができたという。

 「この銀行では、とにかく開発期間を短縮するためにさまざまな部分で“割り切って”サイトを構築した。ありものの(既存の)パッケージソリューション群を連携させるかたちで構築することにし、ユーザー(顧客)だけでなく従業員自身もすべてスマートフォンだけで操作せよ、とした」「早く始めれば新規ビジネスの成功確率は格段に上がる。一番に着手すれば市場シェアが取れる。そういう事例だ」

 欧州にある別の銀行では、電話やメールによるアウトバウンドマーケティングのプロセスを自動化するためにAIとRPAを組み込んだ。マーケティング活動の方針は週に1回、人間が決定しているが、実行結果に基づく施策のチューニングはAIが自動的に行う。この仕組みによってマーケティング反応率、関連収益とも大きく向上している。

 3つめの事例は北欧の金融グループだ。生命保険商品を北欧3国のマーケットに展開するにあたって、それまで国ごとに異なる業務プロセスをとっていたものを統一、標準化した。その一方で、顧客へのアピールは「地域性を出したい」ニーズもあったため、その部分は各国のローカルのコンテンツプロバイダとAPI経由で連携している。これにより、業務効率を高めつつ保険契約数を20%増加させたという。

 「金融機関がサードパーティにAPIを公開する動きも盛んになっているが、APIでつながる先のビジネスプロセス全体が自動化されていなければ意味がない。サードパーティ、パートナー企業にとって“つながりがい”のある企業にならなければならない」

日本企業における課題、経営層のIT活用に対する無理解

 こうした先進事例を紹介しながら下野氏は、デジタル化の成功のためには「経営層が『ITを通じて収益を出す』視点を持たなければならない」と強調した。多くの日本企業がRPAより先の段階、つまりREAに進めていない現状について、その原因の大半は経営層にあると語る。

 「まず、ITソリューションは何らかの目的を実現するための手段である。しかし、多くの経営者が(IT強化を通じて)どういう企業にしていくかの青写真を持っていない。たとえばRPAを導入して人員を削減するのが目的なのか、というとそうではなく、収益向上を通じて継続的に成長していくことが目的のはず。そこで、収益向上のためにRPAのロボットをどこに適用するべきかを判断するのが本来の経営の姿になるはずだが、そうなっていない」

 ちなみに、RPAの大きなメリットとして見逃されているのが「いったんロボット適用した業務を人に差し戻せること」だという。業務単位で見ればとにかく何でも自動化するのが良いと考えられがちだが、事業/企業全体、つまり収益向上の観点から見て効果がなければ、やはり人が担当すべきだという結論になるかもしれない。そうしたトライ&エラーができるメリットはもっと注目されるべきだと、下野氏は語る。

 また、経営層のテクノロジーに対する理解度が低いのもデジタル化の進まない原因だという。たとえばRPAとは何か、どんな特徴がありどんな業務に適用できる/できないのかを正確に説明できる経営者は少ないのではないか。「一方でバークレイズ(英国のグローバル金融グループ)のCEOは、AIのビジネス活用を検討するためには何ができるのかを理解しなければならないと考え、あらためてPythonを学んだそうだ」。テクノロジーに対する理解度が低ければ、デジタル時代の正しい経営判断は難しいだろう。

 さらに“失敗を許さない企業文化”の存在も大きな妨げになっている。新規ビジネスへの参入において慎重になりすぎると、成功確率は大きく下がってしまうことを下野氏は指摘する。特にデジタルビジネスの世界では、それが結果に顕著な差として表れる。

 「企業経営層に提案すると、決まって『収益が出るかどうか、やってみなければわからないじゃないか』と言われる(尻込みされる)。それはそのとおりなのだが、もっと『収益化とはスピードである』ことを理解してほしい。先に紹介したスペインの銀行のように、他社よりも早く取り組めば収益化の成功確率は格段に上がる。だからこそ部品(既存のITソリューション)の寄せ集めで、他人(サードパーティ、パートナー)の力を借りてでも、いち早くスタートすることが大切だと説明している」

■関連サイト

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ