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「ライブ配信メディア完全解剖 〜過去と今、そして未来へ〜」 第103回

期待が外れた「スマホで通販番組」 広がらないライブコマースの市場規模

2018年08月19日 17時00分更新

文● ノダタケオ(Twitter:@noda) 編集● ちゅーやん

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 いま、ライブコマースというライブ配信と通販番組を組み合わせたサービスの終了が相次いでいます。

 先日、株式会社Flattが運営してきたライブコマースプラットフォーム「PinQul(ピンクル)」がサービスを終了することが代表取締役社長・井手康貴さんのブログで明らかになりました。iOS、Android版アプリがともにダウンロードできなくなっています。

 PinQulは、ライブ配信中にファッションアイテムを購入できるアプリ。言ってしまえば、スマホ向けの通販番組アプリです。2017年9月からサービスを開始したPinQulは、2018年5月に会社設立1周年を迎えたタイミングでアプリ上だけでなく、EC機能にフォーカスしたWEB版も運用していました。ところが、サービス開始から約1年でその歴史を終えることになります。

 ライブコマース事業のサービス終了はPinQulだけに限った話ではありません。2018年3月30日には株式会社ディー・エヌ・エーが運営するライブコマース「Laffy(ラッフィー)」が「ご利用ユーザー数等のサービスの成長に課題」「継続的な運用が困難」としてサービスを終了しています。

 実は、ライブコマース元年と呼ばれた2017年に誕生したライブコマースのプラットフォームは主に5つありました。株式会社Candeeが運営する「Live Shop!」と株式会社メルカリの「メルカリチャンネル」、BASE株式会社の「BASEライブ」。そして「Laffy」と「PinQul」です。

 eコマースとライブ配信の仕組みがかけ合わさったライブコマースは、日経トレンディが発表した「2018年ヒット予測100」において2位に「熱狂ライブコマース」という言葉が選出されています。2018年は注目していくべきライブ配信におけるキーワードのひとつとして、これからの盛り上がりが期待されていたところでした。

 しかし、当初に期待されていた流れとはちょっと違う感じになりつつあるのかもしれません。そのため、サービス終了するプラットフォームが出てきているのです。

ライブコマースには2つのかたちがある

 現在のライブコマースのプラットフォームは主に2つに分類できます。

(1)メーカーから委託を受けた商品を、インフルエンサーなどの著名人にプラットフォームが商品紹介してもらうライブ配信し、プラットフォーム自身が販売するプラットフォーム

(2)制作したハンドメイド商品や仕入れた商品を、プラットフォーム上にオンラインショップを持つクリエイターなどの個人やショップがライブ配信しながら紹介し、個人やショップ自身が販売するプラットフォーム

 先に挙げた5つのプラットフォームそれぞれ分けると、(1)は「Live Shop!」「PinQul」、(2)は「メルカリチャンネル」「BASEライブ」「Laffy」が属しています。

 (1)と(2)で大きく異なるのは、画面の向こうで「商品を紹介する人」の立場が違うことです。(1)はファンの多いインフルエンサーが登場することがほとんどです。一方、(2)はECサイトにショップを持ったり、サービスに登録をしたりすれば、誰でもライブ配信が可能です。そのほかにも(1)では個人やショップが自由にライブ配信できないことにも違いがあります。

なぜライブコマースに期待されたのか

 そもそも、eコマースとライブ配信の仕組みがかけ合わさったライブコマースに期待されたことはなんだったのでしょうか。これを話す前に、ネット上にあるECサイトやテレビなどの通販番組がもつ「課題」を知っておく必要があります。

 まず、ネット上のECサイトの課題です。ECサイトではテキストと写真だけで構成されるWEBページ上の商品情報では「実際の商品のイメージ」をつかみにくいことが課題でした。商品の魅力を正確に理解してもらうことまでに至らず、結果的に購入へ繋げることができないという販売者側の悩みもありました。

 次にテレビショッピングやラジオショッピングです。これらの通販番組では、販売者側から購入者側への商品の情報提供となっていました。画面の向こうにいる人が話してくれるので、商品の特徴などが伝わってきやすいのが大きなメリットです。しかし、あくまでも「一方通行な情報提供」であり、購入者が実は気になっている点をリアルタイムで質問することは難しいというのが課題でした。要するに、不明点や気になることを解決しきれないケースがあったのです。

 その点、ライブコマースではライブ配信の仕組みによって商品を紹介している配信者に対して、視聴者が商品に関する質問のメッセージをチャット機能で送ることが可能です。つまり、その質問をリアルタイムで返してもらうこともできるわけです。これらのライブ配信ならではのメリットにより、「人が話すことで伝わる実際の商品イメージ」と「双方向性のコミュニケーションによる商品への理解」という、「従来の通販」が抱えていた課題を解決できると期待されていたのです。

 ライブコマースによって実際の店舗にいかずとも商品への知識と疑問を解決させ、購入にもつながっていくと考えられていたのです。

 ちなみに、既に中華圏ではライブコマースによる通販購入事例が生まれています。日本国内でライブコマースに参画する企業がでてきたのは、こうした諸外国での事例が大きいと考えられます。その結果、ライブコマースのプラットフォームが2017年から2018年にかけて生まれていくことになったのです。

伸び悩むどころか勢いが失われつつある

 しかし、日本でのライブコマースは伸び悩んでいます。伸び悩んでいるというよりも、勢いが少しずつ失われていっているように感じます。

 先述した(1)のかたちをとったプラットフォームは、商品を購入するターゲットに刺さりそうなインフルエンサーなどの著名な人たちを多く起用しました。ライブコマースは商品を販売する以上、ライブ配信を見てもらわなければ買う人は出てきません。インフルエンサーなどの著名な人に登場してもらうことで、できるだけ多くの人に見てもらうことに注力をしました。視聴者を集め、紹介された商品がなるべくたくさん売れることを目指したのです。

 その結果、この施策を打ったプラットフォームに視聴者が少しずつ増えていき、認知も広がっていったように感じます。最初はこの形のプラットフォームが先に大きく成長をしました。しかし、ライブコマースでの新たな課題も見つかります。

 時が過ぎていくごとにわかったことは、視聴者が集まったからといって購入する人も増えることには直結しなかったのです。当然と言えば当然ですが、母数を広げても購入者数は比例しなかったのでしょう。さらには「売れる人」と「売れない人」の明暗が大きく別れてしまったという課題も見つかりました。

ライブ配信ならではの長所を生かさなければ伸びない

 ライブコマースに限らず、どのジャンルのライブ配信でも言えることは、「プラットフォームよりもコンテンツよりも人」の時代であること、そして「飾らない」ことです。前回の記事でも紹介したように、“ゆうこす”の相性で活動している菅本裕子さんは、今後のライブコマースの課題として「販売する側の熱量をどれだけ届けられるのか」と提唱しています。

 ライブ配信としてのプラットフォームの良さ(=視聴や配信の利便性など)はもちろん、コンテンツ(=内容)の良さもライブ配信において重要な要素です。ライブコマースでいうならばコンテンツは「紹介する商品」に相当します。しかし、ライブコマースにおいては、紹介する商品がいかに良質なモノであったとしても、それが売れるか否かは商品を紹介する「人」に依存するのです。つまり、ライブコマースでのコンテンツには配信者も含まれます。

 紹介する人がその商品に思い入れがなければ、ライブコマースのライブ配信を視聴している人たちには響きません。結果、その商品を買おうということにもつながりません。また、チャット機能によって寄せられる商品に関する質問に対して正確な回答を伝えられなければ、購買意欲を削いでしまう可能性すらあります。

 これは、ライブコマースに限らず、ネット上で展開されている「インフルエンサーマーケティング」全般に言えます。好きなインフルエンサーだからこそ、コアなファンは見ただけで「偽りのない情報(言葉)であるかどうか」を敏感に感じ取ってしまうものです。

 インフルエンサーだったら誰でも売れるわけではなく、紹介する商品に対しての思い入れや伝える熱量がないと、伝えたい人へ正しく伝播されません。ですので、ライブコマースで商品を売るためにインフルエンサーの力を借りて視聴者は集めたとしても、売れているように見えない、もしくは盛り上がっているように見えないと感じています。

 逆に言うと、売れるインフルエンサーはライブコマースのプラットフォームやコンテンツ(商品)にも依存せずとも、その「人」の力で売れるということもわかってきています。今後はプラットフォームに依存しないライブコマースの形が生まれようとしているのかもしれません。とはいえ、いまのライブコマースには販売する側の熱量を伝播できる(=ライブコマースに適応できる)インフルエンサーはまだ少ない状態なのも事実です。

 最後に、ライブコマースを見ている私個人からすると、まだライブコマースはテレビショッピングのネット版の域を超えていないと感じます。一般的には、そもそもライブコマースの存在を知らなかったり、「テレビショッピングのネット版」という程度にしか捉えられていなかったりします。

 テレビショッピングの域を超えるには、ライブ配信でしか実現ができない要素を充実させることが必要です。「その場に行った気になれる」リアルタイムな疑似体験、ライブ配信ならでは「ドキドキやワクワクを感じる過程の可視化」の要素も取り入れていくべきです。通販番組としての役割とライブ配信ならではのメリットをうまく組み合わせられなければ、ライブコマースならではの本質には到達しないと思います。

ライブメディアクリエイター
ノダタケオ(Twitter:@noda

 ソーシャルメディアとライブ配信・動画メディアが専門のクリエイター。2010年よりスマホから業務機器(Tricasterなど)まで、さまざまな機材を活用したライブ配信とマルチカメラ収録現場をこなす。これらの経験に基づいた、ソーシャルメディアやライブ配信・動画メディアに関する執筆やコンサルティングなど、その活動は多岐にわたる。
nodatakeo.com

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