IoT機器と直接関係ない業界がIOT盛り上げる
かくして2008年頃には、M2Mやユビキタスで一番問題になっていた「どうやって安価にインターネットに接続するか」が、条件付きではあるが勝手に解決したことになる。かくしてIoTが生まれることになった「ようだ」。
ようだ、というのは2011年にネットワーク事業者やエンタープライズ向けのネットワーク機器を手がける巨大企業であるCISCOのIBSG(Internet Business Solutions Group)という部門が2011年に公開した“The Internet of Things How the Next Evolution of the Internet Is Changing Everything”というホワイトペーパーの中で、「2008年から2009年の間に、地球の総人口よりも多いデバイスがインターネットにつながるようになった」と指摘しており、これがIoTが生まれた瞬間と業界では定義されている。
画像の出典は、CISCOの“The Internet of Things How the Next Evolution of the Internet Is Changing Everything”
ただ2008~2009年の時点では、IoTはまだ話題になっていなかった。話題になり始めたのは2011年に調査会社のガートナーが毎年公開しているハイプサイクル(Hype Cycle)という図にIoTを載せてからである。
画像の出典は、Gartner(以前は無償公開されていたのだが、現時点では無償公開期間が終了してしまっておりリンクなし)”
ハイプサイクルというのは、ガートナーの提唱する「あるものが生まれてから、それがどう普及していくか」を図にしたものである。ハイプサイクルの説明は省く(興味ある方はWikipediaの説明などをお読み頂きたい)が、ここに名前が載り、かつ5~10年で実用域に入るという話が出たことで、俄然多くの注目を集めることになった。
このトレンドに最初に乗ったのは、実は通信業界である。「500億個のデバイスが全部インターネットにつながって通信を始めたとしたら、その総トラフィックは大変なことになるし、今のバックボーンやアクセス回線では到底間に合わない」というかけ声の下、3GPP(Third Generation Partnership Project:携帯電話の通信方式の標準化を行なっている団体)に働きかけ、4G(LTE)や4.5G(LTE Advanced)に続く5Gの研究をスタートさせるとともに、ネットワーク機器の高速化や高性能化に向けて邁進していくことになる。
次に乗ったのはサーバーベンダーである。500億個といってもその大半はセンサーや単純な機器と予測されており、こうしたものはある意味データを垂れ流すだけのものである。
ただ垂れ流してもなんの役にも立たないが、これらをまとめて分析することで意味のあるデータが出てくる、という話はビッグデータにそのままつながるわけだが、その前段階として(半分としても250億個の)センサー類のデータを蓄えなければいけない。
どこに? といえば当然クラウドになるわけで、そのためにはクラウドのストレージを強化するとともに、より短時間で大量のデータを処理できるようにする必要がある。かくしてサーバの性能強化やフラッシュストレージの大容量化、スケールアウト性能の拡充といった方向に突っ走ることになる。
こうした、IoT機器と直接関係ない業界がまず盛り上がった後で、やっとIoT業界がもりあがることになった。ちなみにIoTそのものは別に業界もへったくりもなく、極端な話インターネットにつながっていればなんでもIoTなのだが、現実問題としてマネタイズという問題が出てくる。
たとえば手元の鉛筆をIoT化したところで、そこに付加価値は生まれにくいし、そこにお金を払ってくれるお客さんは見当たらないだろう。従ってターゲットはインターネットにつながることで付加価値が見出せる分野になってくる。
まず最初に浮かび上がったのが、ビル管理(Smart Building)や家庭内管理(Smart Home)、より自立的な電源網(Smart Energy)、そして工場などにおける統合管理(Smart Factory)などである。
家庭は後で説明するとして、例えばビルの空調を従来の手作業の管理から全部ネットワークで集中管理にすれば、よりエネルギー節約の可能性も出るし、複数のビルを一括管理することで管理員をビルごとに置かなくても済むようになる。
Smart Energyは特に昨今熱い分野で、再生可能エネルギー源を含む複数の電源の管理や、自身でも発電をして売電したり買電したりなんて未来を実現するためには、個々の拠点と発電所/変電所が密に連携しないと成立しないため、必然的にネットワークが必要になる。
工場もそうで、多数の工作機械やロボットを自律的に連携させて生産するには、まずすべての機械やロボットと常時通信できるようにしないといけない。
かくしてこうした分野の機器は一斉にネットワーク化に向けて進むことになったが、Smart EnergyはなぜかSmart Energyのままで、IoTとは呼ばれていない。一方ビル管理や工場の生産管理などは、IoTの中でも特に産業分野ということでIIoT(Industrial IoT)と呼ばれるのが普通で、IoTとは区別する方向になっている。
理由の1つは、工場などの環境に要求されるネットワークは、距離が広大だったりノイズがはるかに多いなどで通常のものでは無理だからだ。さらに、安全性も重視されるので直接インターネットにつなぐのではなく、一度別のネットワーク(これをField Busと呼ぶ)などでつなぎ、ここからゲートウェイを介してインターネットにつなぐ形になるためだろう。
この結果、本来はもっと広義の意味合いを指すにも関わらず、実際には家庭向けのインターネット接続機能付きの機器をIoT機器などと称することが、特に最近多くなっている。
もっともその家庭向け機器についても、現実問題としてやっといとぐちについたばかりという状況である。インターネット経由で温度や運転状況を制御したり監視できるエアコンはまだ少ないうえに高価で、インターネット経由でレシピをダウンロードして、勝手に調理してくれる調理器はまだ存在しない。
さまざまなスマートスピーカーも、今はまだ家庭内の機器のごく一部を管理するにとどまっている具合である。
ということで冒頭の話に戻り、ジサトライッペイはご母堂の御下問にどう答えるべきであったか? 筆者なりの回答としては「本来の意味は、身の回りのすべてのものがネットワークにつながって“すごく”便利になっていくということなのだけど、現状では一部の“少しだけ”便利な機器のことがIoTと呼ばれている」となる。
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