主力をVGAチップから
チップセットに変更
この時点でOAK TechnologyのVGAチップビジネスはすでに主流ではなくなっていた。まず1989年頃、同社はノートPC向けのチップセットビジネスにも参入した。5チップからなるOakHorizonチップセットは、米国ではまったくといっていいほど採用例がなかったが、ミツミ電機やNEC/日立に加え、Creative Technologyなどアジア地域で多く採用事例があった。
1991年にはこれを改良したOakNoteチップセット(チップ数は3つに減らされた)も投入されている。1992年にはAMDの386とCyrixの486向けデスクトップチップセットも発表した。
また1989年に、同社はAMDからビデオの圧縮伸張エンジンの資産とビジネス一式を買収している。当時はまだCPU性能が低く、満足に動画の録画はおろか再生もできなかったため、ハードウェアベースのエンコーダー/デコーダーを利用することが多く、このビジネスは割と大きなものだった。
1995年にはOTI-95C71という新しい圧縮伸張エンジンチップも発表し、これはPCだけでなくFAXやコピー、プリンターなどに広く使われることになった。
さらに1991年にはZilogと提携し、ワンチップのディスクコントローラーであるZ86C99が投入され、こちらも好評ではあった。
こうした多角化経営を行なったOAK Technologyだが、業績はなかなか厳しかった。1991年には5100万ドルに達していた売上は1992年に4500万ドル、1993年には3000万ドルまで下がっていく。
やはりPC向けの市場は競合が多く、特に低価格帯向けの同社の製品の場合、価格の叩きあいになってしまい、売れても利幅が少ない状況に陥っている。1991年には同社としては初のリストラを敢行したものの、なかなか厳しい状況だった。
CD-ROMコントローラーが
会社の窮地を救う
この状況を救ったのは、1991年から参入していたCD-ROMコントローラーの市場である。同社のOTI-011というCD-ROMをサポートしたコントローラーはWindows 95のPnP(Plug&Play)に対応した製品であるが、同社にとってラッキーだったことにこの中核となる特許(U.S.Patent 5581715、通称“715特許”)を同社が抑えていた関係で、他社製品ではPnPを実現できなかった(2001年にはこの件で台湾MediaTekとの間で訴訟が起きている)。
結果、OTI-011や、これに続きOTI-601 “Sound Mozart”(IDE I/Fも搭載するサウンドコントローラー)などが同社の主力製品になっていく。1994年の売上は4260万ドルまで復調、1995年には1億1100万ドルに達した。
この頃からCD-ROMドライブのスピード競争が始まるようになり、1995年にはこれに対応したOTI-910をリリースする。1994年には同社の売上の80%あまりをCD-ROMコントローラーが占めていたのに対し、1995年には他の製品(Video CDデコーダーなど)の健闘もあって、50%程度まで比率は落ちていた。この1995年に同社は新規株式公開を果たしている。
1996年、売上は2億4800万ドルに達している。ただしこの年の前半は、ドライブメーカーがCD-ROMを作りすぎて在庫が倉庫にあふれるようになったため、急激に売上が低下したうえ、そもそもの景気後退に加えインサイダー取引の疑いで訴えられたり、製品の不具合(OTI-64107のバグや、OTI-910が8倍速ドライブに対応できなかったなど)への対応などで、散々な結果に終わっている。
ただ後半にはMPEG-1のデコーダーや、より高速なCD-ROMメディア、あるいはDVD再生ソフトなどを投入している。また前年に買収したPixel Magicという画像処理プロセッサーベンダーが開発していたIDSP(Imaging Digital Signal Processor)がインクジェット/レーザープリンターやFAX、デジタルコピー機、スキャナーなどに広範に採用されることになり、これで持ち直した感じである。
とはいえ、このあたりから次第にCD-ROMドライブ向けコントローラーの需要が減っていった。1997年にはDVD-ROM用のワンチップコントローラーなどをリリースするものの、CD-ROMドライブの時ほどの独占的なシェアは獲得できていない。
結果、売上は1億6800万ドルほどに落ちた。翌1999年はさらに厳しく、売上は1億5700万ドルになっている。このあたりから急速に売上が低下し始め、1999年は7110万ドル、2000年は8650万ドルとなったあと、2001年には1億7600万ドルまで戻す。
もっともこれはBroadcast BusinessをConnexantに売却するとともに、大阪にあったAccel Technology Ltd.とアリゾナのTCD Labsを買収した結果として、それぞれの売上が合算/減産されているので、並べて比較するのは難しい。そして買収経費などで3060万ドルほどの純損失も出している。
このあたりからOAK TechnologyはPCとの決別を図り、組み込み向けのビデオソリューション、たとえば携帯DVDプレイヤーといった市場にフォーカスを絞る。
2002年に投入されたOTI-4110はその先駆けで、160MHz駆動のARM946E-Sコアに同社のQuatro DSP(Pixel MagicのIDSPのこと)を4つ搭載、さらにUSB 2.0を初めとする多くのI/Fを搭載し、プリンターやスキャナー、さらにSTB(Set Top Box)などをPCなしで動作させられるようにできる製品であった。
この市場は比較的好調で、翌2003年にはOTI-4100という下位製品も出し、この後もラインナップを増やす予定だった。ただ売上そのものは買収の効果もなく引き続き下落しており、そろそろ踏ん張るのは難しいと思ったのかもしれない。
OAK Technologyは2003年5月、やはりDVDやSTBに強いZoran Corporationに買収される。買収金額はおよそ3億5800万ドルで、うち1億ドルが現金、残りが株式交換の形で支払われた。
ちなみに創業者であるTsang氏は、新規株式公開後も会長兼CEOとして同社を経営していたが、1998年に一度MBO(Management Buy Out:経営者による株式買取)をかけて株式非上場にすることを取締役会に提案するものの否決される。これを受けてTsang氏は1999年に辞任。後任にはQuantumの副社長を務めていたYoung K. Sohnが就き、彼がZoranによる買収を受諾した形になる。
もしTsang氏が残っていたらZoranによる買収はなかったかもしれないが、もっと悲惨な形で会社が終わっていたかもしれない。そう考えると、買収されて良かったのかもしれない。
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