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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第58回

多少ストレスがあったほうが幸せ?どうぶつの森とストレスの関係

2017年12月27日 17時00分更新

文● 前田知洋

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 ちまたでは「3分間入浴法」というのがあります。40~42度の湯船に3分浸かって、3分間洗い場で過ごす、それを3回くりかえす入浴法です。これ、僕も試してみましたが、疲労回復や冷え性などにかなり効果がある気がしています(高血圧や心臓に疾患がある人はダメ)。ただ、今の季節は「洗い場での3分が、寒くてツライ…」のが難点ですが。

 じつは僕の仕事のマジックもそうですが、エンターテインメントの世界では「ストレス」と「気持ちい」は意外な関係にあるんです。もちろん、ゲームもそう。

 たとえば、テーマパークのアトラクションにしばらく並ぶからこそ、アトラクションの楽しさも倍増します。冒頭で紹介した入浴法では「あぁ、温かい…」と「ちょっと寒いなぁ…」を交互に繰り返すことで心と身体、交感神経が刺激されるのがポイントです。

 さて、ここからが本題です。任天堂のスマホゲーム「どうぶつの森 ポケットキャンプ」にハマっています。このゲーム、注意深く眺めてみると、そのストレスと気持ちよさのバランスが絶妙です。以下は、筆者がプレイした上での感想です。

 ストーリーは、自分のキャンプ場に家具などをレイアウトしながら、どうぶつを招待したり、友達になったどうぶつのお願いをかなえていくだけ。とくにゴールはありません。

 「どうぶつの森」シリーズの最新作ということもあり、本作は11月21日から1週間で1500万ダウンロードが世界中でされているようです(調査会社SensorTowerの発表)。

筆者のゲーム画面。ここまで揃えるのもかなり時間がかかります…(笑

ユニークなゲームの特徴

 「どうぶつの森 ポケットキャンプ」がユニークと筆者が感じるのは、一般的なゲームのように他のユーザーと得点を競ったり、ボスキャラを倒す必要がないところ。将棋や囲碁などのように、経験やスキルもいらず、シューティングゲームのように反射神経も必要ありません。プレイの達成度は「どれだけ頻繁にゲームを立ち上げるか?」と「どれだけゲームに時間をかけるか?」に集約されます。

 いつでもゲームを始められ、いつでもゲームを中断でき、プレイヤーがゲームをしながらリラックスできる、それが「どうぶつの森 ポケットキャンプ」の特徴といえるでしょう。

ゲーム内の絶妙なストレスとは?

 そんなほのぼのとしたゲームですが、プレイヤーにとってゲーム内でストレスを感じる要素が絶妙に配置されていると感じます。

 ネタバレになってしまうといけないので詳しくは触れませんが、筆者が感じたストレスは「だんだん難易度が上がる、どうぶつたちのお願い」や「任意に返済できるが、終わるまで次の依頼ができない高額なローン」などがあります。レベルが上がっていくと、友達になったどうぶつを招待するための家具もすぐには作れなくなっていきます。

 ゲームに登場する「ベル」という通貨や「リーフチケット」を使うタイミングも筆者には悩ましいですし、持ち物が増えすぎれば整理もしなければなりません。

 ただし、これらのストレス要素は、楽しいゲームにするために製作者が意図して配置したもののはず。トータルで考えれば、ゲームのマイナスになっていないのが興味深いところです。

「どうぶつの森 ポケットキャンプ」の気持ちいところ

 こんどは、上で説明したプレイヤーのストレスと逆の「気持ちいところ」を挙げてみます。タップだけでヌルヌルと移動する主人公や、プレイ中に行っていく「ムシとり」や「つり」など。登場するキャラクターのぬいぐるみのような質感も、子供から大人まで、多くの人たちの心に刺さることだと思います。

 上で説明したことに矛盾するかもしれませんが、誰かの「おねがい」をかなえるという「気持ちの良さ」もあります。

 欲しいキャラクターやアイテムを手に入れるまで、課金ガチャを回し続ける必要のないところもゲームアプリのビジネスモデルとして好感がもてるところでしょう。

これからのアップデートが鍵に…

 スマホゲームという新しい市場に満を持して投入されたユニークな「どうぶつの森 ポケットキャンプ」ですが、これからのアップデートと新ユーザーの取り込みが、さらなるヒットの鍵になると勝手に想像しています。大きなアップデートは既存のユーザーを引き止めますが、新規ユーザーの参入のハードルを上げてしまうリスクがあるからです。

 世界規模で展開しつつ、好調な滑り出しの「どうぶつの森 ポケットキャンプ」ですが、この勢いをどこまで維持していくかは「どこを新しくし、どこを新しくしないか」なはず。アップデートでも、ストレスと気持ちの良さのバランスを崩さないことをユーザーとして願っています。まぁ、そのあたりは「マリオブラザーズ」のブランドを成功させた任天堂のノウハウが生かされるはず…と、勝手に想像しているところですが。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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