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創業185年・伊賀焼窯元長谷園と共同開発:

「日本一おいしいごはんが炊ける」バカ売れ土鍋かまどさん炊飯器に

2017年12月08日 16時30分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)

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 これヤバいです。久々に物欲がゴバゴバ沸騰する音が聞こえてきました。個人的にはバルミューダのめちゃうまトースターを超える衝撃です。すごいぞシロカ。

かまどさん電気 SR-E111
3合炊き 土鍋式炊飯器
直販価格 8万6184円
2018年3月9日発売予定
シロカ
https://www.siroca.co.jp/kamadosandenki/index.html

 なにかといいますと炊飯土鍋「かまどさん」の炊飯器バージョンです。かまどさんというのは創業185年の伊賀焼窯元・長谷園が作っている、ごはんを炊くための土鍋です。火加減いらず・吹きこぼれなしで便利なうえ、とにかくごはんの味が良いということでメチャメチャな人気があります。2000年発売から累計80万台以上を販売し、注文しても半年待ちという状態です。メーカーに嫌われるほどの辛口レビューで知られる『家電批評』も炊飯用品としては最高峰と評価しています。

 シロカがそのかまどさんを炊飯器にしました。

 製品名「かまどさん電気 SR-E111」、来年3月9日発売、8万6184円。いわゆる普通の炊飯器とは異なるデザインで、愛知ドビー「バーミキュラ ライスポット」と同じように本体に鍋をすっぽり入れる構成です。仕様は3合炊き、保温機能なし、予約(タイマー)機能あり。白米・玄米・雑穀米が炊けて、おかゆもつくれます。熱源は暖房器具などに使われるシーズヒーターで消費電力が1300Wとやや高め。電源コードはマグネット形式。炊きあがり後、コードを外して本体だけを卓上に移動できます。使い終わった後に土鍋を乾燥させる「乾燥モード」というめずらしいお手入れ機能もついています。土鍋部分の底には特殊加工を施し、温度センサーで水温を読みとれるよう工夫したそうです。

本体部分と土鍋部分がわかれます

熱源は暖房器具などに使われるシーズヒーター

操作部は湾曲したタッチディスプレイです

電源コードはマグネット式で取りはずせます

 開発にはすさまじい時間と労力がかかったようで、製品発表にはとても力が入っていました。

 開発期間は約4年、これまでの試作台数はのべ500台、炊飯試験では実に3トンものお米を購入・試食して製品を完成させたそうです。シロカ企画担当の杉本みゆきさんは「日本で一番おいしいごはんが炊ける」と自信を見せていました。

 会場で実際に新製品で炊いたごはんを試食してみましたが、米の粒が立ち、光沢がよく、香りが強く、ふんわり噛みごたえがあり、甘く、文句なくおいしかったです。他社が炊飯器の発表会で超高級なコメを使っていてこれはチートではありませんかと感じたことがあったので銘柄を聞いてみましたが、長野県産コシヒカリということでごく普通でした。

炊きあがりのお米。粒が立ち、つやが良いです

うっすらきつね色のおこげができています

冷めてもおいしくお弁当にぴったりという売りです

 なぜかまどさんはおいしいごはんが炊けるのでしょうか。

 理由はまず土鍋の材料となる土がいいからだそうです。伊賀は400万年前びわ湖の底にあり、当時の微生物や植物がたくさん土に含まれていて、土鍋の形にして窯で焼くと、大昔の有機物が燃えつきるため、気孔だらけのスポンジ状になります。そのため熱をもったときの蓄熱性がよく、火を落してからもなかなか温度が下がらず、いわゆる“予熱調理”を得意としているのだそうです。その特性を応用して、1996年から2000年まで4年がかりで開発したのが炊飯土鍋・かまどさんです。

 かまどさんは、構造的には直火部分を肉厚につくり、中に対流ができるよう“戻り”をつけているのが特徴です。普通の土鍋でごはんを炊くと吹きこぼれることがありますが、中ぶた・上ぶたという2つのふたが圧力釜の役割を果たし、吹きこぼれを防いでいます。中ぶたに2つ、上ぶたに1つの穴をつくり、2:1の割合で圧をかけ対流を促してもいます。ふたは重めにできていて、炊飯中に吹いてきたおねばをふたの重みで戻し入れる仕組みになっています。

 しかしかまどさんには弱点がありました。単純ながら直火でしか使えないということです。土鍋はIHにうまく反応しないため、オール電化の家ではほぼ使用できません。

 長谷園には「なんとか電化対応のかまどさんをつくってくれないか」という消費者からの声がたくさん寄せられたそうです。どうにか要望にこたえたいと考えてIH対応のかまどさんを開発してはみたものの、やはり直火炊きの味にはかないませんでした。

 大手メーカーからかまどさんを炊飯器に使いたいと声をかけられたこともありましたが、おなじ理由で断ってきたそうです。中には「何もしてないうちから秘守義務契約書に判をおしたものを持ってきた人もいた」という話ですが、それでも断りました。メーカーとしては高級炊飯器にかまどさんのブランドネームを使いたいという心があったのだと思いますが、長谷園としては「量的にも無理だし効率ばっかりお考えになっていたらうまいものはできない」と突っぱねたそうです。

 シロカからの誘いも2回は断りましたが、「IH熱源にこだわらない」という点について理解を得た上、熱をもって滾々と話す姿に打たれて共同開発を決めたといいます。

 シロカも伝統工芸品である土鍋を使った製品をつくるのは初めてで、開発時はいくつも課題に直面したそうです。たとえば土鍋に熱を与えるためいたずらに温度を上げるだけでは熱の与えすぎで筺体がもたずに溶けてしまうため、試作を続けて最適なフォルムを追及したとか。また土鍋側も通常はサイズがやや不揃いになるのですが、家電としてつくるにはより精密な設計が必要になります。工業規格にもたえられるよう長谷園は土作りから焼成までを一から見直し、専用鍋を開発したそうです。

 長谷園は「作り手は真の使い手であれ」が工房訓。いくら先代から伝承された技術、かつての民具が大事だといっても、時代が進み、昭和が去り、家電製品がこれだけ普及していく中、時代に横を向いているような陶器屋では困る、という考えをしています。伝統と革新の融合です。お題目は飽きるほど目にしますが、実際に会社としてアクションを起こし、成果をあげるまで挑戦を続けるのは本当に大変なことと感じます。そんな長谷園と組んだのが老舗の大手ではなく中堅のシロカだったというのはある種の希望がもてました。大手がのきなみ中国企業に買収され、あるいはブランドを売却してしまう中、日本にはまだ戦えるメーカーがあったんだなという希望です。

 「いろんな縛りを突破して、時代に応じた使い手からの『こんなものがあったらいいのに』という声を聞かせてもらい、それを形にするのが作り手としての使命です」という長谷園7代目当主 長谷優磁さんの言葉に、メーカー本来のあり方も感じました。

 シロカはいままで自動圧力鍋、コンベクションオーブン、コーヒーメーカーなどの調理家電でヒットを飛ばしてきたメーカーです。機能に比して価格が安く、シンプルなデザインが評判です。かまどさん電気はシロカの中でも最高級に位置する勝負をかけた製品です。気合いは十分伝わりました。完成度も相当高いです。現段階ではまだ量産試作機ができていない状態ですが、完成が非常に楽しみです。いわゆるこだわり炊飯器としてはバーミキュラとの2強になりそうですね。


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書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ、家事が趣味。0歳児の父をやっています。Facebookでおたより募集中

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