ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第436回
業界に痕跡を残して消えたメーカー Appleに不満を抱くメンバーが立ち上げたNeXT Computer
2017年12月04日 12時00分更新
最初のマシンNeXT Cubeをリリース
マルチタスクOS「NeXTSTEP」を同梱
最初のマシンであるNeXT“cube”(実はこれは正式名称ではない。正式名称は“NeXT Computer”である)は1988年10月に発表され、同年12月に出荷された。CPUはMotorolaのMC68030 25MHzで、メモリーは8MB(最大64MB)。他にDSP(Digital Signal Processor)としてMotorolaのDSP56001(25MHz)も搭載されていた。
画像の出典は、“Obsolete Technology Website”
ちなみに当初、CPUとしてはMC88000も検討されていたらしいが、十分な数量が入手できないということで却下されていた。これを採用していたら、この後のNeXTがどうなっていたか、想像するのも難しい。
グラフィックスに関しては、インテルのi860が搭載されており、これがグラフィックス処理に加えて後述のディスプレー・ポストスクリプトの処理も担っていた。ただし画面そのものは4階調のグレースケールで、解像度も1120×832ピクセルとそれほど大きくない(モニターは17インチ)。
ストレージとしては容量が40/330/660MBのHDDに加え、256MBの光磁気ディスクを搭載している。OSはCMU(カーネギーメロン大学)でMach OSの実装などに携わっていたAvie Tevanian氏が途中からNeXTに参加しており、Mach Kernel(Mach OSのコア部分となるマイクロカーネル)をベースにさまざまな要素を組み合わせたNeXTSTEPが提供された。
実はこのNeXTSTEPが、ある意味Jobs氏の語った「使いやすさ」を体現する実態としてもいいかもしれない。例えば画面表示はディスプレー・ポストスクリプトをAdobeと共同開発することで実装したが、このディスプレー・ポストスクリプトの開発が進む段階で、これに対応したOSがその時点で存在しないことが判明、それもあって既存のBSDなどではなく、あえてMach Kernelベースで新規のOSを構築した形になる。
ちなみに画面表示にポストスクリプトを利用するのはNeXTSTEPが初めてではなく、SunOSの上で動くNeWS(Network extensible Window System)というウィンドウシステムがこの時点ですでに存在していたが、確かにポストスクリプトを画面で表示できるとはいえ、使いやすいかと言われると「?」であった(*1)。NeXTSTEPのディスプレー・ポストスクリプトは、これに比べるとずっと使いやすかった。
(*1)筆者も触ったことがあるが、使い難さにすぐ飽きた。
Jobs氏がポケットマネーで工場を建設
キヤノンも出資
さて当初NeXT cubeはVersion 0.9のNeXT STEPを同梱して、教育機関など特定顧客向けに6500ドルで出荷開始された。ちなみに同社は1987年に、年産15万台の生産能力を持つ工場をフリーモントに建設している。
1985年設立のベンチャーではあるが、そもそもJobs氏が自身の保有していたApple株の売却益から700万ドルを突っ込んだほか、1987年には(1992年の大統領選に民主党から出馬しようとしたことでも有名な)Henry Ross Perot氏が2千万ドルを出資しており、他にベンチャーキャピタルなどからの資金も合わせて会社の時価総額は1億ドルを超えていた。
こうした資金を利用できたからこその芸当である。とはいえこの工場は、NeXT時代には一度もフル操業状態にならなかったが。また工場を建設するとともに、自社でNeXTSTEPを初めとするソフトウェアも提供するという総合的なコンピュータメーカーになったこともあり、社名もそれまでのNeXT Inc.からNeXT Computer Inc.に変更している。
この最初のNeXT cubeは、コンピューター雑誌などのレビュー用にも提供され、多くのユーザーがそのレビューを読むことになった。当然ながら人気は高まりつつあり、それに向けて同社は当時Compaqのマシンを再販していたBusinessLandと契約。日本でもキヤノン販売が同社の代理店契約を結んでおり、さらにキヤノン自身もNeXT Computerに1億ドルの出資を行なっている。
NeXT cubeが一般発売
廉価版のNeXT stationも登場
一般発売の準備が整った1990年9月、やっとNeXT cubeの一般発売も開始される。この一般発売向けのものは、CPUが25MHzの68040になり、最小メモリー構成も16MBから(最大は64MBのまま)、またHDDも400MB/1.4GB/2.8GBに容量を引き上げている。
もっともその分価格も上がり、9999ドルからとなっている。なおこの9999ドルのものが、正式にNeXT cubeという名称になっている。
ちなみにデフォルトでは4bitグレースケールのままだが、i860とC-cubeのアクセラレーターを搭載したNeXTdimension(3995ドル)という拡張カードを追加するとカラー表示も可能だった。
このNeXT cubeとあわせて発表された廉価版がNeXT stationである。スマートフォンの分解でおなじみiFixitのドイツサイトがNeXTstationの分解記事を出しているので、内部に興味ある方はこちらをご覧いただくのが早い。
“the slab”(厚板)スタイルと同社は呼ぶが、これはPizza Box Styleという表記はSunのSPARCstatonシリーズを指すことが多いので、それを嫌った結果である。
基本NeXT cubeとそれほど違いはないが、カラー表示に対応したほか、高価な光磁気ディスクドライブを省き、代わりにCD-ROM(1倍速)を装備した。薄型ということで拡張性はだいぶ削られているが、その代わり基本価格は4995ドルと半額に落ちている(モノクロ版。カラー表示可能なNeXTstation Colorは7995ドル)。また3.5インチFDDも装備したが、通常の1.44MBではなく2.88MBのものが搭載されるあたりはいかにもである。
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