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AIコミュニティからAIチップ「Project BrainWave」までMS榊原CTOが解説

なぜマイクロソフトは競合アマゾンとAI開発で協力するのか

2017年09月22日 09時30分更新

文● 羽野三千世/TECH.ASCII.jp

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日本マイクロソフトは9月15日、AIの研究開発に関する記者説明会を開催。同社 執行役員 最高技術責任者(CTO) 榊原彰氏が、Microsoft Researchの研究開発体制やマイクロソフトが参加するAI関連プロジェクト、提供中のAI関連サービス、開発中のAIチップについて解説した。

日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者(CTO) 榊原彰氏

 マイクロソフトのR&D組織であるMicrosoft Researchは1991年に設立され、現在は世界10拠点にラボがある。本拠地はレドモンドの米マイクロソフト本社敷地内にある「Building 99」だ。同社のR&D費用は日本円換算で約1兆円強。この巨額の研究開発予算と、自社クラウドデータセンターの豊富なコンピューターリソースをもってAIの開発を進めている。

 Microsoft Researchが開発するAIの画像認識技術と音声認識技術は、すでに人間の認知能力以上の精度を達成した。画像認識においては、2015年に行われた画像認識コンペティション「ImageNet」で人間の画像誤認識率5%よりも高精度な3.5%の値をマーク。また音声認識でも、人間の速記者と同レベルの単語誤り率5.1%を達成したことを8月に発表している。

Microsoft Researchの拠点

 自社のAIの精度向上に大規模な投資をする一方で、「(競合他社と)右手で握手しながら左手で殴り合うのがAI開発の世界」と榊原氏が表現するように、マイクロソフト、IBM、Google、FacebookなどAI開発のリーダー企業各社は、AIエンジンをオープンソース化し、外部のAIコミュニティではパートナーとして連携している。例えば、2016年9月に設立されたコミュニティ「Partnership on AI」では、マイクロソフト、IBM、Google、Facebook、Amazon、Appleなどが、AIの普及と利用に関する研究活動で協力している。

 さらにマイクロソフトは、非営利のAI研究組織「OpenAI」とも提携した。OpenAIは、テスラCEOのイーロン・マスク氏らが立ち上げた組織。マイクロソフトは、AI研究開発用のコンピューターリソースとしてMicrosoft AzureからGPU搭載VMなどをOpenAIに提供している。

 AI分野で開発プレーヤー企業各社と連携する理由について、榊原氏は「汎用AIの実現はまだ先の話。しばらくは、各社の特化型AI同士が連携し、それぞれの強みを生かしてサービス品質と機能を高めていく世界が続く。だからこそ各社がパートナーとなってAI同士が会話できる共通プロトコルを作っていくことが重要」と説明した。

 異なる性質のAI同士が共通プロトコルで会話する代表的な例が、8月に発表されたマイクロソフトの音声認識アシスタンス「Cortana」と、Amazonの音声認識アシスタンス「Alexa」の相互接続だろう。これは、CortanaとAlexaの両方が「スキルを呼び出して実行する」という共通設計になっているために実現できたものだ。「Amazonアカウントで買い物をする」などのAlexa独自のスキルをCortanaから呼び出したり、Microsoft Officeのスケジュールを確認するといったCortana独自のスキルをAlexaから呼び出したりすることが可能になる。

Cortanaのスキル

インテリジェントエッジ構想を実現する「Project BrainWave」

 新たな経営戦略として「インテリジェントクラウド&インテリジェントエッジ」(クラウドとエッジデバイスの両方にAIの機能を持たせる、エッジAI同士が連携するなどの構想)を掲げ、マイクロソフトのビジネスはますますAIフォーカスになってきた。

 同社はこれまでも、深層学習フレームワーク「CNTK」をベースに、AIを実現するための機械学習アルゴリズムをサービスとして使える「Azure Machine Learning」や、「畳み込みニューラルネットワーク(CNN)」と呼ばれる深層学習手法でトレーニングした画像認識・音声認識・機械翻訳などのAIモデルをアプリケーションに実装するためのAPI群「Cognitive Services」といったAI関連サービスを提供してきた。

 これに加えて、同社は現在、OfficeやWebブラウザ、サーバー製品へのAI機能の実装を進めている。例えば、OutlookやEdge、PowerPoint、Word向けに音声認識、機械翻訳のアドインを提供しているほか、次期SQL Serverでは機械学習機能を実装する予定だ。

Webブラウザ「Edge」に機械翻訳AIを追加するアドオン「Translator for Microsoft Edge」

 Cognitive ServicesのAI APIやOfficeのAIアドオンは、AIエンジンをクラウド側に持ち、「インテリジェントクラウド&インテリジェントエッジ」構想でいえば“インテリジェントクラウド”の方のサービスになる。エッジ側にAIエンジンを持たせる“インテリジェントエッジ”のための新しいプロジェクトとして、同社は8月、カルフォニア州クパチーノで開催された半導体チップカンファレンス「Hot Chips 2017」で、リアルタイムAIを実現するハードウェア設計「Project BrainWave」を発表した。

 Project BrainWaveは、インテル製の市販FPGA「Stratix 10」の上に実装したハードウェア深層学習エンジン、ソフトウェア的に実装した分散システムアーキテクチャ、学習済みモデルを素早く展開するためのコンパイラーとランタイムで構成される。深層学習フレームワークとしてマイクロソフトのCNTKとGoogleの「Tensorflow」をサポートしている。

「Project Brainwave」

 榊原氏によれば、Project BrainWaveは、2016年9月の「Microsoft Ignite 2016」基調講演で機械翻訳のデモ(ロシア語で書かれた1440ページの『戦争と平和』を2.6秒で英語に機械翻訳処理してみせた)に使われたFPGA搭載基盤が、具体的な設計として出てきたものだという。「Project Brainwaveをエッジデバイスに搭載すれば、Cognitive Servicesの画像認識や機械翻訳のような現在クラウド上のAIエンジンが行っている処理が、エッジ側で完結できるようになる」(榊原氏)。

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