最新ユーザー事例探求 第47回
創業387年目の一の湯、Oracle Service Cloudで「安く/気軽に/便利に」のヒントを得る
箱根の老舗温泉旅館がクラウド型FAQ導入で「発見」したこと
2017年09月05日 07時00分更新
国内有数の観光地である箱根(神奈川県足柄下郡箱根町)。一の湯は、そんな箱根の塔ノ沢、仙石原、芦ノ湖の各地区に合計7つの宿泊施設を持つ、温泉旅館/リゾートホテルグループだ。1630年(寛永7年)創業、380年以上の歴史を誇る老舗旅館であると同時に、近年では「安く」「気軽に」「便利に」をモットーに掲げ、積極的な宿泊の低料金化を推し進めてきたことでも知られる。
その一の湯が今年、自社Webサイト内の「よくある質問(FAQ)」ページに、オラクルのカスタマーサービス向けクラウドサービス「Oracle Service Cloud」を組み込んだ。その結果、顧客サービスの改善や問い合わせ対応業務の効率化につながっただけでなく、宿泊客が入力する検索キーワードからさまざまなビジネスヒントが得られているという。
増加を続ける訪日旅行客への対応も含めた顧客サービス改善、そして老舗温泉旅館の経営改善に、クラウド型ITがどのように役立っているのか。今回は、一の湯 常務取締役 商品開発本部長の小川尊也氏、同社 営業マネージャーの福岡昭憲氏に話を聞いた。
「安くて気軽に泊まれる宿」を目指し、徹底した業務効率化を進める
一の湯ではおよそ30年前の1980年代後半から、現社長(15代目)である小川晴也氏の方針のもと、宿泊料金の低料金化に取り組んできた。
「30年前の当時は1泊3万円、5万円がふつうだったものを、『お客様のニーズに合っていない』と1泊1万円前後にし、安くて、気軽、便利に泊まれる宿に変えました」。常務取締役 商品開発本部長を務める小川尊也氏はこう説明する。当時はほかの旅館から「箱根の価格を壊すのか」と反発もあったというが、現在では空き室の稼働率を高めるため格安料金で提供することも一般的になっており、一の湯には“先見の明”があったと言えるだろう。
ただ、当然ながら単に低料金化するだけでは利益は減ってしまう。また、宿泊業には「部屋数」という制約があるため、いくら稼働率を高めても売上の限界は決まっている。そこで一の湯では、ビジネス指標として「人時(にんじ)生産性」を取り入れた。人時生産性とは、1人の従業員が1時間あたりで上げる粗利益高のことだ。小川氏によると、ファミリーレストランでは約3500円、製造業では1~2万円の人時生産性が一般的だという。「30年前の一の湯では1700円でしたが、これを5000円まで引き上げることを目標にしました」(小川氏)。
ここで採用したのが、近代的なチェーンストア経営の理論だった。多店舗化(当時2店舗→現在7店舗)とセンター化(予約窓口の一元化やセントラルキッチンの採用)を図り、部門別管理を行うことにした。
もちろん、サービスの質が低下して“安かろう、悪かろう”になってしまうのでは、中長期的には顧客が離れていってしまう。そこで、人的コストのかかるサービスについては、本当に顧客ニーズに見合っているかどうかを検討し、たとえば客室での部屋食や下足番といった、従来の温泉宿では当たり前だったサービスをやめることにした。一方で、ニーズのあるもの(アクティビティ付き宿泊プランなど)については常に商品化を検討し、付加価値を高めていく。
こうした取り組みを徹底してきた結果、昨年には人時生産性が「5040円」となり、目標を達成できた。さらに収益性を向上すべく、現場レベルでは次の目標となる「6000円」を目指して努力を続けているという。
訪日旅行客比率が40%、オンラインで宿泊客の心をつかむために
一の湯におけるもうひとつの特徴が、宿泊客に占める訪日旅行客比率の高さだ。箱根町がまとめた資料によれば、町全体では宿泊客のうちおよそ10%が外国人客(訪日旅行客)だが、一の湯ではその比率が「約40%」と非常に高い。
営業マネージャーの福岡氏によると、とりたてて海外からの旅行客だけを重視してきたわけではない。ただ、比較的早期の1996年からWebサイトを開設していたこと(当時から簡単な英語版ページを提供)、1997年から露天風呂付き客室を提供していること(大浴場には抵抗感のある訪日旅行客でも安心)など、国内旅行客向けに改善してきたことが半ば偶然に作用して、訪日旅行客比率は徐々に高まってきたという。
「2009年ごろから空室をWebで公開していることも理由のひとつです。海外から来られるお客様は3カ月前、6カ月前と比較的早く予約をいただきますので、国内のお客様が予約しようとしたときにはもう埋まってしまっている、ということもあります」(福岡氏)
2010年代に入り、旅行客の予約行動はいちだんとWeb/オンライン中心にシフトしている。特に訪日旅行客の場合は、Webを使って情報を収集し、プランを立て、そのままWebやメールで予約に移るケースが多いはずだ。実際に一の湯の場合も、自社Webサイトとオンライントラベルエージェンシー(OTA、じゃらんや楽天トラベル、Booking.comなどのオンライン旅行業者)を合わせ、現在では宿泊予約の「およそ70%」はオンライン経由だという。したがって、オンラインで顧客の心をつかみ、宿泊予約までスムーズにつなげることが肝要となる。
ちなみに、自社WebサイトやOTAからの宿泊予約は「サイトコントローラー」と呼ばれる旅行業向けシステムを介して、一の湯の基幹システム(空室管理や予約台帳など)で一元化される。一の湯には専任IT担当者はおらず、基幹システム、サイトコントローラー、Webサイトそれぞれを構築するSIベンダーの間を、福岡氏が仲介するかたちでシステムを構築している。
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